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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
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去る者、残る者

 俺とトオル、ダークエルフの少女リン、戦闘奴隷の獣人男性二人と傷ついたエルフ女性の六人での逃亡は続いている。少し気持ちに余裕が出てくると、いろいろとマズい部分に気づき始める。

 まずダークエルフのリンがノーパン、エルフ女性は纏った外套の下は素っ裸という状態。

 リンについてはトイレの最中に攫われてパンツが汚れたので履いておらず、エルフ女性は貴族屋敷に素っ裸で幽閉されていたとかで枷に繋がれた腕や足はかなり酷い傷になっているし、この移動中もずっと裸足である為に足もボロボロだ。


 ともかく女性二人にはトオルのボクサーパンツタイプの下着をそれぞれ、エルフ女性にはシャツも着せて足には布を巻いて靴代わりにした。

 トオルは何とかエルフ女性に近づけないかとリンに付いてもらって食事を渡そうと試みたりしたが、野営三日目にようやく敵意が解けたのか彼の手から直接スープを受け取ってくれたとトオルはガッツポーズで俺に報告しに来た。

 トオルには悪いが実の所俺は二日目の夜にエルフ女性の怪我の治療で手持ちのポーションを振る舞ってから会話こそ無いものの妙に懐かれていて、傷の経過を確認する為にエルフ女性の手足に直接触れる俺を彼女は普通に許してくれるばかりか、治療の後に涙を流しながらお礼のハグやキスをしてくれたりしている。

 これをトオルに知られるのはさすがに後ろめたい。


 フェムト郊外での奴隷商襲撃から五日、森を進み山を一つ越え、ようやく目的の場所と思わしき集落が今俺達の眼下に広がっている。

「あれが剣聖の里か」

「剣聖って本当にいるんですかね?」

 トオルが剣聖について懐疑的なのは、俺達にとってその存在が漫画やアニメに出てくるフィクション的なもので、実在とは程遠いものだと感じているからだ。

 既に俺達は吸血鬼にアンデッド、エルフやダークエルフに獣人といった異世界ファンタジーを目の当たりにしている。それでも剣聖というのは何か特別なものに思えてならない。

 何よりこの里は元の世界の日本の中世時代の山村に雰囲気が酷似しており、米作りの田園こそ無いものの斜面に広がる段々畑や茅葺き屋根の民家、山の麓から上がる煙は炭焼き小屋のものだろうか、俺とトオルにとってはどこか懐かしい風景にも見える。

 村には高い城壁も柵も存在しない。あるのは害獣避けと思われる背の低い石積みと畑を区画する為だと思われる小さな柵があるぐらいで、至って平和な感じを受ける。確かにここまでの道中で魔物らしき存在には遭遇しなかった。

 里へと近づくと村の中央にある物見櫓の板が打ち鳴らされ、作業する村人達の視線が俺達に集まる。しばらくすると武装した十数人の一団が俺達の元へとやって来て、連れていたダークエルフにエルフを見るとかなり訝しみながら俺達が何者であるかと誰何してきた。


「旅の一行と言っても信じては貰えんだろうな?」

「当然だ。獣人だけならともかく、エルフにダークエルフが普通に野を歩くなどまずあり得ん」

 対応に出た俺が困っていると、ダークエルフの少女リンが彼等に言う。

「カイエンのおじさんはいる? 仲間のリンが訪ねて来たと伝えて欲しいんだけれど」

「カイエン殿の知り人か…」

 武装した一団はカイエンの名に明らかに動揺している。

 そしてそれ以降彼等の俺達に対する対応は友好的というよりも畏怖というぐらいに畏まったものに変わった。

 知らせを届けに行った者がもう一人の女性を引き連れて戻ると、くノ一みたいな姿のその女性がリンの前に頭を垂れて跪く。

「リン様、突然の来訪。これは何事ですか?」

「あのねマリナ。私が奴隷商人に捕まって、この人達が助けてくれたの。暫く匿ってもらえないかな?」

「そう言われましても、私とカイエン様も里の居候ですので、その件はアオイに聞かないと…」

「じゃあ、お願い。それとエルフ女性はメロンのおじさん関連だから南へ送る手筈もよろしくね」

「かしこまりました。その件はすぐに」


 マリナと呼ばれたくノ一女性は立ち上がると武装集団に俺達をアオイという者の元へと連れて行くようにとお願いすると、瞬時にその場から姿を消した。


「リュウセイさん。やっぱりあのリンって子、姫様かなんかですよ。擦り寄っといた方がいいですかね」

「宗教関係のお偉いさん、ではなさそうだよなあ」

 移動中に俺とトオルがヒソヒソと小声で会話していると、リンが突然立ち止まる。

「リュウセイおじさん、トオル兄ちゃん、全部聞こえてるよ。ダークエルフは耳が良いんだから。私はキスミス神を称える『神の息吹』教団の筆頭巫女のリンだよ。今の所はね」

「今の所はか…」


          *          *


「つまりお前達は、奴隷商人を襲い商品である奴隷達を奪った強盗殺人犯という事だな。そんな重罪人をこの里で匿うなどもってのほか。縛り上げて牢へ繋ぎファータル王国へと引き渡せ。その懸賞金でこの里も暫く潤うだろう。さて、そこのダークエルフとエルフも金になりそうだが、どうしたものか」


 剣聖アオイの邸宅の庭先に漂う重い空気。

「何でだよ」

 堪らずトオルが大声で叫んだ。

 剣聖と呼ばれるアオイという女性、彼女が暗く沈んだ顔でそんな台詞を淡々と俺達に向けて吐く。

 幸いにも剣も槍も取り上げられてはいない。一暴れして逃げ出すか?

