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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
13/41

グール討伐②

 グール討伐の依頼を受けた俺達六人がコガ村に到着すると、そこには農具を武器代わりに手にした村の男達三十人ばかりが憔悴しきった表情で休息を取っていた。

 グール発生から俺達の到着まで一週間近くを戦い続けてきた人々だ。村人の代表者だという人が俺達の到着を聞きつけてその場で安堵してへたり込み、他の村人達に知らせるために何人かが方々へと散っていった。

「被害の状況は?」

「村長の家を含む村の北側一帯がやられました。何とか被害家屋にグールを閉じ込めて外から扉や窓を補強してはいたんですが、その内の二カ所が破られそうになりやむを得ず」

「火を掛けて家屋ごと焼いたんだな」

「はい」

 リーダーのモンシェルが村の代表者から事情聴取を始め、大方の情報が掴めた所でポカチップを村の北側へと偵察に送る。

 俺とトオル、マーガレットとポッカルコーンの四人は拠点となる廃屋を一つあてがわれ、そこに荷物を降ろすと身軽な姿で休息を取りながらモンシェルの指示を待った。

 しばらくしてモンシェルが戻って来て俺達に事のあらましを告げる。


 一週間前にコガ村に三人の旅の商人を名乗る者達が訪れ、彼等は村長宅に迎え入れられた。

 その夜中に村長宅の三人の子供の真ん中の子が慌てて村に助けを求め、準備なく様子を見に行った村の男達がグール化した者達の犠牲になり、更にグール化した村人が自分の元家族の元へと戻り二次被害を引き起こしたのだという。

 村人が集まって来た頃には北側の家々から悲鳴が上がり助けを求める声が響いていたが、外にいた二体のグールのみを倒して、更なる被害を食い止めるためにそのまま家々の扉と窓を塞いでグールを閉じ込めたのだという。封鎖した家屋は村長宅の他四軒、その内の二軒を先程燃やしたのでグールを閉じ込めた家屋は残り三軒だけ。

 この一週間夜も篝火を焚いて封鎖家屋を村人達が見張り続けたのでグールの脱走は起こっていないはずで、俺達に与えられる任務は村長宅と残り二軒の家屋にいるグールの処分という事になる。


「その旅の商人って奴が発生源で、下級吸血鬼に咬まれていたって事なのでしょうね」

「助けを求める住人もろともグールと一緒に閉じ込めるなんて…地獄だ」

 マーガレットとポッカルコーンの二人がそう意見を述べる。

「それでリーダー、いつから始める?」

「今グールの数の確認をポカチップにやらせている。彼が帰って来てからだな」

 ポカチップの帰還には随分と待たされたが、その事に文句を言う者はいない。それだけ彼が入念に調べたという事を皆が知っているからだ。

「村長宅にグールが五体。村長と妻、二人の子供と商人が一人。マルセルの家が二体。夫と妻だろう。ゼニスの家が三体、夫と妻と子供が一人。全部でグールが十体、村人の証言とも一致している」

「十体か、それぞれが孤立しているから討伐は難しくは無いだろう。まず数の少ない家から取りかかり、その状況を見て残りを判断するとしようか」


 リーダ-のモンシェルの決断で俺達は動き出し、まず二体のグールが閉じ込められているマルセルの家の討伐から取りかかる。

「突入は俺とトオル、ポカチップは扉外でグールの逃走の阻止。リュウセイは離れた場所でマーガレットとポッカルコーンの護衛だ。行くぞ」

「おう」

 扉を何重にも塞ぐ木の板を剥ぎ取り、目配せすると同時に扉を開けてモンシェルとトオルの二人が家の中へと飛び込んでいく。

 この世のものとは思えぬ叫び声が響き、家の中から大きな物音が何度か聞こえて来た。それが収まるとポカチップが中へと入って行き、しばらくするとビクビクと動く首無しの女性の遺体の足首に紐を括り付けて、それを引きながら彼は外へと出て来た。

 首無し遺体は村人達が引き受け墓地の方へと引きずっていく。もう一体の男の首無し遺体をポカチップが同様に引き出し、その後から二つの首をサッカーボールの様に蹴りながらリーダーのモンシェルが外へと出て来る。最後に出て来たトオルの顔は酷く青ざめていた。

「ポッカルコーン、村人について行き祈りと遺体の処理を頼む」

「了解」

 ポッカルコーンはまだ濁った赤い目をギョロつかせて動いている二つの首の頭髪をぐいと両手に握って持ち上げ、平然とした顔で村人達と共にグール化した遺体を墓地へと運んでいく。


