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3話 魔法史と魔法鉱石

 



「魔法史担当のノレッジ・ネブラだ。それでは、生徒諸君。教科書8ページを開きなさい」


 自己紹介と呼べるほどもない簡潔な自己紹介を済ませたノレッジ先生は、丸い眼鏡をくいと持ち上げると、息をつく暇もなく教科書を読み進めていく。


「諸君も知ってのとおり、この世界は五つの国で構成されている。始まりの国でもある水中都市エストラルに、エストラルの水面に位置する瑞穂の国オルテンシアがある」


 杖を黒板に近づけるだけで、文字が書かれていき、ノレッジ先生の説明に合わせて、プロジェクターのように国の映像が映し出されては消える。


「更に、北には情報と商売の国である九龍寨城 陽華商虎(ヤンファシャンフー)があり、西には探求者の国シャルム、そして東にあるのがこの国、学園都市ペスカアプランドルだ」


 水中都市、学園都市と謳っている二つの国には、明確な王様がいないのだそうだ。


 水中都市は王家と神殿で国を治めていた名残りから、王家の力の弱い時期が続いていた頃に呼ばれるようになったからだといい、学園都市は普通の学校のように学園長が存在し、街はそれぞれの街で代表者が管理をしているのだという。


 それだけでも、初めて聞く情報ばかりの紫苑にとって、歴史の授業は現代の日本史よりも複雑な話だった。


(――あ、ノレッジ先生の眼鏡の縁にお洒落なアクセサリーみたいなのついてる……青い瞳も綺麗だし、髪も天パっぽいけど透明感あって黒髪なのにもさっとして見えないし……意外とお洒落好きなのかな?)


 早くも現実逃避を始めた紫苑を、隣の席のジェイドがペンでつついてきた。

 しかし、ジェイドの方を向くと、その更に横に座っていたフリージアがこくりこくりと船を漕ぐのが見えた。


「私達が魔法を使用する際、杖や指輪など媒体を必要とする理由は、勿論分かっているな? フリージア・エキナセア」


 突然、名指しされたフリージアは、びくっと立ち上がると慌ててジェイドに耳打ちをした。


「ジェイド……今、なんの話してたっけ……?」


 ジェイドが助け舟を出す間もなく、大きな溜息をつくとノレッジ先生はジェイドを指名した。


「……もういい。質問の確認をしている時間が無駄だ、フリージア・エキナセアは減点だ。ジェイド・アルメリア、答えなさい」


「はい。俺たちには個人ごと魔力が備わっていますが、魔法鉱石の使用無しでは、魔力を認識する術を持ちません。その為、魔法を使用する時には、魔法鉱石がつけられている媒体を使用しなければなりません」


「宜しい。座りなさい」


「はい」


 すらすらと答えるジェイドに驚いていると、遠くの席でジンガが睨む姿が見えた。


「魔力量、魔力の特性、は個人により、違ってくる。そして、その力を引き出す媒体が魔法鉱石だ。魔力の特性とは……」


「はい! 個人が持って生まれた要素で、それによって得意な魔法の種類や、個人だけが使用出来る魔法が決まってきます。魔法鉱石も補助として、色により媒体としての属性が決まっています」


 ジェイドに張り合うように、指されてもいないのにジンガは立ち上がると魔力について語り出す。どうやら嫌味なだけではなく、能力はきちんと備わっているらしい。


「ジンガ・フラーウィス。私は質問をしていません、座りなさい」


 その知識を褒められると思っていたのだろう。淡々とした声で窘められるとジンガは驚いた顔をして、慌てた様子で席に座った。


 ジンガの表情は、すぐに苛立ちへと変わり、先刻ノレッジ先生に褒められていたジェイドを睨みつける。


「ジェイドも大変だね……。あれは完全に逆恨みじゃん……」


「まぁ、ね……。ジンガも頭は良いんだけどなぁ」


 その続きは、自己顕示欲が凄いんだよね、とかだろうか。ジェイドは困った表情で苦笑いした。


「魔法鉱石の種類には、ルビーは炎、サファイアは水、など属性が決まっている為、魔法の補助に使用する」


 そう言うと、ノレッジ先生は自身の杖を掲げると光を灯して見せた。


「また、このように多彩な魔法を使用する為、媒体は基本的には万能なダイヤモンドが埋め込まれている。これは、ダイヤモンドのような万能な魔法鉱石は、魔法式と組み合わせる事で複雑な魔法を使用出来る為、個人の特性が使いやすいからだ」


 説明しながら、杖の先に火を灯したり、風を吹かせたりと、属性の違う魔法を使用したりと、実演してみせる。


「特性については、教科書16ページより次の授業で説明しよう。諸君らの中には、知識をひけらかしたい者もいるのだろうが、付け焼き刃の知識は重大な間違いを招くことになる。初心に戻って聞くように」


 ジンガへと向けた嫌味を織り交ぜながら、ノレッジ先生の魔法史の授業は幕を閉じようとしていた。


「諸君らのこの後の授業はエクレール先生か……。ならば、手始めに個人の魔法特性の把握をするだろう」


 何を考えているのか、ノレッジ先生は意地悪そうに、にやりと笑って言った。




「せいぜい、役に立つ魔法が使えるように祈るんだな」




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