表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
20/41

束の間の平穏

 コガ村近郊での吸血鬼の大討伐作戦は騎士団を中心にその後も続き、地下五層の捜索は続いている。

 精鋭冒険者パーティー八名の中で生き残ったのはデイドラさん唯一人、デイドラさんは足の骨折を押して指揮の為に現場に残り、その場に居合わせた俺はというと重傷者として一足先にタミナスの街に戻り療養所と呼ばれる場所へと移送された。

 これまで回復ポーションによる治療がどういう物なのか知らずに使って来た俺だが、療養所に詰めている薬師や神官からある程度回復魔法やポーション治療について分かりやすい説明を受ける事が出来た。

 それによると、回復魔法やポーションは神が造った種族単位の雛形に沿って主に欠損部分を修繕するものらしく、その復元範囲の大きさで上級や低級といった区別がなされるのだとか。

 だから心臓が左右逆にあったりする様ないわゆる奇形とされる部類の場合はその部位が修繕されなかったり、傷口を長く治療せずにいると奇形として固定されてしまう為に魔法やポーションではその部分を直せなくなるのだとか。

 そしてデイドラさんの様な骨折については即応すべきでない場合は半自然治癒的な回復の方がより強い骨に生まれ変わるなんて民間伝承的な認識も根強くあるという。

 聞いた限りでは俺が子供の時に手術した盲腸はどうやら復活する事は無さそうだ。そして俺の失われた左腕の先っぽ部分は再生を促すエリクサーとかいう超希少回復薬か高位の神聖魔法の使い手でなければ直せないらしく、その回復薬の存在が確認されたのは遙か昔の事で、正教会の高位司祭は政治的に出世した者ばかりなので高位の神聖魔法を操れるものはいないだろうとの事だ。

 もしどちらかが実在してもそれにかかる費用は相当なものになるのだろう。


 元の世界の医者が聞いたら卒倒しそうな医療技術と医療知識で俺は療養所生活を送る。何と言っても驚いたのはその食事、「とにかく肉を食え」って初日から山盛りの皿が目の前に置かれた。

 ポーションや魔法での無理矢理の回復は体内の力を凄まじく消耗するからと説明されたから、そういう意味では理にかなっているのかもしれない。

 肉ばかりの山盛りの食事と回復術師による何時間にも渡る魔法治療を受け、二十日後には退所し『青牡蠣亭ブルーオイスター』の部屋へと戻る事が出来た。

 ちなみに俺の治療費は全額トリモーマイ公爵家が負担してくれている様だ。

 見たことも無い貴族様、とりあえず心の中で感謝だけはしておこう。

 この頃になるとトオル達冒険者もその大半がタミナスの街へと帰還しており、トオルと食った宿の夕食の固いパンとスープが異様に美味く感じた。だが、相変わらずミヤコだけはトウマを探すと言って現地周辺を彷徨いているらしい。


 俺の退所を聞きつけてかその翌日には冒険者ギルドからの呼び出しがかかった。

 片腕ではまともな依頼も受けられないので、当面トオルとは別行動で俺は一人で冒険者ギルドへと向かう。

「いよお、吸血鬼殺し(バンパイアバスター)

 コガ村近郊の廃ダンジョンでの話がどう伝わっているのか知らないが、居合わせた冒険者達がそんな声を俺に掛けてくる。どうやら俺の二つ名は『神の』から数段箔が付いたものにはなった様だ。

 すぐに二階のデイドラさんの部屋へと通され、集まったギルド職員達と共に今回の吸血鬼事件の顛末がデイドラさんから語られた。

 廃ダンジョン五階層の砦の更に奥地に抜け穴があり、そこは海辺に出来た洞窟にまで繋がっていたという。何かの影響で洞窟と廃ダンジョンが繋がり吸血鬼達は海沿いからダンジョンへと侵入し拠点を築こうとしていたのだという。

 そして無数に現われた吸血鬼の出所も判明。町や村との交流の殆ど無い隔離された海沿いの漁村三つが廃墟になっており、そこの住民達が上級吸血鬼の犠牲になったのだろうという事だった。

 それよりも…、

「上級吸血鬼は俺が倒した事になっているんですか?」

「正確には倒れた精鋭冒険者達七人とリュウセイとでの討伐という事になっている。すまないが最初から全部見ていた私の判断だ」

 そう言うとデイドラさんは深い溜息を一つ吐く。

「リュウセイ、お前は斧の一振りで大地を裂き砦一つを真っ二つにする様な女が現われたと聞いて、それを鵜呑みにして信じられるか?」

「無理ですね」


「リュウセイが倒れた後で化物じみた力で上級吸血鬼を消し飛ばしたAランク冒険者のバイオレットとその仲間と思われるBランク冒険者ケープの二人は消息不明。

 あんな力の存在を話した所で誰も信じたりはしてくれんし、そうなると誰が上級吸血鬼を倒したのだという事になる。そういう訳で騎士団長を含め公爵達貴族を納得させるための処置だ」


「はあ」

「現に君はEランク冒険者であるにも関わらず下級吸血鬼を三体も倒している。あの状況で生き残ったのは奇跡だが、ともかく君は生き延びている。これは快挙だよ。誇っていいと思う」


