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異世界古書店の片隅で  作者: つむぎ舞
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それぞれの道

 冒険者ギルドでの新人訓練は休養日を含んだ為に結局二週間近くまでかかる事になった。

 訓練をやり終えた俺達はそれなりの自信を付け、Fランク冒険者としての活動を開始する。この頃になると四人一緒に行動する事は少なくなり、特に俺は薬草採取とポーション作成がある為に三人とは別行動になりがちで、トオル、トウマ、ミヤコの三人は時折一緒に組む事はあっても生活時間の違いからか、トオルはトウマとミヤコとは別れてソロでの活動か、それぞれが他の冒険者達と即席のパーティーを組んで依頼を受注するという事も増えてきた様だ。

 当初は四人のリーダー的存在だった俺だが、冒険者ギルドとの約束の関係でソロ活動が増えた事で同室のトオルからトウマとミヤコの二人についての近況を又聞きするだけで、彼等二人と会話する事も極端に減っていった。

 あの二人の方も俺を材料採取を専門とするギャザラーとして認識しているのか、同業の冒険者とは見ていない様で、共通の会話を見つけられないのかもしれない。

 もう一つあの二人、特にトウマには大きな問題がある事をトオルから知らされた。

 ギルドでも小耳に挟んでいたが、冒険者内での回復術師の地位の低下によりトウマの扱いが酷く、ミヤコが彼を庇う事で即席パーティー内での揉め事が多発しているのだそうだ。

 トウマ自身も元々自尊心が高い性格、本来なら必須とされる回復職の能力が役立たずになっている事がかなりショックだった様で宿の部屋で塞ぎ込みがちになっているという。

 俺が話すべきか? そう考えもしたが、回復職の代わりに重宝されている回復ポーションを俺が作成できる事を隠して彼の相談に乗ったとして、後々俺の能力が知られた際に彼が受けるショックの大きさを考えると、どうにも二の足を踏んでしまう。


 俺はまだギルドマスターのデイドラさんからの剣術指南を相変わらず受け続け、薬草採取の時も冒険者ギルドから派遣された護衛が二名は付く。そんな訳で他の三人がどんどん実績を積み上げる中で実戦経験が無いのは未だ俺だけ、だからとゴブリン程度の魔物の討伐依頼を受けようとしても受付にて弾かれてしまう。

「ちょっと過保護すぎやしないか、俺にも実戦経験を積ませろ」とデイドラさんに談判もしたが、錬金術師の希少性故の配慮だと一蹴され「悔しかったら腕を上げて見せろ」と笑われた。

 さすがにこれには俺もカチンときた。

 宿に戻って夕食を摂った後は、裏の広場で攻撃と防御の基本の六型を徹底的に繰り返し続けた。

そんな日々を一ヶ月も過ごしてしまうと、さすがに冒険者ギルド内でも俺の噂が立ち始める。どちらかと言えばあまり良い噂ではない。


「あのデイドラさんが一ヶ月以上も訓練するなんて、余程出来の悪い奴なんじゃないか?」

「あのおっさんか、今更冒険者とはねえ」


 つまり、Aランク冒険者でもあるデイドラさんが一月以上訓練しても合格ラインに届かない出来損ないのおっさん冒険者、そんな噂がだ。

 当然他の冒険者から向けられる俺への視線は冷たいものになる。たまたま併設酒場に居合わせたミヤコに話しかけようとしたが、ふいと無視され避けられてしまった。

 そんな中で相変わらずトオルだけは俺に気兼ねなく話しかけてくる。

 彼の物怖じしない性格は他の冒険者達とも気が合う様で、もう色々な知人も作っている様だった。


「リュウセイ。今日は私以外の者と実戦形式で戦ってもらうよ」

 デイドラさんにいきなりそう言われて、訓練場で見知らぬ冒険者と相対する事になった。この訓練はオープンにされたことで、暇を持て余していた冒険者達が冷やかし半分で訓練場へと雪崩れ込んで来る。

