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いいところを見せたい!

相変わらずサーヤさんは淡々と仕事をこなしていた。イリノも相変わらずギルドに顔を出して日々の食事にありついていた。彼女とは挨拶だけでなく、時間があれば一言二言の言葉を交わすようになり、以前よりも打ち解けてきたようにも思えた。


イリノにとっては、彼女と言葉を交わすと、いつも新たな発見があった。


そもそも彼女は、言葉がイリノらのものとは少し違っていた。仕事柄のせいか、丁寧語を尊敬語、謙譲語を見事に使い分けている。一方のイリノも、父親の許にはそれなりの身分の者の来客もあった――父親は貴族や軍人たちの剣を作っていた――ために、言葉遣いに関しては厳しく仕込まれ、同世代の若者よりはかなり大人びた言葉づかいをするが、サーヤさんの言葉は、それとは比較にならないほどの品があった。彼は彼女との交流を通して、上品な言葉づかいを勉強していたのである。


……どうしたら、もっとあのひとの近くに行けるだろうか。


そんなことを考えてみるが、何を、どうすればいいのかわからなかった。ただ、思いつくのは、できるだけ彼女の傍にいて言葉を交わし、関係を深めていくことだった。


彼はサーヤさんの家も探してみた。店の近くに住んでいると本人から聞いたが、周囲は店や住居が立ち並び、雑然とした場所で、その住まいを探すのは至難の業だった。彼女とはあの深夜の時間に会ったきりで、マリノラなどに聞いてみても、知らないという返事が返ってくるばかりだった。本人に直接聞いてみたいとは思ったが、どうやって話を持っていけばいいのか、彼にはわらなかった。


相変わらず眠れない日々は続いていた。当初に比べれば幾分か眠れるようにはなったが、それでも、睡眠時間は四時間程度だった。


そんなある日、イリノはいつものようにギルドに朝食を摂りに出かけた。すでにサーヤさんはカウンターの奥に座り、仕事をしている。ジークリフトは……いない。彼女の手が空いたら挨拶に行こうといつもの席に座ると、鎧と槍を装備した兵士が数名、ドヤドヤと押し入ってきた。一体何事かと、ギルド内が緊張に包まれる。


「我々は王国軍の者である。これから緊急の徴兵を行う。十五歳以上の男を徴兵する。強制ではない。あくまで志願という形である。志願する者は手を挙げろ!」


ドスの利いた声だ。そこにいた全員がシンとして誰も声を発する者がいない。ふと見ると、サーヤさんが両手を胸の前で組み、心配そうな面持ちで兵士たちを眺めている。


……彼女の傍にいてあげなければ。


イリノは彼女の傍に行こうとした。そのとき、


「志願する」


突然男の声が聞こえた。その主は、ジークリフトだった。彼はギルドの入り口に立ちながら手を挙げていた。それに釣られるようにして、数人の男がポツリポツリと手を挙げた。


再びサーヤさんを見る。彼女はジークリフトに視線を向けていた。彼に頼もしさを感じているように見えた。


「おっ、俺も……」


思わずイリノは手を挙げた。俺もそのくらいは出来るのだと彼女に見せたかった。いいところを見せたかった。サーヤさんはまた、驚いた表情で彼に視線を向けていた。


「よぅし! 今手を挙げた者はこっちへ来い。早く来い!」


イリノは兵士の一人に襟首を持たれて、その場から連れ出された……。

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