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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
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リン騒動

 魔の森の最南端、カリート王国の商人ホワイトの手により魔国へ続くルート開拓が行われ、これに併せて魔族軍の物見台や小さな小道が作られた事で近年では比較的安全に通行できる地域になっている。

 この道を通り魔国入りを目指した深淵の迷宮の眷属リンと護衛の進化リッチリフの二人であったが、思わぬ事態に遭遇する。

 前方から立ち上る黒煙、そして森の外にはパドール王国の旗を掲げる一軍の姿。

「リン様、このルートは危険でございますな。もう少し北上して森を越えると致しましょう」

「リフ爺、空を飛んでは行けないの?」

「浮遊魔法ではそれ程高くは飛べませぬ故、リン様が狙い撃ちされる危険があります。故に一度ファータル王国へと入り、魔の森を浮遊して抜けるのが得策かと」

「分かった。じゃあね。トイレ行きたい」

「トイレでございますか。それならその辺の茂みで」

「リフ爺にはデリカシーというものが無いわ。コイワイと一緒ね」

「ななな、なんと。コイワイと同列にされるとは何とも不本意。分かりましたすぐに近くの村か町かを探し、リン様に相応しきトイレを探し出しましょう」


          *          *


 俺達は北の小三国の一つファータル王国へと入り、最初の街フェムトを訪れた。

 ファータル王国は小国ながら別名魔法王国と呼ばれる魔法先進国らしく、街の城壁に立つ城塔がエノキのようにいくつも高く伸びているのが特徴みたいだ。

 俺達のこの街での目的は奴隷捜し。だがまずは身分証を作る必要がある。神聖タミナスが世界から隔絶された国家であるなら俺達の手配はこの国には及んでいないはず。

 まずは冒険者ギルドにてカードの再発行が出来ないかを尋ねてみた。

「再発行出来るんだ…」

「登録情報は大陸内で共有していますから大丈夫ですよ。銀貨十二枚頂きますね」

 笑顔でそう答える受付嬢、魔法って凄えって初めて思ったかもしれない。


 俺とトオルはリュウセイとトオルの名でのギルド証を受け取り、ギルドお勧めの安宿に荷物を降ろす。そしてすぐに向かったのが奴隷商人のお店だ。

 手持ちの資金の半分はミヤコに渡した荷物と共に消えたが、それでも金貨四十枚近くの財産はある。俺達二人と雇う奴隷の当面の生活費に金貨二十枚を確保して、予算金貨二十枚という所で奴隷選びを行うつもりでいる。

 俺達が外で活動している間に後方でポーションの瓶詰めをして貰うのが主な作業になるので、戦闘に向かなくても問題はない。しいて条件を出すなら維持に金がかからないという事ぐらいだろうか。

 奴隷制を敷く国家だけあって通りの道も奴隷で溢れている。というよりも奴隷労働力を使う事で身の丈以上の国家が維持できているという事なんだろう。

 見かける奴隷が全部獣人、ケモ耳娘を嫁にという願望のトオルのであったが、獣人奴隷の劣悪な就業環境を目の当たりにして気分が悪そうだ。

 道行く人に尋ねてこの街一番の奴隷商人の店を訪れる。

『奴隷取り扱い専門オデカン商会』

 でかでかとした看板と、表には看板商品となる屈強な戦士系の獣人達がズラリと並ぶ。

 奴隷に興味を持って見ている俺達に早速オデカンの商会員が近づいてくる。

「私担当のサマモと申します。今日はどの様な奴隷をお捜しでしょうか?」

「そうだな。ちょっとした軽作業を行えて維持管理費の安い奴隷が理想だが…」

 俺達が購入希望者だと知ると更に商会員の愛想が良くなる。店の中へと通されて戦闘向きでない奴隷達の檻を俺達に紹介する。

 商品という事でそれなりに綺麗な衣装を纏った色っぽい感じの女性獣人達。なんというかエロい。トオルなんて既に鼻の下を伸ばしてその檻の列を鼻息荒く吟味している。

「こちらの商品でしたら、夜の方も十分に楽しめますよ」

 女性奴隷の性奉仕というのはおそらくこの世界では当たり前なんだろうな。端の方には男性もいるから女性用の性奴隷というのもいるみたいだ。

 現代日本で生まれ育った俺もトオルも奴隷制と聞いてあまりいい気はしない。

 今日手に入れようとしている奴隷も秘密を守らせるという一点以外であれば奴隷でなく一人の仲間として扱いたいと俺達は考えている。だから『夜の奉仕』なんていうのは目的と合致しないし、女性獣人用に一部屋を借りるとなると維持費が高くついてしまう。

「出来ればもっと幼少の子の方が望ましい」

「そうでございますか。そっちの方がご趣味で。オヒト、ガワルイ、お前達の担当のお客さんみたいだ。よろしく頼むよ」

(どっちのほうだよ!)


