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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
31/41

新しい仲間

 ファータル王国の王都ヘリソン。

 六角形型の形をした巨大都市の城壁に立つ物見棟は魔術師達の研究棟も兼ねている様で、巨大なキノコが六本突き出ているような変な造りだが、それにも随分となれてきた様な気がする。

 そんなファータル王国の王都冒険者ギルドを拠点にして資金集めの為に動いて一ヶ月、俺とトオルは別々で稼いで得た金を共同資金として貯め込んだ。

 俺は薬草採集とポーション作成、トオルは野良の冒険者として募集パーティーへの仮参加という形であちこちで魔物狩りを行った。回復ポーション需要はこの地域でも高い様で、結果俺のポーション作成で稼ぎ出す金額が圧倒的に多かった。

 二人で話し合った結果、ポーション作成の効率を上げるにはやはり作業員としての奴隷は一名必要だという事になり、手持ちの金貨五枚(五十万円)の範囲で雇う方向で纏まった。

 二年前の奴隷商で見た相場からすると成人奴隷を買うには少し足りないかもしれない。幼く労働力にならない子供ほど安く買えるが俺達は旅を続ける冒険者稼業。その旅に耐えられるある程度の年齢は必要なので、成人前の年長者あたりしか選択肢は無い様だ。あとは大店の奴隷商には良い奴隷が多いがその分値段も張る。だから場末の奴隷商を優先的に回ってみることにした。


「やはり慣れないなこの臭いには」

「そうですか? 俺結構平気ですけれど」


 檻に入れられた獣人達の獣臭と垂れ流した糞尿の悪臭。場末の奴隷商ほどそういう所の管理は杜撰で鼻を突く臭いに俺は顔をしかめる。だがトオルはさすがケモナーを自負するだけはある。最初の一件目の店では嫌な顔をしていたが、三件目ともなるともう平然とした顔をしている。

 大店では奴隷に付加価値を付けて高く売るためにある程度の教育を施したりするので、結構な数の未成年奴隷がいたが、場末の小さな奴隷商には俺達の求める金額の奴隷が出回っていない。この三件目で見つからなければ今日は諦めようという話をしながら檻の列を軽く眺めながら歩く。

 あまりジロジロと見ていると奴隷達が色々とアピールしてきて面倒な事になるのをこれまでの二軒で経験した結果だ。

 前の二つの奴隷商もそうだったが男性の獣人奴隷の在庫が少なく値段もかつての二倍近くに相場が跳ね上がっている。原因は獣人奴隷の最大の産出国である新生パドールが賦役を始めたことで、奴隷とならずに兵士になる道を選ぶ者が大多数を占めるようになったかららしい。

 大きな檻に二十人ばかりの奴隷が纏めて入れられ、中の獣人達が絶望の表情を露わにしている。こういう一団はまだ奴隷になって日が浅い連中で、奴隷の身分を受け入れて大人しくなった者から別な檻に移され、その事を受け入れられず嘆き悲しむだけの連中は、連日奴隷商人達から折檻を受けたりしている為に顔や体中に青痣を作っている者が多い。

「こいつらは南の新生パドールから借金の形に奴隷に落とされたばかりの者達ですよ」

「あの奥の男女の子供の男の方は幾らだ?」

「男の子は労働力として人気が高いですから金貨十枚。女の子は金貨六枚って所ですね」

 

 男所帯の俺達には男の子の方が都合がいいのだが、さすがに半額には値切れそうにない。女の子の方も予算超過だが、ここで決めないと他で条件にあった奴隷がどうにも見つかりそうも無い。

