第5話 これが私のメイ道
サキの行動にげんなりし頭をがしがしと掻き乱す。
げ。手にワックスが付いた。
席を立ち、台所へ。綺麗な方の手で蛇口を回してぽつりと呟く。
「なんだかんだでノリがいいよな。サキは」
「お褒めに預かり光栄でございます」
「褒めてるが……。なんか癪に障る」
はぁ、と息を吐いて手を拭いた。
台所から移動して段ボールの方へ足を向ける。
なんやかんやで仕分けのようなことをしているサキを横に、バレてしまったメイドコレクションズを手に取って運ぶ。
友達が来てバレたらいけないからどこに仕舞おうか悩むな。
「なぁサキ。これどこに隠したらいいと思う? 」
「定石はベットの下。押入れの中、本のカバーを変えるなどですがご主人様に関しては隠す必要はないかと」
「なんで? 」
「私がメイドだからです」
すんごい納得した。
確かにメイド服を着たサキがいるとこれらを隠す必要はない。
だってメイドそのものがいるもの。
「なら棚にでも置いておくか」
「それがよろしいかと」
「で何してるんだ? 」
「この部屋には不要な物が多いので処分しようかと」
「いやそれはダメだろ」
「メイドもの以外の〇ロ本なんてこの世から無くなればいいのです」
「教材を捨てようとするな! 」
「知っているのですよ。これは教材の名を冠した〇ロ本だと」
「な、何をいって……」
額に汗を流しながら彼女を動きを見る。大丈夫だ。あれがバレるはずがない。
「陳腐な隠し方ですね。確かにこれは大学教材の本。これには同封されているブルーレイディスクがあり、これを読み取ることで補助教材となります。しかし——」
白い手で一番後ろのページを開く。
俺が開けたディスクを入れる場所には一枚のディスクが。
「このディスク。これが〇ロ動画ですね。処分しましょう」
「まて。それは教材だ! 」
「なら私が見ている前でこれを再生しますか? 」
「ごめんなさい。それを破棄していただいて結構です」
すぐに土下座で謝った。
溜息をつく音が聞こえる。
顔を上げるといつの間にかできている「いらない物ボックス」へサキは入れていた。
あぁ……さらば。
消えゆく同志に敬礼しながらやつを見送る。
鬼の所業を行った本人は呆れ顔でこちらに向いた。
「しかしコアなご趣味を持っているようで」
「な、何の事だ」
身に覚えがない。コアな趣味とはいったい何のことだ。
少し戸惑いサキを見る。すると彼女はいつの間にか黒いうさ耳のカチューシャを手に持っていた。
ま、まさかっ!
「元気出せぴょん」
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!! 」
「まさか変態ご主人様が、グレーター・変態ご主人様に昇格していたとは。このメイド・アイをもってしても見抜けませんでした」
「なぜ……何故それを知っている! 」
「いえ。単に処分しているとバニーメイドなるものを見つけたもので。内容を見ると中々にハードでした」
「見たのか?! 見てしまったのか! 」
「ええ。ばっちり」
「ぬぉぉぉぉぉ! 」
「まぁ……趣味人それぞれ。それこそ「元気だせぴょん」」
「やめてくれぇ! どれだけ男の、いや俺の尊厳を踏みにじれば気が済むんだ」
「私が愉しみ終わるまで」
「質悪っ! 」
サキは言いたいことを言い終わったのか大きなうさ耳を揺らして作業に移っていた。
頭にうさ耳メイドが次々と俺のコレクションを仕訳けている。
これはこれで眼福だが俺の精神的ダメージは計り知れない。
彼女が「いらない物」と「いる物」の箱へ次々と分けていくが、本当にメイド類以外は「いらない物」へ仕分けられていた。
だが本当の教材類は流石に仕訳けられていないようで。
これがメイド・アイとやらの力か? ブックカバーで隠しているものから巧妙にディスクを隠している物、はてはパラパラ漫画風の〇ロ本まで「いらない物」へ放り込まれている。
この仕訳けるスピード。どうやって的確に判別しているのか気になるが知ったら後戻りでき無さそうで怖い。
俺も執事界とやらへ誘拐されかねない。
「……メイド・アイがあるのならメイド・イヤーもあるのだろうか」
と考えたことが口に出てしまった。
それにすぐさまサキが反応する。
「もちろんあります。メイド・イヤーにメイド・ナックル。メイド・レッグにメイド・ブレイン等々メイドには様々な能力が存在します」
「能力が気になるが……いや予想できるから言わなくていい! 聞いたら後戻りできなさそう! 」
「……逃げられましたか。条件を満たせばマインドコントロールも可能でしたのに」
「サキは俺のメイドで護衛で婚約者だよな? 」
「ええ。もちろんです」
「ここ一時間ほどでお前が刺客じゃないかと思えてきたんだが」
「心外な。私はともゆき様のメイドで護衛で婚約者の天道・イリステリア・サキ。ともゆき様を救うことはあれど害することなどありません。命を張ってともゆき様をお護りする。これが私のメイ道」
「決めポーズをすな! 」
立ってポーズを決めるうさ耳に激しくツッコむ。
するとポーズを解いて次の作業へ移る彼女。
仕訳けが終わったのか段ボールを玄関に運んでいる。
「手伝おう……ってもう終わってるし?! 」
「このくらい朝飯前でございます。非力ご主人様」
「いや明らかに時間を超越した動きだったよな?! ついさっきまで俺の隣にあった段ボールが全部無くなってるんだが?! 」
「このくらい上級メイドになれば必須技術。常に時間の無いメイドからすれば、時間の制約など足枷にしかなりません」
「……その技術を一般公開したらめちゃくちゃ人の役に立ちそう」
「メイド界の秘技公開しろと? ありえませんね。非常識ご主人様」
「さっき公開したよな? 」
俺がそう言うと知らぬ顔で床掃除を始めていた彼女。
すでに段ボール下の床は綺麗になっている。
というよりもこのマンションに住み始めて間もないのにあれだけのものを整理されたという現実に軽く涙目。
次から次へと時間を超越したスピードで床を綺麗にしていくサキ。
「本当に非常識な存在だな。リアルメイド」
「お褒めに預かり光栄です」
「褒めてねぇ」
と言いつつ彼女の後ろ姿を見る。
広すぎない肩幅にキュッと引き締まったくびれ。黒いロングスカートに包まれた少し小振りなヒップ。
「って何見惚れてるんだ俺! 」
「ノールックで心を読むな! 」
「違ったのですか? 私の読みは正確では、と思うのですが」
言い返せねぇ。
「正解ですね」
「くっ! 」
ここまで如何だったでしょうか?
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