戦火の中で
翼を広げて歌い踊る魔族女性達。その姿は俺達が元の世界で見ていたアイドルグループそのものだ。
「リュウセイさん、あれ何なんですか?」
「分からんが、今の所実害は出ていない。応援団とかチアガールみたいなものじゃないのか? とにかく前方に集中しろ。そろそろぶつかるぞ」
俺達冒険者傭兵団が魔族軍の側面攻撃を仕掛けようとしたその瞬間、戦場が一気に動いた。
突如、戦っていた魔族軍が散り散りになって一斉に散開して逃げ出していくのだ。そこにはファータル軍と冒険者傭兵達だけが残された形になり、そこへ歌い踊っていた魔族女性達から凄まじい数の遠距離魔法攻撃の集中砲火が浴びせかけられる。
密集隊形だったファータル王国軍の前衛が炎で焼かれ、その場で無残に燃え尽きていく。
「魔法防御、術師達は急ぎ結界を展開」
ファータル王国軍は盾以外でその魔法を受け止める術を持っていないが、冒険者達のパーティーには大抵攻撃と回復術師が二名はいる事が殆ど。故に俺達の方だけはAランク冒険者達の指揮の下、魔法防御が次々に展開されていく。
「我ら魔法少女隊、駆け抜ける閃光~♪ 赤き花びら咲き乱れる戦場で~♪
あなたが伸ばした~その手を離しはしないから~♪」
これに対して、美しい歌唱とは裏腹に、恐ろしい数の爆裂魔法と火炎魔法の混合攻撃が超遠距離から飛んでくるのだ。
そしてその攻撃方法もただ闇雲に攻撃を仕掛けているのでは無い。
四百人近い魔族女性達の中の数十人がレベルの違う強力な魔法攻撃を放ち軍列を焼いていくのに対し、彼女達の後方にいる数百名は魔法攻撃をわざと外して俺達の側面や背面に狙い澄ました様に落として退路遮断まで狙っている。つまりはここで俺達全員を魔法攻撃だけで葬ろうって事らしい。
「ファータル王国軍を盾に、俺達は撤退するぞ。結界を維持しながら魔法攻撃の射程外まで移動」
Aランク冒険者達の指示が軍内の各所に飛ぶ。良い判断だと俺は思った。
「何か来る。一騎」
皆の視線が集中する先、翼を広げた一人の魔族女性が単騎で俺達の冒険者傭兵団の方へと凄まじい速度で迫って来る。
「迎撃だ。弓、魔法で迎え撃て」
矢と魔法の雨をくぐり抜けながらその魔族女性は大声で名乗りを上げる。
「炎熱のキュリエドルンが参る」
彼女は左手を差し出し防御結界を発動させて冒険者達の放つ矢と魔法を受け止めながら、もう片方の手を引き拳を握る。
俺達との距離はもう殆ど離れていない。剣を持った連中が何人も彼女に向けて突撃していく。
炎熱のキュリエドルンを名乗る魔族女性がその体に巨大な魔法の炎を纏いながら右拳を前面に突き出した。
「すうぱああ~モエキュンパンチ、フェニックス」
俺はトオルの頭を押えてその場で地面に伏せる。熱い炎が通り過ぎていくのを肌で感じた。
この炎熱のキュリエドルンの攻撃で、まず剣を持って斬りかかった連中が炎に飲まれて一瞬で消し炭になって消え、防御結界に大穴が空いて炎を纏ったままの魔族女性がそのまま低空を飛び抜けていく。彼女の纏った魔法の炎が冒険者達の隊列を蹂躙して縦一列に死傷者の山を築いたのだった。
頭を起こして立ち上がった俺とトオルの目には、凄まじい数の焼け焦げた遺体の列が出来ていた。
「Aランクのルードとケインのパーティーが殺られたぞ」
「ダメだ。逃げなきゃ、殺される」
先程の魔族女性の一撃で完全に戦意喪失の冒険者達が続出するが、魔法攻撃で退路が塞がれている以上、普通に退がるって事もできそうにない。
隣のファータル王国軍も一方的に魔法攻撃の雨に晒されてもう息も絶え絶えと言う感じだ。
ここでAランク冒険者達から最後の指示とも受け取れる命令が全軍に下される。
「各個自己判断にて退避。防御魔法を駆使して何とか魔法攻撃をすり抜けろ」
言うが早いかAランク冒険者達は俺達を置いてすぐに逃げにかかりはじめた。俺達の存在自体も盾にしようって魂胆なのは理解出来た。冒険者らしいといえばそうだが、残される者にとっては絶望しかない。