「俺達は次の家に向かうぞ」

 モンシェルの命令に従い俺達は次のゼニスの家を目指す。俺は青ざめた顔をしているトオルに話しかけた。

「トオル、大丈夫か?」

「グールだと分かってはいるんですが、女性を突くのはやはり気が引けて…」

「しっかりしろよ。ダメだったら俺が代わるからな」

「何とか、頑張ってみますよ」

 ゼニスの家の扉の木の板を剥ぎ取り、モンシェルが言う。

「突入と同時に聖水を浴びせてグールの動きを止める。手順はさっきと同じだが、今度は三体だ。気を付けろよ」

 扉を開き再びモンシェルとトオルの二人が家の中へと突入していく。

 先程同様に複数の叫び声が聞こえたが、今度はそこにモンシェルの怒声が混じる。トオルの情けない叫び声が聞こえると慌てたようにポカチップが家の中へと飛び込んでいく。

「リュウセイ、援護に入ってくれ」

 モンシェルの声に応えて俺は剣を抜いて家の中へと入って行く。モンシェルが頑体の大きな一体のグールを壁に押しつけているすぐ側でトオルが尻餅をついた姿勢で恐慌して叫び声を上げている。

 ポカチップがトオルを守る様に二体の女性と幼い女の子の姿をしたグールを防いでいるが、その腕からは大量に出血しているのが見えた。

 俺はすぐに革の水筒の蓋を取り聖水を二体のグールに向けて振りまく。

 途端にジュウと顔から煙を上げて女のグールがポカチップから離れて床に膝をつき苦しみもがく。彼の足にへばり付いていた女の子のグールの方に聖水はかからなかったが、ポカチップが蹴りを入れてその小さなグールを壁まで吹き飛ばした。

 俺はそのまま女の子のグールの元へと走りその胸に剣を突き刺して壁に串刺しにし、ポカチップは手に持つショートソードで女のグールの首を斬り飛ばした。

 遅れてグールを始末したモンシェルがトオルを外へと引きずり出してその顔面に拳を食らわせ、それでトオルは静かになったが、その場にへたり込んだ彼の表情はとても平静とは言えなかった。

「馬鹿野郎、出来ないなら最初からそう言え。仲間の命が懸かってんだぞ」

 モンシェルがトオルに向けて叫んでいるが、今はそれどころじゃ無い。俺は深手を負ったポカチップの傷の治療に当たる。

 ポカチップはグールの鋭い爪で腕の肉を抉られていたので、まずは聖水でその傷口を洗う。ジュジュウと傷口から煙が上がりポカチップが呻きを漏らすが、グール感染が怖いので彼に解毒ポーションを飲ませた後に回復ポーションを飲ませる方法を取った。

 途端に出血は止まり傷口はある程度塞がったがかなり傷は深い様で、低級回復ポーションでは現状今以上の回復は見込めそうに無かった。

「助かったよリュウセイ。まだ痛みはあるが、活動には殆ど支障が無いと思う」

 ポカチップが俺に礼を言い遺体処理の為に家の中へと入って行く。彼と入れ替わりに家の中から出て来たマーガレットが俺に剣を手渡しながら言う。

「リュウセイ、子供のグールは始末しておいたわ。ポカチップを助けてくれてありがとう。あなたがいてくれてよかった」

 遺体を運び出している間中リーダーのモンシェルは不機嫌だったが、俺がトオルの代わりを務めると進言すると、今日中に村長宅の討伐もやってしまおうという流れになった。


 村長宅は村の建物の中でも飛び抜けて大きな二階建ての屋敷だ。

 グールの逃走防止にトオルを外に残し、モンシェルとポカチップ、俺とマーガレットで組んで四人で一斉に村長宅を襲撃する。

 扉を破り中へと飛び込み聖水で襲ってくるグールを怯ませての攻撃。マーガレットの放つ炎の魔法で女型のグール一体が火だるまになって倒れる。俺も老齢な男性の姿をしたグールの胸を剣で突き刺し床に串刺しにしてマーガレットの炎魔法に後の処理を任せた。

 子供型の二体のグールを片付けたモンシェルが言う。

「あと一体いるはずだ。俺とリュウセイで二階を調べる。ポカチップとマーガレットで一階の残りの部屋、地下室があればそこも調べてくれ」


 外で待機するポッカルコーンと村人に遺体処理を託して俺達は残り一体の捜索に当たる。最後の一体は二階にいたのでモンシェルと俺とであっさりと片付けた。

「ここは商人達の泊まっていた部屋か?」

 モンシェルが彼等の荷物らしきものを物色しはじめる。俺はその場に倒れてビクビク動いている遺体の腰に吊された装飾品に目が行った。

 遺体が身につけていたのは精巧な造りの木の人形。それは青い服を着た黒髪黒目の二等身の少女人形だった。肌身離さず身につけるほど大事な物、この商人の親族に形見として手渡すべきでは無いかと思い、俺はそれを外して手に取った。

