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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
17/41

大規模討伐

 上級吸血鬼には複数の種類が存在する。

 その種別は貴族階級にて表され、下級吸血鬼から進化したての新参を唯の上級吸血鬼と呼び、それ以上の強さの個体を伯爵級から最上位の君主ロード級と区別するが、侯爵と公爵級を見分けるのは困難であり、一般的には大きく『上級吸血鬼』『伯爵』『君主ロード』の三種のみに区分されている。

 そしてバンパイアロードに咬まれた人間は上級吸血鬼に変貌する事から、タミナス冒険者ギルド及びトリモーマイ公爵家はコガ村近郊の廃ダンジョンに巣くう吸血鬼の群れを率いるのはロードより下位の上級吸血鬼であろうと想定して本掃討作戦に当たっている。


『廃ダンジョン偵察隊』壊滅から七日目、ようやく到着した正教会への支援要請の返答を持った使者の言葉にタミナス冒険者ギルドのギルドマスターデイドラが声を荒げた。

「神聖騎士団の派遣要請を断るだと。それで使者と共に送ってきたのがダンジョンの地図だけとか、貴様らは一体何を考えているんだ」

 デイドラの怒りを無視して淡々と正教会総本山よりの言葉を告げて帰還していく使者。

 トリモーマイ公爵家の騎士団を預かる団長のトリスと副団長のヘネスも使者の言葉に苦い顔を見せている。


「この神聖タミナスはトリモーマイ公爵を中心とする貴族派と正教会の法王派とで水面下で勢力争いの真っ最中ですからな。この討伐で公爵の名声が上がるのを警戒しているのでしょう」


「上級吸血鬼の脅威を甘く見すぎだ。権力争いなどしている時ではあるまいに。

 せめてこのダンジョンを攻略したカンダダのパーティー『サウザンドナイン』が健在であったならな。アンデッド災害の前後で彼等も行方不明になってしまっているし」 


「無い物ねだりをしても仕方ありますまい。

 事前の打ち合わせ通り我ら騎士団二百名で五階層までの道を開き、上級吸血鬼の討伐を冒険者の選抜メンバーにて行うでよろしいですかな?」

「こちらに異存は無い。Aランクの冒険者が私を含めて二名しか集まらなかったが、Bランク冒険者の魔法使いをその分増やしたので何とかなるでしょう」

「コガ村の防衛に兵士五百、ダンジョン入口に五百、踏破した階層毎に二百名を置き攻略拠点を築き不測の事態に備えますので、安心して進んでください」


 正教会神聖騎士団の討伐不参加の報告を受け廃ダンジョン討伐の為に集った者達は、ようやくその重い腰を上げたのである。


          *          *


 複数の冒険者斥候によりダンジョン内の罠を解除しつつ通路を重装甲に盾を構えた騎士達が整然と進んで行く。進軍路に立ち塞がる下級吸血鬼達がその軍列に襲いかかるが、盾の壁に防がれて串刺しになり、魔法で焼かれて次々とその数を減らしていく。

 騎士団が二階層へと進むと一階層と二階層を繋ぐ場所に拠点が築かれ簡単なバリケードが敷設される。兵士達がその作業をしている間に冒険者達は数百名の規模で一階層の隅々までを調査し、下級吸血鬼の討ち漏らしが無いかを調べて回る。

 制圧された区画の全てにライトの魔法の明かりが灯され、ダンジョン内は武装した人々が行き交うさながら街の様な賑わいとなっていった。


 三階層、四階層と進軍していく騎士団。

 騎士団の後ろに続くのは上級吸血鬼討伐の為に集められたギルドマスターデイドラ率いる即席の精鋭冒険者パーティーの八人。そして予備の食料や水、医薬品を運ぶ荷物持ちの冒険者志願組の中にリュウセイとトオルの二人の姿もあった。


 俺の姿を見つけたデイドラさんが険しい表情で俺に声をかけてくる。今日の彼女は気合いを入れた装備で動きやすい革鎧をベースに胸を覆うブレストプレート。そして彼女の持つ剣と盾はその両方共が一目で通常の武具とは一線を画すものだと判別出来る代物だ。

「リュウセイ、私としては君に来て欲しくは無かったんだがね」

「仲間が連れ去られているんですよ。放っておけるわけがないでしょう」

「トウマだったか、彼はもう絶望的だよ。既に食料用の血袋か下級吸血鬼にされているはずだ」

「それでも…」

「まあ、気持ちは分からないではないが、希望は捨てることだ。君も彼女もね」

 デイドラさんは先頭集団に加わっているミヤコの方にチラリと目をやりながら言う。

「しかし、下級吸血鬼って獣みたいなものなんですね」

「吸血鬼化して日の浅い者は獣じみているけれど、徐々に人間の時の記憶を取り戻して知性的になっていく。そうなると人間社会の中に溶け込んで生きていたりするから見つけるのが難しくなるんだ」

「なるほど」

「しかし、これ程の数が巣くっているとは全くの予想外だった。我々が気付いていない場所にあるどこかの町か村が既に襲われているのかもしれないな」


 前を行くデイドラさん達八人の上位冒険者達は俺達とは明らかに違う一種異様な雰囲気を身に纏っていて格の違いというのをまざまざと見せられている感じがする。

 荷物持ちの志願組は体力自慢の者達が参加していて俺とトオルだけが小さく貧相にも見えて場違いな感じだ。そんな中で俺達二人はと言うとトオルは水の入った樽を背負い、俺はおっさんだという理由で比較的軽めの回復ポーションの詰まった鞄と松明の束を持たされている。


