第15話 ご主人様を心配するメイドさん
「やはり迷子になりましたか。ご主人様」
職員さんに頭を下げ、サキを連れて、すぐさま迷子センターから離れた。
呆れ顔でサキにそう言われるが、今回は納得していない。
「何で迷子センターに行った?! 行くの嫌そうだったじゃないか」
「ご主人様が迷子にならなければ行かなかったのですが、これが一番手っ取り早いかと思いまして」
「あの妙なメイド技術的なあれで探せなかったのか? 」
「妙と言われるのは心外ですが……。私の力もそこまで万能ではないのですよ」
「そ、そっか。それは悪い」
「あの技術はご主人様をおちょくるためにあるようなもの。普通に使っては面白味がありません」
「質悪いな?! おい! 」
声を荒げると周りが少しざわついた。
まずいと思い少し小走り気味にその場を離れる。
「確か、不本意だが、承諾もしていないのだが、俺の個人情報を集めているみたいだが」
「ええ。ご主人様のほくろの位置までばっちりです」
「……ツッコミたいが、まぁ今は良い。俺のスマホの番号を調べてなかったのか? 」
「調べ、私のスマホに登録しています。抜かりはありません」
「ならなんで俺のスマホに連絡を送らなかった?! 迷子センターに行かなくてもそれで万事解決じゃないか! 」
「迷子センターでご主人様をお探しする、これほどまでに面白いイタズラはありますか? いえないでしょう! 」
俺が嫌がる事をして喜ぶとは。
拳を握り力説する彼女を見て引いた。
「はぁ……。迷子になった俺も俺だからな……。今回は俺の責任でもある訳か」
「ご主人様がいきなり殊勝な態度を?! 熱でも出ましたか? 」
「……昨日から感じていたが……。サキは俺に喧嘩を売ってるよな? 」
「そのようなことはありません。ご主人様 (笑)」
「やっぱり喧嘩を売ってるよな?! 」
「弄りゼロ円。喧嘩は三十万円になります。サンドバックご主人様」
「このひどい扱いっ! 」
「因みに普通の扱いは百万円になります」
「雇われているのにこのお値段?! 」
「まぁ冗談ですが」
「冗談かよ! 」
お、恐ろしい……。
なにが恐ろしいかというと無表情でさらっと洒落にならない嘘をつくのが恐ろしい。
昨日からの関係だが彼女ならば、ギャグの為にそのくらい請求してもおかしくないと思わせるその態度も恐ろしい。
雇われている身でありながら暴虐の限りを尽くして解雇されるというリスクを考えないのも恐ろしい。
雇用主が親父だから俺はなにも言えないが、普通なら即解雇ものだぞ?!
引いているとサキが少し目線を上げた。
「話しを戻して。まぁ今回はご主人様だけの失態ではございません」
「いや今回は俺だろ」
「そもそもな話私が手を離したのが悪かったのです。申し訳ありません」
「サ、サキが殊勝な態度に出ただと?! 」
「きちんと手を握っておくべきでした。次からは気を付けます」
そう言いペコリと頭を下げた。
俺って本当に子供扱いなのか? それはそれでショックなのだが。
少し気を落としつつも顔を上げたサキを引き連れ次の店に向かう。
文具とかいろいろ買った後エスカレーターに乗って一階へ。
下に着くと「次はこちらに」と柔らかい手の感触を感じながらもついて行った。
「ドラッグストア? 」
「ええ。シャンプーなど買わないといけないので」
なるほどと思い彼女について行く。
メイド服ではないにもかかわらず周りから物凄い目線を感じるが、我慢だ。
手を離したら二度目の迷子センター行になるかもしれない。
慣れて行ったら迷わなくなるだろうがまだ数回しか来たことないこの場所だと彼女とはぐれるだろう。
周囲の痛々しい目線を受けつつも顔を下に向けて目的地へ行った。
「ありました。シャンプーです」
「それはよかった」
「あとはリンスと育毛剤と……ないですね。育毛剤は、薬局の方でしたか」
「そうそう育毛剤は薬局だからここには……って育毛剤?! 」
驚くとサキが俺を少し見上げた。
すぐさま片手を頭に載せて確認する。
「俺は禿てないぞ?! 」
「若い時は皆そう言うのです」
「俺の将来は安泰だ! 」
「お金は、ね」
「むしろ髪も安泰であってほしい! 」
嘘だろ?! サキには俺が禿る将来でも見えているのか?!
