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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
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暗闇からの脱出

「くっそ、最後のポーションをさっきの戦闘で使い切った。回復魔法じゃとても間に合わない」

 回復職の男が瀕死の冒険者の手当てをしながら悲痛な声を上げる。

 死者二名を出す激しい戦闘を既に繰り広げ満身創痍となった冒険者達、それでも何とか四階層に退却し生き残るための算段を各パーティーのリーダー達が話している。

「何でこんな事になったの…」

 弓を構えたミヤコ達は聖水に鏃を浸した矢をつがえて暗闇の中へと放つ。通路の奥の方で悲鳴を上げる赤い目が逃げ散っては、すぐにこちらへと向け接近してくる。魔法使いが爆裂魔法を赤い目の群れへと撃ち込み、爆風がミヤコの頬を通り過ぎていく。そしてしばらくの間静寂が訪れた。

 

 コガ村近郊のダンジョン調査に赴いた三つの冒険者パーティーからなる『廃ダンジョン偵察隊』、地下五階層からなるこのダンジョンの四階層までの調査は順調に進み、懸念されていた下級吸血鬼との接触は皆無だった。

 まだ機能する罠を避け、踏破してきた道筋にはライトの魔法の明かりを照らして来た。

 主力となるCランクパーティー『咆える狼(ハウリングウルフ)』とCランク冒険者を含む混成の二パーティーの一つにミヤコとトウマの二人は参加していた。

 ミヤコの偵察、罠察知の能力とトウマの神聖魔法による聖水の作成を見込まれての勧誘だった。何より今回の依頼はトウマの力が必要とされた為、危険度が高いとされながらもミヤコは進んでその申し出を受けたのだった。 

 残すところあと一階層の調査を終えれば多額の報酬を得られる。そんな甘い夢は五階層を半ばまで踏破した時に砕け散った。

『廃ダンジョン偵察隊』は複数の下級吸血鬼の群れに襲われたのだ。

 用意した聖水に魔法使い達の爆裂魔法でそれらを迎撃したが、その戦闘で魔法使い達は大半の魔力を使い切り、聖水も残り僅かしかもう残ってはいない。

「早く決断して。もう魔力が持たない」

 狭い通路を進み来る下級吸血鬼達を三人の魔法使いが交互に爆裂魔法の詠唱で退けてはいる。直撃させれば殺す事も可能だが爆風で傷つけた傷は再生され再び奴らは集まって来るのだ。


『咆える狼』のリーダーが声を上げる。

「吸血鬼のこの数、間違いなく上級吸血鬼がいる。奴が動き出せば俺達は間違いなく壊滅する。だから全員が生き残るのは難しいと理解してくれ」

 その言葉に息を飲み込む面々。

「俺達が全滅してもここが危険だという事は外の連中に伝わる。だが詳細な報告があれば今後の犠牲を少しでも減らす事が出来るだろう。だから一人でも多く生き残る選択をする」


「まず俺達『咆える狼』が殿しんがりとなってここで踏ん張る。その間に他の二パーティーは地上を目指せ。最初に逃げるのは既に二人を失っているオルカのパーティー、今治療中の彼は申し訳ないがここに置いて行ってくれ。そしてオルカのパーティーから三十数えてシェイフのパーティーが出発。時期を見計らって俺達も後退して地上を目指す。これは決定、反論は無しだ。すぐに始めるぞ」


「ルディ、すまない」

 Cランク冒険者の剣士オルカが重傷で動けぬ同僚に一別し回復職と魔法使いの二人と共に地上を目指して走り去ると、私達のパーティーのリーダーであるシェイフが指を折りながら三十を数え始める。

 置き去りにされたルディと呼ばれた怪我人の元へ駆け寄ろうとしたトウマをミヤコは引き戻した。

「ミヤコ、でも…」

「トウマ、判断を間違えないで。全員が死ぬ状況なの。今は自分達が生き残る事だけを考えて」

「二十九、三十。行くぞ」

 シェイフの声に従い私達六人も地上を目指して走り出す。振り返った私に『咆える狼』の面々はその表情で無言のエールを贈ってくれた。


 背後から聞こえる爆裂魔法の炸裂音。『咆える狼』達が戦う怒声がだんだんと遠くなっていく。ライトに照らされた明かりの中を走る私達。だが全ての罠を解除して来たわけでは無い。

「急ぎすぎてトラップを見落とさないで。出来るだけ通ってきた道を進んで」

 ミヤコはパーティーの面々に注意を促す。

 三階層の通路、目の前の床に大きな穴が開いている。来るときには無かった穴だ。進む速度を落とし、慎重に穴の横を通り過ぎる。

 一人が松明に火を灯して穴の中に投げ入れると底の様子が見て取れた。

 先行した剣士のオルカと魔法使いの男の二人が穴の底で串刺しになって死んでいた。二人のうちのどちらかが誤って罠を作動させてしまったのだろう。


 リーダーのシェイフが言う。

「敵に追いつかれたら重装の俺とジョセフは逃げ切れない。だから俺達二人が壁になって防いでいる間にリンダとノッチはミヤコとトウマを連れて逃げてくれ」

 そしてシェイフは私とトウマに詫びるように言った。

「トウマ、ミヤコ。Eランクのお前達をこんな危険な場所に誘って悪かったな。俺の判断ミスだ。何とか生き残ってくれ」

 シェイフとジョセフが立ち止まり剣と盾を構える。私達の後方から接近してくる奇声、吸血鬼達のものだ。

「行け。走れ」


 二階層の入口階段、足に罠の矢を受けて歩けなくなっている回復職の男性が壁を支えにゆっくりと進んでいる。その横を私達四人は走り抜けて行く。

「助けてくれ。お願いだ。俺も連れて行って…」

 懇願する声、私達はその声に応える事無く、無念さに唇を噛みながらひたすら出口を目指す。


「うわあああ。止めろ。ああああ」

 すぐ後ろで犠牲となった冒険者の叫び声が響く。

「もう少しだ。急げ」

 トウマを先頭にノッチと私、そしてリンダが続く。

「ああ、くそ」

 リンダの叫びに立ち止まる私とノッチ。私達の視線の先でリンダを通路の壁に押しつけて三体の吸血鬼が彼女の肩に腰に腕に牙を突き立てている。

「お前達は行け」

 ノッチが剣を振り上げてリンダを捕える吸血鬼達へと向かおうとするが、リンダの居た辺りから突如火球が弾けて通路が炎で満ちあふれ、下級吸血鬼達が燃えながら床をのたうち回る。