 上級吸血鬼とほぼ確実に遭遇するであろう五階層に入る前に小休止を取り体力を回復させると告げられた。

 トオルが冒険者達に飲み水を配り始め、俺は回復ポーション等が必要ないかとデイドラさん達討伐組の八人に確認して回る。

 討伐組の八人はデイドラさんを含む剣士系が三人、回復職が一人、魔法使いが四人という構成だった。それぞれがかなり高価そうな武具を持っている中、一人ローブを身に纏う回復職の黒髪の女性だけがなぜかどう見ても唯の木の棒を持っているのが妙に気になった。

 彼女はデイドラさんと同じAランクの冒険者だというが、同じくローブを纏った女性の魔法使いと二人で身を寄せ下を向いて誰とも話そうとはしない。

 必要なものは無いかと軽く声を掛けてはみたが無視されたので、俺もそれ以上彼女達に関わることを止めた。

「AランクのバイオレットとBランクのケープだね。ずっとあんな感じだよ」

 デイドラさんにもそう言われた。そもそも他の上位冒険者達もCランクに満たない俺の事などはなから眼中に無い様な雰囲気で、最低限の返事ぐらいは返してくれるが俺の顔を見ようともしない連中ばかりだ。

 出発の合図が掛かり全員が腰を上げて進み始める。

 最下層となる五階層へと降りると今までの洞窟的な雰囲気とはガラリと変わり開けた場所になる。

 更に先に進むと五階層の全貌が見えてきた。

 眼下に広がるのは青白い光る魔法の街頭に照らされた石畳の通りを挟んで家々が建ち並ぶ町の廃墟とその向こうにある大きな堀に掛かる一本の石橋の先に砦が見え、小さな城下町を形成している。

「前回はここを降りた所で吸血鬼達の襲撃を受けました。注意して下さい」

 先頭を行く集団にいたミヤコがそう声を上げた。 

 騎士団を先頭に長い石段を降りて廃墟となった町へと侵入していく。

 警戒しながら大通りを進み件の一本橋へと至る。そこで騎士団が停止した。


「冒険者討伐隊前へ」

 副騎士団長ヘネスの号令にデイドラさん達八人が動き出す。俺達も状況が知りたいので騎士団の整列する脇から顔を覗かせて状況を見守った。

 かなり深い空堀に掛かる長い石橋の先、砦の門前に立っている赤い目をした一団。

 獣の様な吸血鬼を数体と側近らしき二人の女性吸血鬼を従えた如何にも吸血鬼という風体の男がその中央に立つ。あれが討伐目標の上級吸血鬼ってやつか。

 冒険者討伐隊が進み、石橋の中央まで差し掛かった辺りで吸血鬼達も動き出す。

 先制の魔法使いの火球が吸血鬼達を襲うが、それをひらりと躱しながら俺の目でギリギリ追えるか追えないかという速度で奴らは急接近してくる。

 吸血鬼の側近二人を引き連れた上級吸血鬼と八人の冒険者討伐隊の前衛がぶつかる。

 デイドラさんと上級吸血鬼が互いに剣で斬り結び、二人の剣士には側近達が爪を武器に肉弾戦を仕掛けてくる。魔法使いと回復職の五人は少し退がって距離を取り、何やら呪文の詠唱を唱え始めた。

 デイドラさんと上級吸血鬼の激しい攻防、一体の側近吸血鬼が華麗な体術で剣士の頭上を飛び越え魔法使い達の一団へと迫る。

 途端に何かに阻まれるかのように側近吸血鬼の動きが止まった。まるで何か見えない壁がそこにある様にも見える。

 展開した防御結界に阻まれ進めずにいる側近吸血鬼に向けて魔法使い四人が火球を弾幕のように連続して放つ、火球を回避する吸血鬼の背後に現われた剣士が彼女の首を斬り落とすと、首の切り口から激しい炎を吹き上げて側近吸血鬼の一人が絶命した。

 これを機に形成不利と見た上級吸血鬼達が後退して砦の中へと逃げ込んでいく。

 冒険者討伐隊はそれを追わずに橋の中央で未だ止まったまま動かない。魔法使いが前に出て防御結界を展開し剣士達二人がその場で蹲って動けないでいる様だった。

 デイドラさんの声が聞こえた。

「リュウセイ、回復ポーションを頼む」

 呼ばれた俺は騎士達の間を抜けてデイドラさん達の元へと一人走る。どうやら剣士二人がかなりの手傷を負っている様だった。

 俺は持たされた鞄から回復ポーションの入った瓶を二人の剣士に手渡しその様子を見る。腕と腹にかなりを深手を負っていた様だが、回復ポーションの効果でその傷はみるみると塞がっていく。

「フェリクス、シャナン行けるか?」

 デイドラさんの声に頷く二人の剣士。


 突然、カーン、カーンと何かを叩く様な音が周囲に響き渡る。微妙に感じる足元の揺れ。デイドラさんが石橋の側面から砦の方を覗き見て慌てて声を上げた。

「罠だ、逃げろ。全力で走れ」

 デイドラさんが俺の腕を掴んで味方の騎士達が陣を組む方向へと走り出す。その後方で要石をハンマーで叩き割られた石橋が崩れ始め、石橋の崩落が俺達九人を飲み込んでいく。

「リュウセイさ~ん」

 トオルが手を伸ばしながら叫んでいるのが見えた。だが俺達はそのまま崩落に巻き込まれて下方の空堀の底へと落ちていった。


          *          *


 石橋の崩落を合図に周囲から吸血鬼達の奇声が上がる。

「全周防御」

 騎士団長トリスが声を上げると騎士団員達が盾を並べて内側に魔法使いを置いた円陣を組み始める。冒険者達も独自に固まり剣を抜き襲撃者に備える。

 ライトの魔法を周囲に展開して視界をより明るくする中、数十もの吸血鬼の群れが騎士団、そしてトオルとミヤコがいる冒険者達にも襲いかかった。 

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