「トオル、あの子で構わないか?」

「俺に異存はありませんよ。リュウセイさんに任せます」

「随分と殴られているし痣も酷い。怪我が治るまで働かせられそうにないから少し値引きして欲しいな。女の子の方を金貨五枚でなんとかならないか?」

「金貨一枚分も値引きですか。でも確かに怪我の度合いが酷いですね。うちの者にもっと丁寧に商品を扱えと言っておかないと。いいでしょう金貨五枚で契約致しましょう」


 商会員の男が商談成立の手持ちの鐘を鳴らすと、奥から別の商会員が書類やらを持って現われる。その場で書類にサインをして代金を一括で支払う。

 奴隷契約の呪文を唱えると奴隷の主人が店側から俺へと委譲される。それ程難しくはないが、契約時にチクリとした痛みのようなものが俺の体にも走る。

 今回俺達が選んだ女の子は顔つきが獣型の獣人ではなく、見た目が人に近い方の獣人で力仕事や戦闘では劣ると言われる部類。ファンタジー小説などで描かれるケモ耳娘ってやつだ。

 トオルには彼女に着せる衣類を手に入れに走ってもらい、俺はというとまずは彼女の傷ついた体を俺のポーションで癒やし、汚れた体を洗うために炭を買って宿の裏手の井戸で砕いた炭を石鹸代わりにして彼女を洗う。

 互いに恥ずかしいとか言っていられない。これも仕事の一つと割り切った。

 彼女には俺のシャツを着せて宿の部屋でトオルの帰りを待つ。身綺麗にした子供の奴隷という事で宿の女将は目こぼししてくれたが、宿泊料には追加料金を求められた。

 トオルが作業用の男物と普段着の女の子ものの二着を買ってきたので、とりあえず普段着の方に着替えて貰う。獣人用の服は尻尾を出す穴が付いているのが特徴的で、彼女の結構太くてフサフサした尻尾も邪魔にはならない。

「怪我も痣も全部綺麗になりましたね。よかった」

「ああ、古傷で無かったのが幸いしたな。とりあえず自己紹介といこうか。俺はリュウセイ、こっちがトオルだ。これからよろしく頼む」

「わっ私は赤狐族せきこぞくのロロルです。ご主人様、トオル様」

「『赤いきつね』だと! 日清か」

「違いますよリュウセイさん。マルちゃんですよ」


「冗談はさておき、ロロル。俺達はこの国の人間では無いから奴隷制に良い印象を抱いていない。だが奴隷制を敷く国の中では主人と奴隷という関係でいてほしい。いずれ奴隷制の無い国を訪れた際には君を解放し自由にしてあげる。だからそれまでは俺達と共に来てくれ」


 彼女は俺の言う事をまだ信じてはいない様だった。いきなり奴隷として買った人間が「解放してあげる」なんて言っても信じられるはずがない。まあこれは時間を掛けて理解してもらうとしよう。

 とりあえず彼女には読み書きと計算を覚えさせつつ、俺の採集とポーション作成の助手を務めてもらう。ポーション売り上げの幾らかを給金として支払うつもりではいるが、当面は作業を記帳しておきしかるべき日に給金として渡すのがいいだろう。


 翌日から早速俺はロロルと共に郊外の森へと薬草採取に出かける。

 初日という事もありトオルも行きたがったが、彼は先約の冒険者達との約束があるらしい。ロロルには採取すべき薬草を二種類ぐらい教えてそれだけを集めて貰う。

 昼は前日に買ったパンを細切りにしたものと冷えた串焼きの残りで腹を満たす。食後はロロルと二人で草原の中で大の字に寝転がって空を行く雲を眺めた。

 王都から聞こえてくる中二の鐘を目安に街中へと戻り、宿の部屋に籠もって携帯用錬金釜を使ったポーション作成を開始。水色の液体になったらロロルを呼んで専用のガラス瓶にその液体を詰めて貰う作業を教える。

 ロロルは夜の食事は下で摂れないので俺とトオルが食事を済ませた後に、彼女の分を貰って部屋に戻る。彼女が食事をしている間に俺とトオルは今日の出来事を報告し合い明日の予定を立てる。

