第21話 実は二人っきりのマンション
一先ずの所落ち着いた俺は勉強を再開し一心不乱にメモを取る。
サキの誘惑に晒されながらも平常心をできるだけ保ちつつペンを走らせ、そして――。
「一先ず今日の所はこの辺にしておきましょう」
「……了解」
ペンで汚れた教材を閉じて天井を見る。
片付ける音をBGMにゴロンと寝ころぶ。
「床に転がっていたら汚いですよ? 」
「カーペットだから大丈夫だろう? 」
「いえそうとも限りません」
注意され体を起こす。
いつの間にか片付け終わったサキが掃除機を手に取っていた。
「? 掃除? この前やらなかったか? 」
そういうと盛大に溜息をつかれた。
「掃除は毎日するのが当たり前です。ほら堕落したご主人様、略して駄神様。起きて手伝ってください」
「はいよ」
返事をして腰を上げる。
机を除け窓を開けサキが掃除機をかけるのを手伝った。
メイドと掃除機。
サキが掃除をしている。何て健全なメイドの姿なんだ。
これが本当のあるべきメイドではないだろうか!
その素晴らしき姿に「うんうん」と頷く。メイドと言えば洗濯に家事掃除だろう。
本来漫才やランニングの付き添い、入浴補助に家庭教師は違うと思う。
あるべき姿に少し感動しつつ様子を見る。
ヴォォォォンと鳴り響く掃除機の音。
そして手持ち無沙汰の俺。
……。
罪悪感っ! 圧倒的罪悪感!
え、なにこれ。俺が悪いのか? なにもしていない俺が悪いのか?
悪い事をしていないのに、本来あるべき姿なのにとても気まずい。
汗を垂らして様子を見た。
いや俺が主人で彼女がメイド。これで間違っていない。そうそのはずだ!
心の中でそう自己暗示をかけている間に掃除機の音が消えた。
「机を戻していいか? 」
「よろしくお願いします」
自分に仕事が出来たおかげか居づらさを和らぐ。
自分の部屋なのに居づらさを感じるという不可思議な現象に戸惑いながらも一先ず行動。
俺は机を動かしサキは俺の掃除機を元の位置に動かした。
「さてと……ってちょっと待て! 」
「? 如何なさいましたか? 」
「なんで俺の服が入った籠を持っている?! 」
「これから洗濯を行いますので」
「だろうけどっ! その……パ、パンツ! 」
「私のを見たいのですか? ご主人様」
「それは見て見たいが……って違う! 俺のパンツがあるから俺がやる! 」
「いいえ。これは私が入念に洗いましょう! 」
「しなくていい! てかはずい! 」
俺が言うとサキは目線を落として籠を見た。
「まじまじと見るな!! 」
「顔を赤くして可愛らしいですね。バブみ様」
「お前には羞恥心というものがないのか?! 」
「ありますとも。しかしながら婚約者のパンツ如きで顔を赤らめていたら妻にはなれませんので」
「確かにそうだろうけれどもっ! 」
「内心ご主人様のパンツがボクサーでよかったと安堵している私がいます」
「いや何で?! 」
「私はブリーフ派ではなくボクサーパンツ派ですから!!! 」
「堂々と言うな! 」
俺がツッコむとやれやれと言った感じで横に首を振った。
「たかがパンツ。されどパンツ。パンツ一つにとっても妻の好みに合っているというのは重要なことですよ? 」
「それはそうかもしれないが」
「いえ、婚約者様は分かっておりません。こと夜の一戦を交える時。お相手が好みの下着でない時のげんなり感!!! そこから始まるレス! 最悪不倫に繋がるかもしれません!!! 」
「そ、そうなのか」
「ええ。なので「安堵している」と言う訳でございます」
そう言いながらベットを踏み台に窓の外へ足を向けている。
「ってちょっと待て! はぐらされた感じがあるが、それと俺の服を洗うのは全然違うだろ?! 」
俺が言うと窓の外から振り返りサキは大きく溜息をついた。
「私はともゆき様のメイドですので。家事は私の領分です」
……そうでしたね。
サキに完全に言いくるめられた俺は少し不貞腐れた感じでベットに座る。
サキが窓から入ってきて俺の斜め前に陣取った。
かすかにガタンゴトンと音がする。
どうやら洗濯機に洗い物を入れ終わったようだ。
......。
気まずっ!