 それとと付け加えてデイドラさんが目配せすると、ギルド職員が金貨の詰まった袋をテーブルの上に置く。

「これが討伐報酬、リュウセイの取り分になる。共同討伐という形だから七人分は既に引いてある。受け取って欲しい」

「こんなにですか?」

「それだけ危険な仕事だったという事だよ。公爵家からリュウセイを家臣にという話もあったんだが、君の体の状態を聞いて公爵様は何とか諦めてくれたよ」

「はあ」

「さっきから溜息しかつかないな君は…、気持ちは分かるが一つ確認しておきたい。冒険者はこれからも続けてくれるのかい?」

「そのつもりです。ですがこの腕では…」


 俺の目の前にゴトリと置かれたのは鋼鉄製の籠手。

「リュウセイの義手の代わりだ。私からのプレゼントだよ。私の命を救ってくれた礼でもある。受け取って欲しい」

「ありがとう御座います」

「リュウセイの腕に合う様に調整をするから明日からまた訓練場の方に通ってくれないか。細かい作業はうちのお抱え鍛冶師のダンダダンがやる」

 

 そこまで言うと報告会は終わった様でギルド職員達が部屋を出て行く。

 途端にデイドラさんが俺に抱きついて来た。

「今日はさ、午後からお休みにしてあるんだ。この後食事でも一緒にどうかなリュウセイ。ちゃんとお礼も言っておきたかったし」

「ああ、はい。喜んで」

 杖を付きながら歩くデイドラさんと一緒に午後は高めの食事処でランチと決め込んで、その日の夜俺は宿へは戻らなかった。 


          *          *


 その後も何度か無断外泊した翌日のトオルのじと目が俺に突き刺さるが、特に気にせず俺は楽しく冒険者稼業ってやつで暮らせている。

 義手が完成するまでは討伐より薬草採取を主にやっているが、片腕での採取は中々に難しい。ギルドの地下室でのポーション作成は問題なく行えているので収入面は安定している。

 トオルはというと『金の切れ目が縁の切れ目』というやつか、ご執心のラヴちゃんの元へと通えるほどは稼げていないようで悶々とした日々が続いている様だ。

 それでも冒険者仲間内でのトオルの活躍話や評判は良いようなので、それなりに上手くやれているのだろう。

 問題なのはミヤコだ。

 最近では冒険者稼業も疎かでトウマの情報を求めてかなり遠出までしている様で、隣の部屋の賃料も今は俺が立て替えている状態だ。

 冒険者ギルドの見解ではトウマは既に下級吸血鬼となっていて、おそらくは討伐された可能性が高く逃走を続けているという線は望み薄だという。

 一応俺とトオルも冒険者ギルドに貼り出される依頼に吸血鬼関連のものが無いか目を光らせてはいるが、今の所はまだ一件もそんな依頼は届いていない。


 そしてついに俺の義手の調整が終わった。

「リュウセイさん。ガッツみたいじゃないですか。大砲とか付いてるんですか?」

「大砲は付いていないが、この紐を引いて魔力を腕の魔石に込めると風魔法の刃が手首の所から飛び出すみたいだな」

「うおおお、ますますガッツじゃないですか」

「だからそのガッツって何なんだよ!」

「あと手甲をスライドさせると鈎爪が二本ほど飛び出す。これはミスリル銀製らしいぞ」

「ん~ちょっと違う」

「そこは驚かないんだな…」


 デイドラさんが俺用に奮発してくれた多機能な籠手だが、良い面ばかりではない。義手代わりの籠手は細かい作業が出来ないのが難点で、剣の扱いを左右入れ替える必要性も出て来た。

 義手の持ち手に剣が固定できるので、剣の扱いを左利きにして俺のスタイルである携帯回復ポーションの取り扱いは右手にしないといけないのは慣れが必要になる。

 新たに新調した装備で冒険者ギルドを歩く俺を人は『鉄腕リュウセイ』『吸血鬼殺し』と呼んでCランクの冒険者達も俺に一目置いて道を開けてくれる。

 気分が良いというよりもむず痒い。だが冒険者としてやっていく自信がついたのは確かだった。


          *          *


 正教会総本山セリムテンプル。

 タミナスの街での吸血鬼騒動が一段落ついた頃、この地で神聖タミナスを揺るがす大きな動きがあった。

 軍列を組んで出撃していく神聖騎士団。若々しい顔立ちの彼等の中に一人白馬に跨がり派手な鎧を身に着けて進む壮年の男の姿がある。

 彼こそが正教会が新たなる勇者と認定した『光の戦士』ハラグチ、そしてその傍らには彼の元秘書であった魔法使い三上京子ことキョウコの姿がある。

 彼等が目指すのは神聖タミナス領を越えてアンデッド災害地域へと進出し、アンデッドに対して小規模な一撃を加えて勝利を掴む事で人々に勇者の存在を大々的にアピールする事。

 これにより勇者を保持する正教会の力を誇示し、神聖タミナス内で没落していく正教会の権威の復活と権力の座を再び手中にする事であった。

 治安維持軍を除く神聖騎士団二千名、正教会の持ちうるほぼ全戦力は南のテアッドの街を経由した後に東進。アンデッド領域の手前まで差し掛かった所で陣を敷き、来るべき戦いの時に備えたのである。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