第7話 ドヤるメイドさん
「その箱はあちらへお願いします」
「了解」
サキの指示を受けて俺は彼女の部屋に荷物を運び入れる。
的確に指示を出すその姿は差し詰めリーダー。
スポーツをしていたせいか俺の体は鍛えられているはずだが結構重い。
これ、中に何が入ってるんだ?
「次はこちらを」
「おう。ちょっと待ってな」
「これはガラスものなので気を付けてくださいね」
指示されたところに箱を置き長く大きなものを取る。
ガラスものでこの長さということは姿見か何かだろう。
「最後は――」
と指示が飛んできて最後の荷物を部屋の中に運び終わった。
ふぅと一息ついて、軽くにじむ汗を拭く。
「って俺が全部やってどうする! 」
「今になって気が付いたのですか? 」
「何か流れで全部やったけど違うよな?! 単なる「手伝い」だったはずだよな?! 」
「今更ですね。これこそ完璧なマインド・コントロール。最後までありがとうございます。残念ご主人様」
ちくしょぉぉぉぉ! 少しドヤってるサキがうぜぇぇぇぇ!
「こうもバレないとこれから少し不安になります」
「なにがだ」
「簡単に人に騙されないかと」
「そこまで簡単には騙されんよ」
「今のこれでそう言いますか」
はぁという溜息が聞こえるが、気を取り直す。
良いように使われたが、自分から言い出したことだ。仕方ない。
しかしここがサキの部屋かと軽く見渡す。
何もない状態じゃ俺の部屋とあんまり変わらないな。いや当たり前か。
……。
女性の部屋?!
今気付いたがここは女性の部屋だよな?!
どどど、どうしよう。自然と荷物運びで入ったが、サキと言えど女性の部屋に入ってしまった!
始めての事に混乱していると声が聞こえてくる。
「なに百面相しているのですか? DTご主人様」
「DTちゃうわい! 」
「なんで関西弁になっているのですか。そこまで不思議ですか? この部屋」
「不思議というか……」
「あぁ。そう言えば未経験ご主人様は女性の部屋に入ったことがなかったのですね。データ通りですが……、いえ、この反応は残念です」
「残念とはなんだ。残念とは」
「ここまで拗らせるとハニートラップに引っかかりそうで。すぐに搾取され路頭に迷うご主人様の姿が思い浮かびます」
「傷つくから! そんなに、本当に残念そうな顔をされると傷つくから! 」
「全くダメダメなご主人様ですね。これは私がきちんとしないと」
「もう、メイド関係なくね? 」
気のせいです、と言いサキは流れるような動きで段ボールを開ける。
その中から道具を出して飾り付け。
下手に触らない方が良い……よな?
少し考えサキを見る。重そうな道具を運び、加速度的に進む作業に驚きながらも「もしかして俺運ぶの必要なかったんじゃね? 」と思えて悲しくなってきた。
サキは黒い勉強机を組み立てた。
そしてそこに幾つかの小道具を置いて行く。
ふと開いた段ボールを覗くとそこには何か、どこかで見た覚えのある物が。
なんだったか……、と頭を捻る。この茶碗。見覚えはあるが、どこで見たんだっけか。
思い出そうとするが思い出せない。
もやもやしていると段ボールがパタンと閉じた。
「これで終わりました」
声の方を向くとサキが俺を見ていた。彼女の周りを見ると如何にも「女性の部屋! 」というような少しファンシーチックな部屋に変貌していた。
「いつの間に……」
「ご主人様が私の私物を見ている間に、ですよ」
その言葉に「ズキ! 」とダメージを負う。
本当の事故反論が出来ない。
しかし早くないか? どう考えても異次元なスピードだろ!
俺が、何やら手作り茶碗のようなものを見ていた時間なんてたかが知れてるぞ?!
おかしいだろ!
そう思いつつも下を向き閉じられた段ボールを見た。
その横には幾つもまだ開いていない段ボールが。
「全部開けないのか? 」
「……デリカシーを身に着けてください。エロ人様。私とて流石に男性の前で開けるのが躊躇われるものはあるのですよ」
「わ、わりぃ」
「わかっていただけて何よりです。これからの精進、期待しています」
ここまで如何だったでしょうか?
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