 野次や冷やかしの言葉が満ちる訓練場にて俺は対戦相手と対峙する。

 俺の対戦相手の冒険者は二十代半ばぐらいの中堅冒険者にも見える。

 一応のルール説明をデイドラさんが俺達二人に簡単に説明してくれるが、木剣同士の実戦形式の戦いといえどこのぶっとい木剣で殴れば相手にもそれなりのダメージは入る。

 そしてルールはと言えば、目などの修復困難な部位への攻撃の禁止と、手持ちの木剣と体の部位以外での攻撃の禁止だ。つまりは魔法使用の禁止と地面の土を投げての目潰しなんていうのは御法度というぐらいで、ほぼ何でもありな感じだった。

 去り際にデイドラさんが俺に耳打ちする。

「防御に徹して時間を稼ぎ、相手が大振りになった隙を突け」

 相手の冒険者は俺のレベルに合わせたFランクかと思いきや、ギャラリーの冒険者達の叫び声からその正体が知れた。

「応援するぞアーベン」

「そのおっさんにCランクの実力を見せてやれ」


 始めの合図が掛るが「防御に徹せよ」と指示された俺は武器を構えながら相手の出方を待つ事にする。すぐにこちらの腰が引けていると感じたのかCランク冒険者アーベンが猛攻を加えてくる。 

 俺はとにかく習った基本の防御姿勢の上中下を繰り返して、その猛攻に耐え続ける。実際、彼の打ち込みはデイドラさんのそれよりも遅く感じたので、対処出来ない程ではなかったが、その反面撃ち込んでくる力はかなり重かった。

「これがCランクの打ち込みか。防御に徹せよとか簡単に言ってくれるぜ」

 しかし俺がアーベンの攻撃に耐え続ける姿を見て、声を上げていた冷やかし冒険者達の声が変わってきた。

「おい、アーベン。手ぇ抜いてんじゃねえぞ。さっさと片づけろ」

「あのおっさん、アーベンの攻撃を凌いでるぞ。どうなってんだ」


 なんて俺の方は実際防御で手一杯って感じなのだが、端から見ると善戦している様にも見えるらしい。対戦相手のアーベンの方も、周囲の反応が気に入らないのか戦法を変えてきた。

 フェイントを織り交ぜての攻撃。

 何度か釣られてヤバそうな局面もあったが、俺はその攻撃にも何とか食らいつく。フェイント攻撃はこの一ヶ月デイドラさんとの訓練で、その洗礼を何百回と受け続けて来たからだ。

 周囲のアーベンに対する野次に焦ったのか、アーベンは力尽くで俺を捻じ伏せようとその攻撃がシャープなものから大振りになっていく。こちらが防御に徹しているという油断もあったのだろう。

 俺はアーベンの振りかぶりに合わせて前に飛び出しその胸に突きを繰り出す。

 当たれば大怪我という思いが俺の剣を鈍らせ彼の胸前での寸止めになってしまったが、アーベンの方が俺の攻撃に慌てて跳び退き地面に尻餅を付くという失態を犯す。

 俺はそのまま歩を進めて突き出した木剣を彼の眼前に置いた所で「止め」の声が響いた。

「勝者、リュウセイ」

 デイドラさんの声が上がるが、場は静まり返っている。

 舌打ちしながら立ち上がったアーベンが俺に背を向けて去って行く。そして訓練場の出口でアーベンが見物していた冒険者達に告げる。

「あのおっさん、結構強いぞ」

 アーベンの後に続いて出て行く冒険者達。その場に残された俺はデイドラさんに尋ねた。

「俺、勝ちましたよね」

「ああ、リュウセイ。お前の勝ちだな」

「どういう事なんですか?」


「君は実戦経験を積ませろって私に言ったが、実戦の本質を君はまだ知らない。実戦とはいっても目的地までの移動で大半の時間を浪費するし、戦闘があったとしてもそれはほんの数分程度で終わってしまうこともしばしば、自分が戦わずに見ていただけって時もある。

