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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
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新人冒険者訓練

「さあ、立ちなさい。魔物や盗賊は待っちゃくれないわよ」

 冒険者ギルドのマスターであるデイドラさん自らの教練、それがこのタミナス冒険者ギルドの習わしらしい。俺もトオルも散々に木剣で叩きつけられもう体はガタガタだ。

 そもそも基本の攻撃と防御の型を三つ教わり、それを何度か繰り返して即の実戦である。完全素人の俺達は全く彼女に歯が立たない。

 トオルはすでに白目を剥いて伸びてるが、俺はまだなんとか体は動く。せめて、せめて彼女に一太刀…。

「ぐほああ」

「立ったらすぐに剣を構える。防御姿勢は教えたわよね。何度も同じ事を言わせないで、すぐにあなた達は命のやり取りをするのよ」

 再び木剣で払われ地面に大の字に転げ落ちる俺。

 なんというか、おそらくは二、三才は年下だろうと思われる女子に完全に子供扱いされてかなり凹んだ。


 地面で伸びてるトオルに水魔法をぶっかけて彼を叩き起こすと、デイドラさんは俺達二人を見下ろしながら冷ややかな視線を向ける。

「実戦はこの何倍も過酷か、そう感じる前に死んでるわ。まあ、その事を踏まえた上で、もう一度攻撃と防御の基本の型を繰り返し練習、練習よ」

「リュウセイさん、俺死にそうです」

「大丈夫だ。俺はもう死んでいる」


 午前九時頃を知らせる中一の鐘で冒険者ギルドへと出向いたのは俺とトオルの二人。トウマとミヤコは昨日の訓練後に一日体を休めるように言われたとかで今日は休養日らしい。

 昨日のトウマとミヤコの急激な変化を見て俺達二人の胸は高鳴った。俺達もすぐに何かを得られるんじゃないかと期待に胸は膨らんだ。

 まずは簡単な魔力測定と属性テストらしき事を奥の部屋で行わされたが、十才程度の子供ですら扱える生活魔法すら習得していない俺とトオル、昨日のトウマとミヤコ同様に魔法発動確認が出来なかったので、ギルド職員が身振り手振りや口頭で魔法発動を教えてくれて、トオルは何とか掌に乗るほどの小さな種火を生み出せたが、俺の方はさっぱりだった。

 結果俺は魔法適正なしと判断(生活魔法程度なら習得可能)され、トオルは火属性の微弱な適正があると言われた様だった。

 それが終わると次は武器の取り扱い。

 一般的な剣の実物、ショートソード、ロングソード、ツーハンデッドソードを三種類程見せて貰い、男のロマンだとばかりに俺はまず両手剣に挑戦してみた。

 結果俺に両手剣は無理と断念。

 そもそも西洋型の両手剣は日本刀よりもデカくて重い。これを持ち続けるのがまず無理。そして何より鍔の大きさと位置が独特な為に剣道の様に上段に振りかぶると鍔が顔面を直撃してしまい、日本刀の様に振るう事は出来ない。

 攻撃方法も斬るというよりも重さを乗せて相手に刃をぶつけるという感じになり、修学旅行で買った木刀をたまに握って振っていた俺としては全く勝手が違うことに驚かされた。

 

 検討の結果俺はやはりロングソード、トオルは槍を当然の如く選んだが、槍は洞窟や室内では使用が大幅に制限されるという理由でショートソードも使えと勧められた様だった。

 俺達二人はそれぞれに対応した木剣を手に取る。

 人手不足と短期育成型の訓練教官を出来る技量を持つ人材が居ないとかで、教官はギルドマスター自らが行うという。現役Aランク冒険者だというデイドラ教官、トウマとミヤコは「為になる訓練でした」としか俺達に言わなかったが、きっとそれはワザとだ。

 まずは上中下段への受け止め技と流し技、そして基本的な攻撃技となる振り下ろし、横薙ぎ、突きを教わる。そしてそれを二回ほど繰り返した所で即実戦へと移行、現在に至る。


「人間は他種族より寿命が短い分、技能開花に優れているの。そして僅か数年で開花した技能に習熟する能力を持っている。天性はその中で突出した力と言われ、天性に沿った行動を取れば成長著しいけれど、他にも数多くの能力を人間は隠し持つと考えられているの。だから訓練は常に実戦を想定して動く事、それで自身に備わっている何らかの力が開花する可能性がより高まるわ」


「意識する事で目覚める力か…、トウマとミヤコの様にですか?」

「あの二人は最初の段階でギルド職員がすぐにそれを見つける事が出来たけれど、あなた達はまだまだね。ん~でも槍使いのあの子、あの子の炎の魔法は弱いけれどその分継続性に優れているらしいから、槍の穂先に炎を乗せるなんて出来れば面白いかもしれないわね」


「だそうだぞ、トオル」

「魔法槍術士ですね。なんか燃えてきたな」

「それで、デイドラさん。俺にも何かアドバイスは?」

「リュウセイ、あなたには特に無いわね。まずは剣の基本を覚えなさい」

「それだけですか?」

「それだけよ。そもそもあなた冒険者やらなくても食べていけるんじゃないの?」

「そんなこと無いですよ」

 俺の問いにデイドラさんは首を傾げて訝しむ。よく分からんが薬草採取だけで十分生きていけるって事なんだろうか?

