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2話 クラスメイト

 



「それじゃあ、心の準備はいいかい?」


 キンコン、と始業のベルが鳴る。

 エクレール先生の言葉に頷くと、先生はガラリと教室の扉を開けて教室の中へ入るように紫苑を促した。


「さぁ、皆がお待ちかねの転入生だ」


 おずおずと教室の扉をくぐると、まるで大学の教室のような長い机が、教卓を囲むように階段状に並べられていた。


「はじめまして! 星守紫苑(ほしもりしおん)です。魔法を習うのは初めてなので……色々教えて貰えると嬉しいです!」


 第一印象は大事だ。

 紫苑が微塵も緊張を感じさせない笑顔で、ハキハキと挨拶をすると、教室からまばらに拍手が聞こえてきた。


(――良かった。そんなに印象は悪くはないみたい)


「星守さんは二年生からの転入ではあるけど、本人も言う通り魔法について学ぶのは初めてだそうだから、最初は分からない事があっても焦らずにいこう。皆、仲良くしてあげてくれ」


 エクレール先生に後ろの方の空いた席に座るようにと言われて、後ろから二番目の机に移動すると、優しそうな雰囲気のピンクのボブヘアーの女の子がおいでおいでと手招きをした。


「ねぇねぇ! こんな時期から転入なんて大変だね。分からない事があったらなんでも聞いてね! あ、私は勉強苦手だから、勉強の事だったらこっちに座ってるジェイドに聞いてね!」


 ジェイドと呼ばれた若草色の髪の男の子が、ぺこりと会釈をした。


「俺はジェイド・アルメリア。こっちの名前を名乗り忘れているのが、フリージア・エキナセア。これからよろしくな、転入生」


「あれ!? 私、名乗ってなかった? 私はフリージア。よろしくね!」


「よろしくね。ジェイド、フリージア。私の事は紫苑って呼んで!」


「オッケー! 星守紫苑って珍しい名前だね。響きがオルテンシアの人みたい」


「そうなの? 確かに、皆の名前と違うかも……」


 紫苑がこの世界で会った人達の中に、自分のような日本人の名前の人はいなかった。

 異世界では異国風の名前が普通なのだと思っていたが、五つの国によって違うのかもしれない。


「うん! オルテンシアの人は、ラストネームが先で、ファーストネームが後ろに来るんだよ。紫苑もファーストネームがシオンなんでしょ?」


「俺達は、この学園都市出身だから、身近にいた人はだいたいファーストネームが先かな」


 成程、と国の違いに驚いている紫苑を鼻で笑うように、後ろの席に座っていたオレンジの髪の男の子が嫌味な声で話しかけてきた。


「そんな事も知らないなんて、どこの田舎者なのかね。こんなお荷物がクラスメイトになるなんて……授業で足を引っ張らないで貰いたいね」


 なんて、お手本みたいな……。相手にすることはないな、と無視する紫苑にはお構い無しに、髪をかきあげながら家柄の自慢が始まった。


「僕の家は代々続いている魔法貴族だから、家を次ぐためには立派な魔法使いにならなければいけないんだ。君みたいなお荷物に関わってる時間なんてないし、正直……存在自体が勉強の妨げになりそうだ」


「はぁ……いい加減、そういうのはやめろよ。フラーウィス」


「ふん。君達のような田舎の平民に、この重責は分からないだろうね」


「お前が頑張ってるのは知ってるんだからさ。そうやって、わざわざ敵を増やす必要なんかないんだぞ」


「――っ! そうやって善人面して……僕を馬鹿にしているのか。ジェイド・アルメリア!」


 紫苑へ嫌味を言っていた事など忘れてしまったのか、フラーウィスと呼ばれた男は、ジェイドへと食ってかかる。


「……ジンガっていつも試験で二位でね。こう見えて、ジェイドはずっと首席だったから、ジンガに目の敵にされてるんだ」


 ひそひそと、フリージアが紫苑へ耳打ちすると、ジンガ・フラーウィスは鬼のような形相でこちらを睨んできた。


 ジェイドが嗜めるも、聞く耳を持とうとせずにジンガは紫苑へ捨て台詞を吐くと、教室を後にした。


「いいか。君みたいに遊び半分でこの学園に来ているような奴が、僕の邪魔だけはするなよ! どうせ、録な魔法も使えないんだろうからな!」


「なに、あれ! あんなに清々しいくらいに嫌味な奴、初めてみたんだけど!」


 ああいう奴だから気にするな、とジェイドとフリージアは言うが、腹が立つのだから仕方がない。


(――マルポイかよ……)


 紫苑はかつて見た映画の悪役を思い浮かべては、そっくりだなと、心の中で悪態をついた。


(あぁ……。会ったこともないハーポリーもきっとこんな気持ちだったんだろうな)


 映画の主人公に思いを馳せ、心を落ち着けようとする紫苑に、心配そうにジェイドとフリージアが大丈夫かと声を掛ける。


「二人ともありがとう、私は大丈夫だよ。ただ……ちょっとアイツを見返してやりたいだけだから」


 そうして、紫苑はその苛立ちを意欲へと変換して、力強い足取りで初めての授業に向かうのだった。


「フリージア! 最初の授業って何の授業なの?」


「えっと……」


 予定表を見て、フリージアの顔色が悪くなる。


「最初の授業は、魔法の歴史と座学……かな。寝ちゃわないように頑張ろうね! 紫苑!」


 早くも歴史という言葉に、拒否反応を示す紫苑とフリージアを交互に見ながら、ジェイドは微笑んだ。




「心配しないで。俺が叩き起してあげるから、ね?」



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