 彼女が吸血鬼達を巻き添えにして炎の魔法を自身に向けて放ったのだ。

「走れ、走れ、走れ」

 ノッチの声に押されて私達は再び歩を早める。

 一階層の出口、魔法の明かりでは無い外の太陽の明かりが通路に差し込んでいる。トウマに続いて私は外へと飛び出す。だが振り返ったそこにノッチの姿は無かった。


 再び視線を戻すと廃ダンジョンの入口警備に配されていた数十名の兵士達がこちらに駆け寄って来る姿が見えた。

 ミヤコは安堵感からその場に力なく崩れ落ちる。

「助かっ…」

「ミヤコ、危ない」

 言いかけてミヤコはトウマに凄まじい力で吹き飛ばされた。何? 突き飛ばされながら振り向いたミヤコの目に入ったのは、日の光を浴びながらも平然とトウマを捕えてイヤラシく笑う吸血鬼の姿。トウマはそのまま現われた吸血鬼にダンジョンの中へと引き込まれて消えた。

 地面を転がり体を起こしたミヤコが叫ぶ。

「ぐっトウマ。トウマああ」

 恐慌して再びダンジョンへと入ろうとするミヤコを兵士達が取り押さえる。ミヤコの悲痛な叫び声だけがその場に響いていた。


          *          *


『冒険者ギルドタミナス支部に所属する全員に告ぐ』

 俺とトオルが商人イーロの護衛を終えてタミナスの街へと帰還すると、そう題した告知で冒険者ギルド内は騒然としていた。

 俺達が見つけたコガ村近郊の廃ダンジョン入口、その調査に向かった冒険者十八名は一人を残して全滅。ダンジョン内に複数の下級吸血鬼と上級吸血鬼と思われる存在が確認されたという。

 この事態を重く受け止めトリモーマイ公爵家は騎士団二百と二千の領兵をコガ村に向けて出陣させ、正教会所属の神聖騎士団の助力を要請。

 冒険者ギルドタミナス支部もギルドマスター以下所属冒険者約三百名の総力を動員して大がかりな吸血鬼掃討作戦を行うという。

 当然ながら俺とトオルも強制参加となる。もっともランクの低い俺達はダンジョンの外での警備と雑用係ということらしいので、それ程危険は無いだろうとの話だった。

 準備の整った者からすでに出立していると聞いたので、俺達も急ぎ食料や雑貨の買い出しに向かうとコガ村行きの冒険者専用臨時馬車へと乗り込んだ。


 徒歩で二日の行程、一日かからずに俺達は兵士達で溢れるコガ村へと到着する。

 すぐに冒険者ギルドが運営するテントを訪れ到着の登録を行うが、そこで俺達はテントの奥で一人塞ぎ込んでいるミヤコの姿を見つけた。

 俺は彼女の側まで行き声を掛ける。

「ミヤコ、久しぶりだな。トウマは何処だ?」

 俺の声に反応したミヤコがキッときつい表情になりいきなり俺の頬に平手打ちをかます。

 パチーンといい音が鳴り、半泣きのミヤコが声を荒げた。

「今頃出て来て大人顔…、何で一緒にいてくれなかったの。あんたは私達四人のリーダーじゃなかったの。どうして…」

 彼女がいきなり俺に当たる理由はよく分からなかったが、確かに異世界召喚された俺達四人のリーダー格は俺だった。そしてタミナスの街での冒険者としての活動をする内にいつの間にかミヤコとトウマとはすれ違いが出来ていて、その状況をよかれと放置したのは俺ではある。

 だが、それは俺だけの責任か? そう思わないではないが、そんな利己的な感情の押しつけも情緒不安定で対応に困るガキの言葉として受け流すべきだろうか。


 ミヤコが声を上げた事で周囲の注目が俺達に集まる。トオルもミヤコの態度に納得がいかないという表情をしている。

「ああ、リュウセイじゃないか。来たのか。うん? その娘に何か用か」

 ギルドマスターのデイドラさんが騒ぎを聞きつけて様子を見に来た。頬に赤い手形を付けた俺の顔を見て彼女は首を傾げるが、ミヤコはこの状況に何の説明も無くただ俺を殴っただけでテントの奥へと一人戻って行ってしまった。

「そうか、君はミヤコの仲間だったな。彼女はまだ混乱から立ち直っていない様だから、今はそっとしておいてやれ」

「ミヤコに何かあったんですか?」

「彼女が『廃ダンジョン偵察隊』の唯一の生存者だよ」

「なっ、それじゃあトウマは…」

「トウマ? 彼女が話していた男の事か。どうやら彼女の身代わりになって上級吸血鬼に連れ去られた様だね。あれから既に五日経過している。もう生存は絶望的と考えるべきだろうね」


 突然訪れたトウマの悲報、ミヤコが俺に言った言葉の意味がようやく理解出来た気がした。その日の夜俺とトオルは話し合い、そして吸血鬼討伐隊に加わり廃ダンジョンに入る事を決めた。

 

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