12話 不思議な出会い
「すまない、先客か」
店を出ようとする男を、紫苑は思わず引き止めていた。
「待って! 私は選ぶのにまだ時間がかかるから大丈夫だよ!」
実際にまだまだ選ぶのに時間をかけるつもりだったのだ、外で待っていてもらうのは忍びない。
それに、男の持つ異様な雰囲気に紫苑は目が離せなかった。
「……そうか。ならば、その厚意に甘えよう。店主」
「注文の品は出来ているよ。持ってくるから奥で待っていておくれ」
「……あぁ、わかった」
店主が店の奥へと注文の品とやらを取りに行く。男と二人きりで残されてしまった紫苑は、沈黙が気まずくて恐る恐る話しかけた。
「……あの、どんな杖を注文したんですか?」
「……どうしてだ」
「いや、えっと、私……今から初めての杖を作るんだけど、参考になるかなーって思って……」
「初めて……?」
男が紫苑をまじまじと見つめた。
幼い頃から魔法に触れているはずのこの世界で、もうすぐ二十歳くらいに見える紫苑が、初めての杖を持つというのを不思議に思ったのだろう。
「あぁ! 私、この学園に来たばかりで、それまであまり魔法に触れてこない生活をしていたから、魔法を使うのも初めてなんです!」
「……そうか、すまない。込み入ったことを聞いたな。……それなら、始めはあまり複雑な形状の杖は辞めた方がいい」
何を勘違いしたのか何故か深刻そうな表情で謝ると、男は店に陳列されているシンプルな杖を指さして言った。
「魔法を使ったことがないのなら、幼少期に練習用として使用するようなコントロールのしやすいシンプルな杖の方がいいだろう」
「そんなに変わるものなの! ですか……?」
「……話しづらいのなら普通に話せばいい。個人の魔法にあったカスタマイズもあるが、装飾なんかは狙いを定めるのに邪魔になるからな。魔法に慣れてきてからでもいいだろう」
「ありがとう! 私、敬語とかって苦手だから助かるよ! ……なるほど、じゃあ装飾とか拘るのは魔法を覚えてからにしよーっと」
「……お前は不思議だな。あんなに迷っていると言っていたのに、会ったばかりの俺の意見で即決するのか」
「そりゃあ、そうでしょ! なんにも知らないで見た目だけ可愛くしたって意味ないもん。詳しい人の意見を取り入れるなんて、当たり前のことでしょ?」
「……そうか。お前はそう、考えるのか……」
あっけらかんとした紫苑の言葉に、男が一瞬だけ切なげな表情で目を伏せた。
「っていうか、自己紹介まだだったね。私は紫苑、星守紫苑。名前で呼んで! 私……お前って呼ばれるの、好きじゃないんだよね」
「……俺は、」
男は少し躊躇うと小さな声で名前を名乗った。
「…………ノワールだ」
「……ノワール。これも何かの縁だし、宜しくね。ノワール!」
自己紹介を終えたところで、店主が黒い箱を持って戻ってきた。
「ねぇ、私も見てもいい?」
「……構わない」
黒い箱の中には、艶々とした加工のされた真っ黒な木で作られた模様も何も無い杖が入っていた。
「これが、ノワールの杖?」
杖のことなど分からないけれど、ノワールが使うには少し小さく見えて、紫苑は首を傾げた。
「……幼少期に使っていた物を修理に出しただけだ。今も使うわけじゃない」
「へぇ、大切にしてるんだね」
「……母から貰った物だからな」
「いいお母さんだね! そうだ、私も魔法使いとしては生まれたてなわけだし、こんな感じの杖にしたい!」
それでもダイヤをはめるところのデザインだけは拘りたいのだと、わいわいと店主と相談を始める紫苑を横目に、ノワールは怪訝な顔で受け取った杖を見つめていた。
「どうして、初対面の相手にあんなことまで話してしまったんだ……」
その問いかけに応えるものはなく、ノワールはそっと杖を箱にしまった。
どうやら紫苑の杖選びもすぐに終わったようで、白い杖の入った箱を抱えて早足で戻ってくる。
「じゃじゃーん! どう? 私の初めての杖、可愛いでしょ! ダイヤのところを花柄にしたんだよ!」
ぐいっと箱をノワールに近づける。
ダイヤのはまるところに花の模様が掘られており、花の中心で小さなダイヤが控えめに輝いていた。
「……いいんじゃないか」
「でしょでしょ! ねぇ、ノワール。この後少し時間ある? 選ぶの手伝ってもらう感じになっちゃったから、お礼がしたいんだけど!」
そう言うと、紫苑は窓から見えるカフェを指さして、にっこりと微笑んだ。




