7話 フリージア・エキナセア
「大切な人を守る為の力、か……」
教壇へ続く階段をぴょんぴょんと降りながら、フリージアは誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「やっぱり、ジェイドの大切な人、好きな人ってお姉ちゃんのことだよね……」
フリージアは、五つ年の離れた自慢の姉を思い浮かべた。ジェイドが見た事ない顔をして、二人で並んで笑っているところを想像すると、それを振り払うように首を振った。
想像の中ですら、二人はあまりにお似合いだったから、フリージアはへこんでしまう。
「そりゃあ、お姉ちゃんは優しくて美人で頭も良くて、自慢のお姉ちゃんだけどさ……って、それじゃあ、こんな私じゃ勝ち目ないじゃんね……」
自嘲気味に笑いながら、フリージアは教壇へと上がった。
常に明るくて元気なフリージアだったが、ジェイドへの恋心と姉への尊敬が邪魔をしてしまい、自己評価がすこぶる低いのだ。
(――でも、私が一番ジェイドのこと大好きだもん。簡単に諦められるほど、片思い歴だって短くないんだから!)
誰に言うわけでもないのに、勝手に想像の中の姉に張り合うと、フリージアは真っ直ぐ顔を上げた。
(だから、少しでもジェイドの横に並び立てるようになりたい! 今よりほんのちょっとでも、自分のこと好きになれたら、胸を張って、ジェイドに大好きだって伝えたい!)
幼い頃から一緒に過ごしてきた、優しい眼差しのジェイドを思い浮かべて、フリージアは決意した。
(ジェイドが凄い騎士になるっていうなら、私だって凄い魔法使いにならなくちゃ! 私だって、ジェイドをずっとそばで守っていたいって思ってるんだから!)
フリージアが魔力を込めると、魔法特性診断キットから淡い光が溢れ出して、教室を包み込んだ。
それは、ジェイドの時のような強烈な眩しい光ではなく、あたたかくて柔らかな光だった。
「光の花びら……?」
光は黄色の小さな花に姿を変えて、ひらひらと教室を舞った。
「これは……フリージアは光属性の変異型のようだね」
エクレール先生はそう言いながら、手のひらでそっと光の花をすくいとった。
「この花が君の力なのかな。変異型は個人差が激しすぎて、僕もあまりわからないんだけど……この光の感じは回復魔法かもしれないね」
「回復、魔法」
「変異型の特徴は、本人の心が深く関わってると聞くからね。これは傷ついて欲しくないっていう、君の優しい心そのものなんじゃないかな」
「……うん。これが私の魔法……。えへへ、頑張ろうね」
フリージアは嬉しそうに光の花を指先でつついた。
「フリージア、凄いよ! 変異型ってやっぱり珍しいんでしょ! キラキラしてて綺麗だし! それに回復魔法なんて、絶対にレアだよ、最強だよ!」
光の花の美しさと、回復魔法という特異な魔法を目にして、紫苑は興奮気味にフリージアへ抱きついた。
「……こういう魔法。フリージアらしいんじゃない?」
あっさりとした感想のジェイドに、もっと褒めてくれてもいいんだよ、と詰め寄って、フリージアは微笑んだ。
「ねぇ、紫苑! 私決めた! 目の前にいる人を絶対に救えるように、この回復魔法で役に立つの!」
「うん! フリージアらしくっていいと思う!」
「でしょでしょ! たっくさん練習して、どんな傷でも治せるようになるから、紫苑も何かあったら頼っていいんだからね! あっ、でも怪我はなるべくしないでね!」
慌ててフリージアが訂正すると、二人はおかしくなって、顔を見合せて笑った。
「あー、次は私の番だ! めちゃめちゃ緊張するー!」
そして、不安と期待を胸に、紫苑は教壇へ向かうのだった。