 

 中二(午後三時頃)の鐘までみっちりとデイドラ教官にしごかれ身動き出来なくなった俺達。

「今日はここまでよ。明日一日休養して、次はあの二人だから二日後にまたいらっしゃい」

「「へ~い」」

「ああそうそう、これ塗っときなさい。それで擦り傷程度なら消えるわよ」


 デイドラさんがギルド職員に運ばせてきたのは俺が昨夜おぼろげに仕上げた青みがかった液体の入った桶。これは何かと尋ねるために俺がギルドへと持ち込んできたものだ。 

「デイドラさん、これは俺の…」

「そうよ、劣化した回復ポーションの更に残骸。まだ薬効はあるだろうから擦り傷程度には効くんじゃないかしら」

「回復…ポーション…、これが???」

「リュウセイ。これをどこで手に入れたかしれないけれど、ゴミを買わされたわね。ポーションは作成してすぐに専用の瓶で保存しないとすぐに劣化が始まって薬効が落ちるのよ。次はこんなゴミを買わない様に気を付けることね」

「はあ、ちなみに専用の瓶って??」

「ポーションを作れる錬金術師なら自前で作れるだろうから、瓶も普通に取り扱ってると思うけれども。はて? この街に錬金術師なんていたかしら」


          *          *


 場所は変わりギルドマスターの執務室。

 俺はトオルに先に戻ってもらい、ギルドマスターのデイドラさんに一人面会を申し入れた。当然その内容は俺のポーション作成能力についてだ。


「つまりこのゴミポーションはリュウセイ、あなたが作り出したと…」

「その何となくですが…」 

「つまりあなたは錬金術が使えると?」

 この世界での錬金術師というのは回復ポーション等の即効性の薬剤の精製やその容器となる薬瓶の制作を行う人の事を指すらしく、土からゴーレム作ったり等価交換で怪しげな兵器を生み出すというものではないらしい。

「まあ、そうなりますね。俺にはその適正がある様です」

「錬金術師か、まずいわね。リュウセイ、その事は秘匿しなさい。あなたの為よ」

「どういう事なんですか?」 


「ここ数年理由は分からないのだけれど、神聖系の回復魔法の効果が格段に落ちてしまってね。高位の司祭でようやく駆け出し回復職並の力しか発揮出来ない様になってしまったの。冒険者内でも回復職の地位は低下して殆どの者が廃業か荷物持ちに転職したわ。

 そこで需要が高まったのが薬草やポーションなどの回復アイテム。当然即効性で効果を現すポーションは冒険者だけでなくあらゆる場所での必需品、あなたはそれを作り出せる希有な人間なのよ。わかる?」


「なるほど、それはまずいですね。貴族なんかの耳に入れば特に…」

「そうね、あなたを抱え込もうとする様な輩が必ず現れるわね」

「ですがまだ、まともにポーションが作れるかどうかも分からないんですけれど…」

「そこはこの冒険者ギルドタミナス支部が支援するわ。錬金術のいろはに器材、諸々をこちらで提供してあげる」

「それって、当然見返りを求めて、ですよね」


「あなたを不当に拘束する様な事はしない。そしてこの街を拠点に活動する限り冒険者ギルドがあなたの安全を保証するわ。あなた自身の護身の為の訓練も含めてって事でどうかしらね。

 その見返りとして当ギルドに一定量のポーションの納品をお願いしたいの。定額での納品をね」


「条件は悪くないですね。それは俺としても願ったりって感じです」

「では交渉は成立という事で、お願いするわ。早速だけど休養日とした明日と明後日、うちに顔を出してもらえるかな?」

「早速ですか、いいですよ」


 宿に戻ると裏の空き地でトウマとミヤコに加わりトオルが腕を突き出して魔法発動の訓練をしていた。トウマとミヤコは雑貨屋で生活魔法というのを何冊か手に入れ習得したようで、明かりの魔法に水を生み出す魔法、小さな火種を作り出す魔法の三つを俺とトオルに披露してくれた。

 生活魔法は買ってきた魔道書に魔力を流すだけで自動的に習得できるらしく、しかも使い勝手がいいものだ。これは俺達も購入しておくべきだろう。 


「私ね。新体操の選手に憧れてたんだな」

 なんて言いながら巧みな空中回転を次々に決めて見せるミヤコの軽業、トウマは回復力が出ないと回復魔法に苦戦しているが、そこにトオルが加わり「ぐぬぬぬぬ、夢は魔法槍術士」と火魔法の発動に四苦八苦している。

 俺の錬金術についてはしばらく皆にも黙っておこうと思う。

 ただ俺は嬉しかった。俺達はやはり『無能』ではなかったと分かった事がだ。


「それでトオルは火魔法だったんでしょ。リュウセイは?」

 ミヤコが興味深げに聞いてくるのをトオルが冗談交じりの言葉で答えた。

「リュウセイさんは戦闘適正無しだったんですよ。でも薬草の餞別と採取はプロ級なんです。今の所うちの一番の稼ぎ頭ですよ」

「薬草採取ねえ。見た目通りなんかぱっとしないわね」

 俺は彼女のその言葉にただ苦笑いで返すしか出来なかった。

  

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