パーティーを組まず寄せ集められた連中も逃げに掛かるが、爆裂魔法の壁を抜ける事が出来ずに次々に吹き飛ばされていく。そんな姿を間近に見て進退窮まりパニックに陥る者も多数続出し、その場で喚き叫び散らすだけの奴らもいる。
こんな惨状の場に不釣り合いな魔族女性達の軽快で陽気なアイドルソングの様な美しい歌声は続いている。
「どうしますリュウセイさん。このままじゃ」
「ああ、わかってる。何とか逃げ出す機会を探さねえとね」
二人して背を屈めて息を殺しながら突破できそうな穴は無いかと探していると、魔族女性達の歌の曲調がガラリと変わり力強いものへと変化する。しかもその歌は数年前に耳にタコが出来るほど毎日聞かされた事があるものだった。
「リュウセイさん、この歌って」
「ああ。知っているな俺達は、この歌を口ずさめる程に」
聞け 大地の声を 呼べ 逆巻く波を
悪の力が世界を覆い 皆の心が陰る時
勇気全開出撃だ 一人の漢立ち上がる
決して挫けぬその心 巨大な敵に立ち向かえ
おお カンバスター 雄々しく立つその姿
おお カンバスター 赤き星の輝きと
(ら~)
空を斬り裂く氷結剣 完全防御の金の盾
絶対無敵の超絶鬼神 その名はカンバスター
歌が一区切りつくと、凄まじい叫び声と共に剣戟が大地に振り下ろされる。冒険者達の中に一人躍り込んできた男は全身フルプレートの鎧を纏ってはいるが、そのカラーリングに統一性が全く無い。
だがその不気味さに冒険者達が引き、その男の場所だけポッカリと開けた空間になった。すくっと立ち上がった男はバスタードソードを持った腕を前面でクロスさせてから大きく水平に斬るという大袈裟なポージングを決めながら溜めを入れて名乗り始める。
「魔国四天王が一人、カンッ バスッ ターああああああ」
「しゃらくせえ、やっちまえ」
無謀にも数を頼みに彼を取り囲むヒャッハーな感じの冒険者達が、一斉に彼に飛びかかっていく。
背後から斬りつけた者はカンバスターが背負った黄金のカイトシールドの衝撃波に吹き飛び、正面から向かった者はカンバスターの胸部プレートから発射された土魔法の弾丸によって撃ち抜かれ、バスタードソードによって斬り裂かれた。
カンバスターが緑の籠手を大地に叩き付けると、無数の木の蔓が地面から飛び出し、怯み足を止めた冒険者達を上空高くへと舞上げる。
周囲を包囲するような魔法の集中砲火、加えてその中心では魔国四天王カンバスターを名乗った男が怪しげな鎧の力とバスタードソードを振り回して大暴れし始めたのである。指揮官クラスはすでに逃亡、冒険者傭兵団の生き残り達は完全に浮き足立っていた。
「やばいっすよ。リュウセイさん」
「ああ、同感だ。とにかくあの真ん中で暴れてい奴を押えないと不味い。トオル、行くぞ」
「行くって、あれにですか? マジで」
「死中に活って奴だ」
俺とトオルは機を見て二人してカンバスターに斬りかかる。
俺の剣はカンバスターの分厚い剣で受け止められ、突き出したトオルの槍は小脇に挟まれて防がれる。
俺は剣に力を込めて押し返そうとするが、ビクともしねえ。
「カンバスターとか。地球帝国軍の超高速万能大型変形合体マシン兵器かよ」
「オオタコーチの魂の結晶っす」
カンバスターの名について、どうせこいつは理解も出来ないだろうと俺達なりの皮肉で返して見せたが、それに対してカンバスターが「なにっ」と反応を示す。そして彼は突き放した俺達の前に腕組みしながら立って圧倒的な威圧感を漂わせながら言う。
「そこのお前達、俺の名前を言ってみろ」
「今度はジャギかよ」
その問いに俺達流で返せたのは俺だけだった。
「ジャギってなんすかリュウセイさん」
そんな間の抜けた問いについ俺はムキになったが、カンバスターも俺と同時にトオルに同じ台詞を吐いたのだった。
「「北斗の拳を知らんのか!」」
トップはOVAで互いに鑑賞して知っていたが、トオルは北斗世代じゃなかった…。