「おお。こいつぁ凄い。ミスリル銀製のナイフに高価な装飾品。商人っていうのは本当らしいな」

 モンシェルは嬉しそうに物色した品々を俺に見せ、ミスリル銀製のナイフや首飾り、指輪などを自分の鞄の中へと詰めていく。

「臨時収入としては上出来だな。リュウセイ、ほら」

 モンシェルが俺に装飾品の一つを手渡そうとする。俺はそれを拒んだが、モンシェルは少し嫌な表情をしてみせた。

 モンシェルが更に商人の鞄から金の入った袋と小瓶を取り出すが、そのおどろおどろしい色をした液体の入った瓶に彼は目もくれずに袋の中の銭を数え始める。

 俺はその瓶の中の液体を見てなぜか瞬時にそれが危険な代物だと理解した。毒の種類はおそらく『腐食毒』に類するもので、なぜ商人がそんな物を持っているのかと不思議に感じた。

「こりゃまあ何と古い金貨だな。どこの国の金だ?」

 モンシェルは悪態を付きながらも金貨の枚数を数えていく。丁度十枚、他にも小銭は袋の中に結構入っている様だが、彼はその内の二枚の金貨を俺に差し出してトオルと俺の取り分だという。

 これも断ろうとしたが、不意にある考えが俺の頭をよぎる。

 遺体からの収集品は届け出が義務づけられて略奪行為は違法という事になっている。ここで俺が潔癖に彼の申し出を断れば、俺は彼の犯罪の目撃者という事になる。

 先程の彼の表情からも察するにそういう関係になる事は好ましくない争い、俺の『口封じ』という命のやり取りをこの道中に生みかねない。だから彼等との関係を友好的に維持するには俺も彼の共犯になる事が必要なのではないかとである。

「モンシェル、二枚って事は無いだろう。その金貨の八枚ぐらいは俺達によこせ。その位は十分稼いでるだろ」

「ふっ、分かったよ。金貨八枚、持って行け。これで俺達は共犯だな」

 モンシェルが嬉しそうな表情で俺に笑顔を向ける。

 階下から、マーガレットが俺達を呼ぶ声が聞こえた。


 村長宅の全てのグール化した遺体が墓地に運び込まれ、ポッカルコーンの祈りの言葉を捧げられた後に油を掛けてその全てが焼き尽くされる。

 村の安全確認が終わったので家々に隠れていた女子供も墓地に集まり、百人近い人数でこの最後の埋葬を見送った。

 村の代表を名乗る男にモンシェルが商人の鞄から見つけた金の入った袋を「村の復興の足しに」なんて言いながら手渡している。ちゃっかり金貨の抜かれた残りの金だ。

 そんな事も知らずにモンシェルに感謝して頭を下げる村人達の姿を俺は黙って見ていた。

 終わってみれば俺にとってもトオルにとっても後味の悪い討伐任務になってしまったが、実の所問題はそれだけに止まらなかった。

 商人の荷物の中から出て来た簡素なコガ村周辺の地図、そこにある印を村人に尋ねた所、何十年も前に攻略されて廃ダンジョンとなった入口が出入り出来ない様に埋めてある場所があるというのだ。


 翌朝、俺達はその場所を村人に案内してもらい戦評した。

 塞がっているはずのダンジョン入口がポッカリと穴を開けているのだ。そしてあの商人を名乗った三人組がここを訪れた可能性がある。その後に彼等はグールになった。

 それはつまり、このダンジョンの奥に下級吸血鬼が高い確率で住み着いている可能性があるという事だ。

「こんな村の目と鼻の先に吸血鬼の巣が…、これはマズいな」

 リーダーのモンシェルがしばらく考え込み、決断を下す。


「リュウセイとトオル。お前達二人のグール討伐依頼は達成という事で二人だけでタミナスまで戻り冒険者ギルドにこの事を報告してくれ。俺達『安らかに眠れ(リップオフ)』は冒険者ギルドからのダンジョン偵察隊が送られて来るまでコガ村に残って村人の安全確保に努める事にする」


「分かりました。今の所それが最善に思えます。役に立つか分かりませんが、俺が用意したポーションを全部ここに置いて行きますね」

「おお、それは助かる。代金はいいのか?」

「ええ、モンシェルさんには十分稼がせて貰いましたから」

 俺がそう答えると、リーダーのモンシェルが片目でウインクして見せる。


 事は急を要するので、俺とトオルはその足でタミナスへの帰路に着く。帰りの道中、トオルはずっと今回彼の犯した失態に落ち込み塞ぎ込んでいた。 

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