 剣聖と言われるが目の前の女性は非常に弱々しく見える。問題はその横に立つカイエンとかいう武人らしき男だ。こいつは強いと一見しただけで分かる気風を身に纏っている。

「アオイ殿、戯れはそこまでに」

 カイエンに言われてアオイはその表情を改め、声を上げて笑い出した。


「リュウセイとトオルと申すお二人、災難でしたね。お二人を見ていると以前の私を思い出します」

 愉快そうに笑顔で俺達二人に話しかけてくる剣聖アオイ。だが彼女の言葉は辛辣さも伴っている。

「一言助言させて頂くなら、そんな連中に関わっていると命がいくつあっても足りなくなります。すぐにでも距離を置くべきだと思います。そんな生き方も嫌いではありませんが」

「はあ、そう言われましても」

「こちらとしても事情は理解しました。六人の移動手筈が整うまでこの里で匿う事にします。但し覚えておいて下さい。あなた達は先程私が申した罪を犯した事になっているという事をね」


 剣聖アオイの計らいで俺達は暫くこの里に滞在することに決まった。

 人目に付かぬ様にと俺達は村から少し離れた丘の上にある剣聖の邸宅の敷地内に住むことになり、ダークエルフのリンとエルフ女性は剣聖アオイの邸宅に、俺とトオルと獣人達は武人カイエンが住む元は納屋だった建物に身を寄せた。

「ドワーフ皇国?」

「私はリフ爺と共に別行動になるけれど、リュウセイおじさん達はエルフ女性を南に送るついでにドワーフ皇国に送られると思う」

「ドワーフ皇国なのに獣人の国なんだな」

 ダークエルフの少女リン曰く、ドワーフの数が少なく人口の大半が獣人なのだという。ただ現在は鎖国状態で他国との国交は無いらしい。

「せっかくの話だが、少し考えさせてくれないか」

「どうしたんですかリュウセイさん。獣人の国なんてめっちゃ良いじゃないですか。俺は憧れるなあ」

 俺はそう答えたがトオルはなぜと問いかけてくる。もしミヤコが俺達を追ってこちら側に来たならば、まず小三国に滞在するはずで、俺達はこの近辺からまだ離れるべきではないのではないか? そう感じたからだ。


 里に滞在して二日目、何処からともなく戻って来たくノ一風のマリナという女性が五日後にここを出立してアントレーの街の廃墟へと向かうと告げてきた。どうやらそこから俺達が乗ってきた装甲馬車の旅でドワーフ皇国へと入るらしい。

 俺とトオルは話し合った結果、何とかここに残れないかと剣聖アオイに直談判しに行った。ミヤコの事もあるがこの里には『剣聖道場』なるものがある事を知ったからだ。

 俺達はもっと強くなりたい。なるべきだ。そのチャンスが目の前にあるのを見逃す手は無いというのが二人共通の意見だった。

「入門ですか? 私は素養のある者しか直接弟子は取らないのですが」

「それは理解しています。里の道場の方で俺達を鍛えて頂けないかと」

「一人金貨百枚。払えませんよね?」

 無言で黙り込む俺とトオルに剣聖アオイはクスクスと笑い始める。

「『剣聖道場』は貴族の子弟に箔を付ける為に開いた修行の場です。貴族からはその金額を徴収しますが、そうでない入門者には対価として労働をして頂きます。お二人は何が出来ますか?」

「俺は左手が義手なので細かい作業が出来ませんが、トオルと二人でなら提供できるものがあります」

「どのような?」

「採取した薬草を加工して回復ポーションを作れます。容器作成を含めてこれを月に三十本でどうでしょうか」

「よろしいでしょう。修行期間は本来は三年なのですが、すでに今の門下生が入門して一年が経過しています。残りの二年を彼等と共にという事でよければ受け入れましょう」


          *          *


 旅立ちの日、ダークエルフの少女リンは迎えに来たリフ爺と共に東へと進み、マリナに先導されてエルフ女性と獣人の二人がドワーフ皇国へと向かう。そして俺とトオルはこの地に残り『剣聖道場』の門下生としてしばらく過ごす事になる。

 エルフ女性と獣人達を里の境まで俺達は見送りに出た。

「主殿、達者でな」

「自由の身になったんだ。もう主殿は止めてくれガルン。それにワウリンも元気でな」

「ああ、獣人の国なんてあると聞いては、もう死ぬなんて言っていられない。今から楽しみでしかたない」

「それとエルフの君も、元気でな」

「あ、あの。リュミミルです。私の名前」

「そうか、元気でなリュミミル」

「はい」

 エルフのリュミミルが別れ際に近づいてきて俺の頬にこれまでのお礼のキスをする。四人が遠くなっていくのを見送る俺とトオル。

 トオルが俺のシャツを引っ張りながら血の涙を流しながら凄んでくる。

「どうなってんですかリュウセイさん。エルフの子とどんな関係なんですか! なんでリュウセイさんばっかり。うわああああああ」


 うあああ、言われてもな…。

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