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押しかけメイドの距離感がバグっている件  作者: 蒼田
第1章 入学前の来訪者
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第8話 料理上手な婚約者

 こき使われ作業も終わったので、扉の方へ足を向ける。

 彼女について行き開けられた扉から出る。

 ガチャリ、と扉が閉まる音がして「え? 」と振り向く。


「何故閉めた?! 」

「私はメイドです。最低限、部屋のことは出来たので仕事に戻ろうかと」


 と無表情のままそう言った。

 な、なるほど。確かにサキに時間を与えた時、「少しの時間」って言ってたしな。

 納得の理由だ。


「サキはここに来るの初めてだろ? そこまで仕事に没頭(ぼっとう)しなくても」

「いえ。初めてではございません」

「え? 」

「なので心配無用(むよう)でございます。土地(かん)もありますので仕事に支障は御座(ござ)いません」


 そう言い俺の部屋を開けた。

 彼女が中に入る中、俺は「マジか」と思い開いた扉の中を(くぐ)る。

 部屋を見るとそこにはサキが両手を前にしキリっとした表情で俺を迎えていた。


「お帰りなさいませご主人様」

「隣だけどな」


 軽くツッコミながらも軽く笑みを浮かべて靴を脱いだ。

 立ち上がりふと気付く。


「……俺(かぎ)かけてたよな?! 」

「……ふっ」


 ★


「あの食材がこんな豪華に……。メイドはコックでもあるのか?! 」

「お気に()したようで何よりです」


 俺の隣に立ってサキが言った。

 丸い机の上からはほくほくとしたご飯に湯気(ゆげ)()汁物(しるもの)、そして少量ずつ()えられた野菜類と焼肉。

 焼肉からは(こう)ばしい匂いがし、俺が焼いたのとは断然(だんぜん)違う雰囲気を出している。

 焼く時に何かいれたのだろうか? それか単純な技術か。

 なににしても俺の前には体を気遣(きづか)った、しかしながら食欲そそられる食事が並べられていた。


「じゃ、夕食と行こうと思うんだが……サキの分は? 」

「私はあとで頂きますのでお気になさらず」

「いや流石に女性を置いて自分だけ良い食事をとるのは気が引けるし」

「メイドのような使用人は基本的に主人と食事を共にしないものです」

「いつの時代の価値観だ」


 そう項垂(うなだ)れながらもちらりと彼女を見る。

 完璧なる無表情。これは引きそうにないな。

 ならば——。


「分かった。なら婚約者として一緒に食事を取ろう」

「え? 」


 俺の言葉が予想外だったのかその無表情が崩れた。

 しかし俺は畳みかける。


「「メイドとして」食事を共にしたらいけないのならば「婚約者として」ならばいいだろ? 」

「し、しかし……」

「婚約者ならば食事を共にするのは自然なことだ。昼間は色々あったし正直婚約者と言われてもまだしっくりこない。だけど、少なくても君が悪い人には見えないんだよ。それに当分俺に付きまとうんだろ? なら食事くらい一緒に取った方が周りには自然な感じに映ると思うんだが」


 昼間(ひるま)、こき使われたり罵倒(ばとう)されたりおちょくられたりと色々あった。

 だけど、それをどこか楽しんでいる俺もいる訳で。

 そんな楽しみを与えてくれる彼女を知らない他人とは思えなくて。

 たった一日だけれど、——メイドという摩訶(まか)不思議(ふしぎ)職業のことは除いて——彼女を少しは信用してもいいかなと思う自分がいる。

 単なる直感だがこれが良いのか悪いのかわからない。

 普通の生活から遠退いているのは確実なのだが、彼女を(にく)めない。


「食事をとるくらいいいだろ? 」

「っ! わ、分かりました。あくまで。あくまで「婚約者」としてご相伴(しょうばん)に預かります」


 そう言い体を(ひるがえ)し「……もく……は」と聞き取れない呟きを放って台所へ行った。

 少し赤みを()びた顔で彼女は残りの料理を運んでくる。

 二つのグラスを持ってきて一本のビールを机に置いた。


「……俺このビール、買った覚えがないんだが」

「お()ぎするために用意していたのです」

「どこまで用意が良いんだか」


 軽く微笑みその用意周到さに呆れて息を吐く。

 配膳(はいぜん)を終えたサキは俺のグラスにビールを注ぎ、次は自分の分とばかりにグラスを取った。


「あれ? サキは飲んでもいい年齢? 」

「女性に年齢を聞くなんて、と普通ならば言うのですが私はご主人様、いえともゆき様と同じく二十歳ですので大丈夫です」

「まさか浪人(ろうにん)?! 」

「それこそまさかです。普通に受験を落としたともゆき様とは(こと)なり、一応海外で大学を飛び級で卒業しておりますのでご心配なく」


 思った以上に優秀だった! メイドのこと以外も普通に優秀だった!

 ハイスペックすぎるだろ、サキ。

 そう思っている間に彼女は自分のグラスに注ごうとする。


「俺が注ごう」


 そう言い手を出す。

 彼女は体の方に(びん)()せ迷っていたが、流石にここで渡さないと失礼と思ったのか俺に瓶を渡した。

 泡立(あわだ)てながら彼女のグラスにビールを注ぐ。

 丁度いいところで注ぎ終えて、瓶を机の上に置いた。


「では。サキの……いや、何だろう? 就任(しゅうにん)祝い? いや違うな」


 そう呟いているとサキが呆れた顔をする。

 だがクスクスっと笑い口を開いた。


音頭(おんど)はお気になさらず。何せ婚約者ですから」

「む。こういうのは気にする必要はあると思うんだが」

「良いじゃないですか。適当で」

「おっとサキからのまさかの「適当でいい」という発言! まぁいいか。食べよう。飲もう! 頂きます」

「頂きます」


 両手を合わせて俺達は食事を口に運んだ。


「うまっ! めっちゃジューシー! 」

「お口に合って何よりです」

「これ本当に俺が買ってきた安肉(やすにく)か?! サキが持ってきて入れ替えたと言った方がまだ説得力があるぞ! 」

「作りようでございます」


 そう言いながらサキが野菜を口に頬張(ほおば)っている。

 俺は肉を()みしめ口に広がる肉汁を堪能(たんのう)。あの薄い肉のどこから旨味(うまみ)が出ているのかわからない。


 いやしかし美味い!!!


「酒も進むな! 」

「ええ」

「それに今気付いたんだがこれ俺が好きな会社のやつじゃないか」

「調査済みですので。主人の嗜好(しこう)に気を(くば)るのもメイドの、いえ婚約者の(つと)めかと」

「そうかそうか! ははっ」


 サキがグビっとビールを飲んで俺の質問に答えた。

 俺も飲む方だが彼女も飲む方のようだ。

 食事と共にビールも進む。そして瓶が空になった所でお開きとなった。


 サキが食器を持っていく。

 俺も手伝い机が開く。


「私が片付けておきますのでご主人様はお風呂にでも入っては如何でしょうか? 」

「……いや。流石に片付けを全部任せるのはダメだろう」

「昼は私の部屋を手伝ってもらったのです。食後の片付けくらいは任せていただけないとメイドの名折れ」

「そう言われると、厳しいな」


 真面目な顔をしてそう言うサキに苦笑いで返して「頼んだ」と言い背を向けた。

ここまで如何だったでしょうか?


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