この静寂気まずっ!
気まずさに押し負け天井を見る。
あぁ……和む。
そうだ!
「サキ。お前の部屋を掃除してやろうか? 」
と少し悪い顔を作って彼女に言った。
「遠慮しておきます」
「遠慮しなくていいんだぞ? 俺の部屋をやってもらったんだから」
「私の部屋は常に綺麗な状態が維持されておりますのでお気になさらず」
俺の事で手がいっぱいなはずなのに……。それはそれで気になる。
「いや。やってもらったんだ。お返しをするのは普通だろ? 」
「ご主人様。プライバシーというものをご存じで? 」
「……あぁ知ってる。俺が常に侵害されて、侵害しているサキが一番主張してはいけない権利だとうことは」
「あれはご主人様の為でございます。より良い快適な生活をお送りするために必要なこと。仕方のない事なのです。しかし私の場合は異なります。私には私のプライバシーがございますので敢えて主張させていただきます! 」
「おおっと。まさかのジャイアニズム。自分が侵害するには良くて相手を侵害するのは良いと? 」
そう言うと顎に手をやり考える素振りをした。
「いえ。少し違います」
「ほうぅ」
「ともゆき様だからこそ、過去の黒歴史から大学受験に落ちた経緯、ほくろの数から将来のフェチまで網羅するのです!!! そこに『他者』は含まれません」
「まさかの未来予知! 」
「今はメイド・バニー・縞パンがともゆき様の中でブームの様ですが……。むむっ! これはっ! 」
「ゴクリ」
「……まさか……まさか! 」
「な、なにをみたんだ?! 」
「……残念です。ご主人様。ご主人様の毛根は――」
「いやぁぁぁぁ!!! って関係ねぇ!!! 」
「あ、気付きました? 」
「気付くわっ! てか何気に未来視をするな! 」
「私の未来視は、それはよく当たると好評なのですが」
「なお悪いわ!!! 」
ツッコミを入れながらベットから降りる。
机まで行きサキを見上げた。
「しかし本当にサキの部屋は大丈夫なのか? 」
「大丈夫でございます」
「いや物理的にどうなのよ? どう考えても人手も時間も足りてないだろ? 」
「確かに時間はあまりありませんが、夜に行っています」
「掃除の音が聞こえてきた覚えがないのだが……」
「このマンションの防音設備は素晴らしいですね。改築した甲斐があります」
「ちょっと待て」
今聞き捨てならないことを聞いた気がする。
「改築? なにをやらかした? 」
手を突き出して彼女に聞く。
「簡単なことでございます。ともゆき様がこのマンションに来る前にマンション全体に防音設備を入れたまで」
「それ他の住民は理解したのか? 」
「理解、というよりもこのマンション。現在住んでいるのは私とともゆき様のみでございますよ? 」
え、何それ恐ろしい。
「ま、まさか、強制退去?! 」
「いえ。単純に……。あ、いえ。この話は止めておきましょう」
「止められると逆に気になるんだが?! 」
「……世の中知らない方が良い事があるのですよ」
それを聞きズズっと少し後退した。
「ん? そう言えばサキはこの前引っ越したんだよな? 」
「ええ。その通りでございます」
「ということは俺はその間このマンションに一人で住んでいたということになる」
「はい」
「まさかと思うがこのマンション。盗聴とか――」
「お昼の下準備を始めましょう」
分かりやすいほどあからさまに話を逸らされた。
ここまで如何だったでしょうか?
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