15話 暴走
紫苑の掛け声とともに、白い光が辺り一面を覆い尽くす。
範囲型の魔法だろうか。
かなり広範囲に渡る白い光が、辺りを包む。
「……何も、起こらない…………?」
待てども周囲に変化は見られない。
「まさか、不発ってこと?」
紫苑が不安げに呟くと、エクレール先生は安心させるように言った。
「変異型の人が初めて魔法を使う時には結構あることなんだ。どうしても、使うまでは何が起こるのか誰にもわからないからね。目に見えて変わらないものだと、なかなか気づいてあげられないんだ」
「……一応、なんですけど、まさか人体に悪影響があったりとかって、しないですよね……?」
「それだけは心配しなくて大丈夫だよ。学園内には人体に危害が及ぶような魔法が使用された時には、自動で結界内の人を保護する結界魔法が施されているからね。以前、毒魔法の使い手が現れてからは、より強固になったと聞いているよ」
「よかった……」
魔法が発動しなかったことよりも、無意識に悪い影響が出ていたら、と考えて不安になっていた紫苑は、ほっと胸を撫で下ろした。
「紫苑の魔法は少しずつ解明するしかなさそうだね。僕達だけでわからなかった時には、探求者の国シャルムの人を頼ることも視野に入れないとね」
エクレール先生はそう言うと、サラサラとノートへ紫苑の結果を書き込んでいった。
「次はジンガ。始めてくれるかな?」
エクレール先生に呼ばれて、紫苑と入れ替わるようにジンガが前へと歩み出た。
紫苑には目もくれず、俯いたままぶつぶつと何かを呟いている。
「ねぇ、ジンガの様子……なんか変じゃない?」
フリージア達の元へ戻ってきた紫苑がそう言うのと同時に、ジンガの杖へと凄い勢いで魔力が溜まっていった。
あっという間に巨大な水の塊が生成される。
「凄い! なにあの大きさ!」
「……いや、いくらジンガの魔力でも最初からあの威力はおかしい……!」
頭上に生成された大きな水の玉が、周りの魔力を取り込んでどんどん膨れ上がっていく。
ついには、校舎と同じ高さまで膨れ上がった水球が周りのことなどお構い無しに、木々や植木を飲み込んでいった。
「ジンガ! 威力は十分だ。周りのものを巻き込まないようにコントロールに集中するんだ!」
エクレール先生がジンガに向かって叫んだが、その声は届いていないようだ。
「……またか。……それにしても、魔力が大きすぎる……! ジンガの様子がおかしい……。皆、逃げるんだ!」
肥大化していく魔力の塊のような水球を見て、エクレール先生が避難指示をする。
非常事態であることを察して慌てて校舎の中へ駆け込もうとすると、水球が分裂して生徒達へと襲いかかった。
「……危ないっ!」
エクレール先生の杖が光る。
身体強化されたエクレール先生が、光の速さで次々と逃げ遅れた生徒達を抱えて避難させていく。
その視線の先にはジンガの魔法から庇う為に、ジェイドが風魔法を使って遠くにいた生徒を浮かせているのが見えた。
「流石、ジェイド!」
精密なコントロールが必要だろう技を、土壇場で成功している辺りが優等生たる所以だろう。
「ジェイド・アルメリアァァァァアアア!」
虚ろな目をしながらも自我が残っているのか、生徒たちに感謝されているジェイドにコンプレックスを刺激されたジンガが獣のように吠えた。
口の端から唾液を垂らした姿は、もう正気とは言えなかった。
暴走するジンガの矛先は、木の陰で怪我をおった生徒に回復魔法を当てていたフリージアへと向けられた。
ジンガが杖を大きく振ると、水球がフリージアを目掛けて勢いよく飛んでいった。
「フリージア! 危ないっ……!」