そして俺とカンバスターはその場で互いに顔を見合わせる。奴の方はウイングドヘルムで口元ぐらいしか見えないのだが…。
「お前達は転生者か、召喚者か」
「召喚者の方だ。巻き込まれだけどな。カンバスター、もしやあんたもか?」
「ああ、そうだな」
そう言うとカンバスターは天高くバスタードソードを突き上げる。それと同時に魔族女性達の放つ魔法攻撃が止み、ファータル王国軍と冒険者傭兵団は総崩れとなって逃げ出していく。
カラス天狗みたいな連中が砦から、そして兎獣人達が森の中から姿を現し、逃げる人間達を追撃していく。
カンバスターという人物は気になるが、俺達も引き際かと思い逃げだそうと振り返るとそこにはミニスカート姿の青い肌の女性が立ってニンマリと笑っている。
それが先程冒険者達を大量に焼き払った女性だと認識して俺とトオルはその場で背筋を正す。そして逃げ遅れた俺とトオルの二人は降りて来た魔族女性達に取り囲まれてしまったのだった。
武器を捨てて両手を上げて降参する俺とトオル。
魔族女性、とはいっても皆少女の様な幼く可愛い顔立ちをしている。だが、その目は完全に敵意剥き出しで殺意に溢れていた。
カンバスターが俺を呼ぶのでトオル一人だけを女性達の中に置き去りにして少しその場を離れる。そしてそこでカンバスターはウィングドヘルムを脱いで俺に素顔を晒したのだった。
「あんた、人間か。しかもおっさんじゃないか」
「俺より年下っぽいが、お前もそれなりにおっさんだろう」
四十代半ばのおっさんと、三十代半ばのおっさん二人の異世界召喚者の戦火の中での出会いだった。互いに本名を名乗り、少しだけこっちに飛ばされた境遇を簡単に語り、俺は強制徴用で無理矢理戦場へと連れ出されたのだと彼に告げる。
「あんた、何かやってみな。そうだなあ、歌でも歌ってもらおうか」
一方でトオルはというと、人間の捕虜という事で魔族女性達に蹴っ飛ばされたり小突かれたりしながらなぶられていた。
「わっわかりました。『出撃カンバスター』の歌。不詳トオル、歌わせて頂きます」
そして装甲馬車での移動中ずっと聞かされ続けていた『あの歌』を一曲見事に歌い上げてみせると、魔族女性達がポカンとした顔をしていた。
炎熱のキュリエドルンを名乗る女性がトオルに訪ねる。
「何でお前がその歌を知っている?」
「ダークエルフのリンって子がずっと俺の隣で一所懸命練習してたっす。それで覚えてしまいました」
「あんた、リンの知り合いか。ねえ、カンバスター。この人間達ってリンの知り合いみたいだよ」
「そうなのか?」
そう問われて俺も旅の途中でダークエルフのリンと名乗る女性に出会い、数日一緒にいたことを告げる。そしてその事が魔族女性達に伝わると「きゃぴる~ん」って感じで彼女達の態度も一変、トオルは捕虜待遇のなぶられ役から、ハーレム状態へと移行する。
「こっここ、これは。リュウセイさん俺、魔族の女の子もアリかもです。皆、可愛いし」
そしてトオルは急に真面目顔になって炎熱のキュリエドルンの前に歩み出し、彼女の前に跪く。
「でも、あなたがこの中でもっとも可愛い美しい。俺のタイプです。好き」
といきなり告白をしてしまうのである。
「トオル、おまっ」
唖然とする俺の目の前で突如として繰り広げられるプロポーズ大作戦。だがその返答は「ごめんなさい」であった。
顔を両手で押えて天を仰ぐトオル。
そしてそれに追い討ちを掛けるようにカンバスターが彼女の腰を抱き寄せ、衝撃の一言を告げた。
カンバスター 「キュリエは俺の嫁」
リュウセイ 「なん、だと…」
トオル 「マジっすか…」
キュリエドルン「いやああああん」
俺とトオルは二人してカンバスターの前に崩れ落ちる。そして圧倒的な敗北感を味わったのである。
「バカな、ありえん。なぜあんな可愛い子がどう見ても普通のおっさんの嫁に…」
「リュウセイさん。俺もあの台詞言ってみたいっす。うわあああああ」