 俺とトオルに新たに付いた担当商会員は二名。

 彼等に連れられて地下室へと下りていく。

「近年ではパドール王国から活きの良い獣人達が大量に入荷していますからねえ。気に入られる商品が必ずあるはずですよ」

 そう言われて眺める檻の中には、子供の獣人達が二十人以上はいるみたいだ。トオルが何かに気付いて俺に耳打ちする。

「リュウセイさん。あれ」

 トオルの促す方を見ると一番奥の檻の中に物凄く不機嫌そうな顔をしたダークエルフの少女が座っている。その服装、明らかに俺達の乗った装甲馬車にいた少女に違いない。

「すまないが、あの一番奥の子は幾らだ?」

「ああ、すみませんね。ダークエルフは希少種でして一般の方にはお売りできない非売品なのです」

「そうか、もし売るとしたら幾らぐらいになるんだ?」

「そうでございますね。最低でも金貨一千枚程度は…」

「金貨一千枚…」

 俺の資金で買い戻すって事はできそうにない。しかしこれは、見過ごす訳にもいかんだろ。とりあえず子供達の品定めをするフリをしながらこの建物の観察に俺の意識は切り替わる。

 ダークエルフの少女の方に俺達が近づくと、彼女が凄い剣幕で喚き始めた。

「ここから出しなさい、この人間共が。私にこんな事して、この街滅ぶんだから」

「威勢のいい商品だねえ」

「本当なんだから。リフ爺は気が短いから、もうすぐ大変な事になるんだか…きゃあああ」

 バチバチと放電するロッドを手にして商会員オヒトがダークエルフの少女の檻の中へとロッドを押し込む。悲鳴を上げて檻の隅に逃げる少女。

「来客中だ。静かにしていろ」

 冷たく言い放つオヒトにダークエルフの少女が黙り込む。その後ろで小さく手を振る俺とトオルの姿を目にして少女が「あっ」と声を上げそうになるが、俺達は「シー」って指で合図して彼女を黙らせた。

 その後は一応、奴隷の扱いや契約方法、禁止事項や奴隷首輪の仕組みについて教わり、吟味した上で後日改めて契約に来ると伝えて俺達は奴隷商を後にする。


「やっぱ助けるんですよね。リュウセイさん」

「そうするしかないだろう。知らぬで見過ごす訳にもいかないだろうしな」

 そしてすぐにダークエルフ少女のリンの救出計画を検討する。すぐに奴隷首輪問題に行き詰まった。奴隷商に忍び込み上手く奴隷を解放出来たとしても奴隷首輪がある限り奴隷達を街の外へと連れ出すことは出来ない。

 奴隷契約主は商会頭のオデカンであり、彼を殺すか奴隷と一緒に拉致して逃げるか、彼を脅迫して奴隷契約を解除させるしか方法がないのだ。

 出来れば殺人等という物騒な手段は使いたくはない。だから俺達はしばらく奴隷商店に通いながらもう少し情報収集しようという事にした。


          *          *


「リン様は何処に~」

 進化リッチであるリフの叫び声が大地に木霊する。


 立ち寄った街道沿いの大きな村の宿場。

 そこならばとリン様を一人トイレに行かせたのが失敗の始まりだった。頭を布で巻いて尖った耳を隠していても、人攫いには関係ない。 

 捕まえた子供がダークエルフと知り、彼等は更に大金が手に入ると歓喜の声を漏らしたぐらいだった。

 人攫いにトイレはうってつけ。ガキが一人になる時を狙って反対側の板が外れる仕掛けがしてあるのだ。宿の主も普段は一般人だが、こんな時には彼等とグルになるのである。

 袋に詰められ馬に乗せすぐに奴隷商店へと運ばれるリン。


 リフの対応の遅れはトイレが遅いからとその様子を覗き見れないという事情からであった。

「う〇こ、長いですなあ」等と考えながら宿場の前をうろうろしているリフの哀れな姿には同情を禁じ得ない。

 リンが行方不明になった事に気付いたリフが村の周辺を捜索するも、すでに彼女を乗せた馬は遙か彼方へと去っていた。


「何たる失態。何たる非道。許せぬ。ファータル王国よ、この報いをこの怒りの全てを受けるが良い」 


 超激高したリフはアンデッド領域にある帝国の廃墟の街アントレーとリベルソの二つの街を制圧するアンデッド軍団に大号令をかけてファータル王国へと進軍を開始した。

 その内訳はアントレーの街に展開するスケルトン兵士五万、リベルソの街に展開するリッチ一体と異世界ゾンビ十万の総勢十五万の大軍。

 これらが急進した事で魔国侵攻の足掛かりを築こうと魔の森を攻撃中であったパドール王国軍一万はすぐに南部街道沿いの砦まで撤退、アンデッド軍の動きを注視したのである。


 リンが攫われて十日後、ファータル王国南部国境砦はこのアンデッド軍団の攻撃の前に伝令を発する間もなく一瞬にして陥落。そこからアンデッド軍団は歩調を緩めてゆっくりとした速度で北へと進軍を開始する。

「「ダークエルフの少女を返せ」」

 ゾンビ達が唸りに似た声でそう叫び、スケルトン兵士達が盾を鳴らして歩いて行く。


 リュセイとトオルがリン救出の為の情報収集を始めて三日目、ファータル王国南部の村々の住民が命からがらフェムトの街へと逃れ、アンデッドの大軍がこの街に迫っているのだと告げる。

 この非常事態に街は騒然となった。

 急きょ伝令が王都へと走り、南部城壁では籠城戦の準備が進められる。まだ冒険者に招集は掛かっていないが、この街に長居すると俺達もアンデッドの軍団と戦わされる羽目になる。


「リュウセイさん。あのアンデッド騒ぎってダークエルフの少女絡みですかね?」

「そう考えた方が良さそうだよな。あの子を助け出してとっととこの街からおさらばだな」

 俺達はオデカン商会が奴隷達を引き連れて王都へと避難するという話を聞きつけ、リン救出計画の方法を大幅に方針転換することにした。

 金貨五枚の戦闘奴隷達を六人買い、彼等を武装させて俺とトオルを含めた総勢八人で奴隷商の隊列を街の外で襲うという方法に切り替えたのだ。つまり俺達が盗賊になるって話だ。


 準備期間も殆ど無い雑な作戦だがやるしかない。俺達は行動を開始した。

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