そんな現実到底受け入れられない。
や、やっぱり育毛剤は必要なのか? 今からケアが必要なのか?!
「……フッ」
「え? マジ? マジなのか?! 」
再度頭をさすり慌てて確認する。
「お客様。如何なさいましたか? 」
俺が慌てていると店員が声をかけてきた。
すぐにその方向を見て事情を説明。
サキは少し離れたようだが、俺は必死に聞いた。
「ではこちらの頭皮ケア成分を含んだシャンプーは如何でしょうか? 」
「それを一つ」
「しばしお待ちを」
「! 」
「シャンプーは間に合っておりますので」
「え? えぇ~と」
「なので頭皮ケア商品を見せていただいてもよろしいでしょうか? 」
強気に言うサキに困惑する店員。
俺の事のはずがいつの間にかサキが口を出しているのだからそんな顔になるよな。
「す、素敵な彼女さんをお持ちで」
「彼女ではありません。こんや「商品を見せてください! 」」
サキの言葉を遮って商品を見せてもらった。
「こちらは如何でしょうか? 」という声と共に出された商品を手に取る。
頭を刺激するタイプのようだ。
サキの方を見ると頷いた。
これで良いようだ。
色々とおかしなところがある彼女だが、少なくとも俺よりかはこういう道具に詳しいはず。ならば判断は彼女に任せるのが一番だろう。
そう思い商品を籠に入れる。
すると店員さんは「ありがとうございました」と言って俺達の傍を離れていった。
「さて次は……」
「まだあるのか? 」
「無論です」
まぁ女性だし化粧品でも必要なのかなと思い彼女に引っ張られる。
すると見覚えのある区画へ足が向かった。
「えぇ……脱毛剤は」
「脱毛?! 」
「中途半端に残しておくと嘲笑の的になりかねないので。ご主人様を笑っていいのは私だけです」
「なにその独占欲」
「ご主人様の髪を愛でるのも、つるつるの頭を愛でるのも、そしてそれを嘲笑うのも私だけの特権。これを譲るわけにはいきません。是非ご主人様の頭皮が寂しくなり始めた暁にはこちらの商品をお使いください」
「それならまだ育毛剤を使った方が良いわ! 」
「がその努力虚しくカツラへと。私としてはカツラでごまかすよりかはツルツルの方が好きなので是非この脱毛剤でツルツルを手に入れてください」
「誰が使うか! 」
小首を傾げる彼女に俺は口籠る。
僅かに後退るも前を向く。
「だ、だが頭皮ケア商品を買ったばかりだろ? 」
「もしもこれでご主人様の髪の毛が残念なことになったらっ! 」
「そんな未来はぶち壊す! 」
「毛根を? 」
「んなわけあるか! しかも、もしサキの言う通りになったとして今買ってどうする! 普通に期限が切れるだろ?! 」
「……気付きましたか」
「気付かない方がおかしいだろ?! 」
「もしかしたら、と思ったのですが」
「それに……よく見れば普通のリンスじゃないか」
「……バレましたか」
「バレるわ! 」
少し息を切らして再度見る。
「普通に考えて脱毛剤――しかも頭皮のものがここに売ってるわけない」
「流れでレジまで行かないか若干不安でした」
そう言うサキに「自業自得だ」と呆れてリンスを戻す。
他必要なものを買い終わり俺達は食品売り場へ足を向けた。
ここまで如何だったでしょうか?
面白かった、続きが気になるなど少しでも思って頂けたら、是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価をぽちっとよろしくお願いします。