 その後はトオルとロロルのふれあいタイムという事らしい。

 日中一緒に居られない分、ここぞとばかりにトオルはロロルに自分の事について色々と話していた。「ロロルは俺の妹分だから」それが彼の口癖になった。

 ただ俺達から彼女の過去を聞くような事はしない。


 翌朝は三人で冒険者ギルドへと向かい、トオルは依頼の受注。俺とロロルは昨日作ったポーションの納品した後で、新たな薬草採取へと向かう。

 そんな生活が一週間ほど続いた郊外の草原、俺とロロルが大の字になって転がって空を見ていると仕事中は殆ど無口な彼女の方から俺に話しかけてきた。

「ご主人様、私うまく出来ていますか?」

「ああ、十分よくやれていると思うぞ。サボられても困るが、あまり頑張りすぎてもらっても困る。今ぐらいが丁度良い」

「はあ」

「どうした? 何か変か」

「人間は皆危険な存在。奴隷になると毎日毎日酷い生活が待っていると思っていたんです。でもこの一週間は私がこれまで生きて来た中で一番穏やかな日々なんですよ。それがどうにも納得出来なくて」


 ロロルは俺に自分の生い立ちを話して聞かせてくれる。

 ロロルがまだずっと幼い頃に彼女は母と共に奴隷商人に捕まり、奴隷娼館で母は働かされながら彼女の面倒をずっと見て来てくれたらしい。奴隷商人も将来はロロルもその店で働かせるつもりでそうさせていたのだそうだ。

 それが数年前にパドール王国の政治が変わり『奴隷解放令』が交付され、獣人奴隷達は奴隷の身分から新生パドールの二級国民になった。農地を与えられ村を形成し、これからは幸せに暮らせると誰もが思っていたのだと。でもそうはならなかった。

 村単位で課せられる重税。

 これを支払うために村人達は労働力にならない者、高く売れそうな者達を奴隷商人に差し出し、その対価にて税を凌ぐ生活。

 女で幼いロロルにも白羽の矢は立ち遂には奴隷として売られ、そして新生パドールからファータル王国へと転売されてきたという。

 そこまで話してロロルがぐずり始める。大地に寝転がったまま泣きじゃくる彼女を俺は体を起こして見下ろす。

「お母さんが泣いてた。ずっと私の名前を呼んで…、お母さんに会いたい」

「そうか、奴隷の身分から解放してすぐに自由になりたいのか?」

 俺がそう問うとロロルは首を振る。

「帰りたい。でも今帰っても役立たずとしてまた村人達に売られる事になる。だから…」


 俺はロロルに銀貨五枚を取り出して彼女に手渡す。

「これは?」

「昨日のロロルの働きに対する報酬だ。まだ言っていなかったが、俺達はロロルを奴隷として買ったのでは無く、共に仕事をする仲間として雇ったのだ。だからそれはロロルのもの、ポーション売りは結構儲かるんだ。俺とロロルでしっかり稼いで、大金を手にして母親を迎えに行ってやるといい」

「これが私のお金…。ここで、ご主人様の下で働けばお金が貰えるんですね」

「そのつもりだが、どうかな?」

「私、頑張りますね。もっとどんどん働きます」

「いやその、一日に生産できる量には限界があるからな、あまり頑張られても困るんだ」

「そうなんですか。じゃあ普通に頑張ります」

「ああ、普通に頑張ってくれればいい」


          *          *


 宿に戻ってのトオルと俺の報告会。今日からはロロルもそこに加わる。今日はトオルが深刻な表情で俺に告げた。

「リュウセイさんヤバいっすよ。あいつらが王都の冒険者ギルドに現われました」

「あいつら?」

「昔奴隷商人を襲った時に護衛に付いていた冒険者達ですよ。あいつらは俺達の顔を知っていますから、冒険者ギルドに通うのは危険です」

「そうだな、俺達はこの国では重犯罪者だから身バレするとマズいな。すぐにリーン王国へと向かうとしようか」


 三人分の路銀程度はすでに貯まっている。ここは急いだ方が良いだろう。明日の早朝にはこの王都ヘルソンを出て隣国リーン王国を目指す事に決めた。

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