 確かに実戦は密度の濃い経験にはなるが、それはまず戦闘の基礎の出来た者に対して当てはまる言葉だ。だから私は頑なに君との対戦形式の訓練を重視した。

 私との訓練は実務に当たっている冒険者達がこなす戦闘の二年分以上の経験にはなったはずだよ」


「そういう事ですか。俺は強くなっていたんですね」

「過信しちゃいけないよ。外での実戦でアーベンと戦えばきっと瞬殺されているのはリュウセイの方だからね。何でもありの戦闘ではリュウセイはまだ弱い」

「そうですか、弱いですか」

「だが、今日の成果で君の訓練は終了とする。これからは実務をこなして実戦経験をその目で見て体で覚えていくんだ」

「卒業ということですか」

「そうだ。だがソロでの活動は冒険者ギルドとしては許可しない。そしてパーティーを組む場合でも必ずギルドを通し、ギルド外での野良参加はしない事。当然、薬草採取には今まで通り護衛を付ける」

「ギルド外でのパーティーへの加入禁止というのは?」

「冒険者の死亡率で一番高いのが民間人に偽装した盗賊との戦闘、そして冒険者を狙う同業者の手に掛っての死だ。ギルド内でパーティー登録して依頼受注し死者が出た場合、ギルドによる徹底調査が行われる。冒険者狩りの連中はそれを嫌うからな」

「なるほど、理解しました」


 冒険者達のいる入口のホールへと戻り併設酒場で喉の渇きを潤すことに決めた俺は、エール片手に誰も居ない席で一人腰を下ろす。

 途端に俺の目の前にドンと腰掛け挨拶してくる冒険者の男、互いに名乗り合って一口飲んで彼は去って行く。そうするとまた別な奴が俺の前へと座ってくる。

「口頭での名刺交換ってやつだな」

 なんて呟きながらも、俺は内心嬉しかった。彼等のその行動が冒険者としてある程度認められのだと実感させてくれたからだ。

 五人の男達と挨拶を交わし、同ランクの七つのパーティーからその日勧誘を受けた。さすがにパーティーの誘いは仲間がいると断ったが、協力要請は喜んで受けると答えておいた。


 翌日から俺はトオルと二人で同ランクの連中とパーティーを組んで討伐依頼をこなしはじめる。俺とトオルの人気は冒険者ギルド内ではそこそこ高く、トオルは『魔槍のトオル』なんて二つ名で呼ばれ始めたし、俺に至っては『神のリュウセイ』なんて呼ばれている。

 理由は単純、比較的高価な回復ポーションを低ランクの依頼であっても負傷者に惜しげも無く使ってくれるからだそうだ。

 俺達二人と対照的に人気を落としているのがトウマとミヤコの二人組。

 ミヤコの能力は欲しいがトウマはお呼びじゃないってパーティーでの揉め事が多発しているのがその原因で、俺とトオルが一緒に組もうと呼びかけてもミヤコが頑なに首を縦に振らないのだ。

 俺とトオルはトウマを邪魔にしたりはしないのだが、ミヤコはトウマが俺達に寄生しているなんていう悪評が広がるのを懸念しているというのは感じ取れた。


 俺はそんなミヤコの行動を若者が学生時代に陥る序列付けの反動だと見た。

 勉強勉強と親や先生に言われ続けて、テストの点数でしか人を量れなくなった彼等が、自身の心の平安を保つためにより下にいる者を見つけ出しては安心する。

 実際、高校などで行う勉強と言われる内容の大半は学力を向上させているのではなく受験のための技術テクニックを身につけさせているだけで、その技術は社会に出て何の意味も成さなくなるのであるが、それを知らない学生達が互いを序列付けし合い、自分より下に見た人間との付き合いを疎遠にしていく。

 ミヤコの俺に対する無視はそんな感情から起こった行動なのだろうと考える。

 そしてその反動、自分が下に見ていた者が自分より先に進んで行く事への嫉妬、認めたくないという感情が今の彼女の態度に如実に現われているのだろうと思えたのだ。


 俺とトオルは話し合い、今は二人を遠くから見ているだけにしようという結論に至った。だが、二人から助けを求められれば、何を置いてでも駆けつける。その気持ちだけは忘れずに持ち続けようと。

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