第11話 メイド服のメイドさん
サキが部屋を出て行った後、俺も準備に入る。
と言っても服を着替えてポーチを付けるくらいだ。三十分もかからない。
姿見の方へ行って軽くチェック。
「……ワックスでもかけるか」
勉強机の上にある丸い瓶を取り再度姿見へ。
髪を整えながらも自分の平凡さを実感する。
本当にサキとは不釣り合いだ。いやサキレベルならばどんな奴でも不釣り合いになりかねないな。
そう思いながらシャワー室で手を洗う。
水を拭きとりベットに腰掛けた。
「まだ時間があるな」
とポツリ呟いた。
サキが「準備」か。恐らく化粧の類だとは思うがどうなのだろう?
昨日や今日の感じだと——いい匂いはするものの——香水をかけているという感じではない。
化粧の匂いがするわけでもないからあれが素なのだろうが、やはり外出の時は女性らしく化粧をするのだろうか。
メイドであり婚約者であるサキ。
恐らく化粧をしていないのは俺の道具に匂いを移さないため。
飾らずあの美貌を出しているのだから恐ろしい。
あれやこれやと考えていると時間が来る。
三十分にはかなり早いが降りておこう。サキより後に降りたら何を言われるかわからないしな。
★
「お待たせしました、ご主人様」
「よぉし。分かった。着替えてこい!!! 」
俺が下に行くとまだサキは到着していなかった。
待つこと数分。
エントランスの向こうから出てきたのは美麗な——メイドだった。まごうことなきメイドであった。
「はて。私はご主人様のメイドでございます。何故着替えなければならないので? 」
本当に理解不能と言った表情でそう言うサキ。
いや常識的に考えてダメだろ。
「確かにメイドだ。だがよく考えろ。メイド服のまま町に出る奴がどこにいる? 」
「ここにいますが」
でしょうね!
それに都会の一角ならまだしもここは高知。
「そうかもしれないが土地を考えろ。今日の所は、せめて今日の所は着替えてくれ」
俺が訴えると顎に手をやり少し眉を下げた。
「それは困りました。私メイド服しか持ち合わせていないのです」
「嘘だろ?! あれだけ段ボールがあったのにか?! 」
「私が持ち合わせている服は様々なバリエーションのメイド服とご主人様をさりげなくおちょくるためのネタ服です」
「さり気に聞き捨てならない言葉が聞こえたのだが」
「気のせいでございます。で、正直なところ本気で持ち合わせがないのでそもそもな話着替えることが出来ません」
それを聞き天を仰ぐ。
まさかのファッション音痴。
いや音痴とは限らないが、困ったことになったのは間違いない。
このまま彼女を連れまわしたらどうなるか容易に想像ができる。
田舎を、メイド服を着た美人を連れて歩く新入生。
あぁ……俺の平穏な大学生活が遠のいていく。
もう字面からして危ない。仮にサキを彼女と間違われたら——いや婚約者だから間違いではないが——彼女にメイドプレイを強要しているヤバい奴と認識されてしまう。
「どうしたのですか? ご主人様。何か悲しい事でもあったのですか? 涙が流れていますよ」
「悲しい事があったんじゃない。これから起こるだろうことを予想して、悲しくなったんだ」
「左様で。そんなにも悲しい未来が迫っているのですね」
「あぁ。サキがメイドではなく普通の服を着てくれると避けられる未来なんだが」
「メイド服は戦闘服。いついかなる時も戦の心構えをするのが私のメイ道。譲る訳にはいきません」
顔から手を外すときりっとした表情でそう言うサキ。
しかしこのまま彼女をメイド服のままにしておくのは悪手だ。
「サキ。服を買いに行かないか? 」
「服、ですか」
俺が言うとあからさまにトーンダウンさせたサキ。
今日から彼女を落ち着かせる時服の話をするのが一番じゃないかと感じるくらいのテンションの下がり方だ。
服を買いに行く道中周りにメイド服の彼女を見られるわけだが、これは仕方ない。割り切ろう。
もし着替えてくれなかった場合の事を考えると一瞬の恥くらい捨ててやる!
がこれを受けてくれるかはわからないわけで。
何とかして説得したいのだがどうするか。
「サキの……、そう。普通の服も見てみたいんだ」
「見てみたい、ですか」
少し眉を上げるサキ。
やっぱりあからさま過ぎて警戒されたか?
だがここで引くわけにはいかない。理由が、それなりの理由が必要だ。
「これからどういう形で護衛するのかわからないが一般的な服装で周りに紛れる必要があるんじゃないか? 」
「と言いますと? 」
「確かにサキはメイドだ。だからメイド服が仕事服で戦闘服なのは分かる」
分かりたくないが。
「だがもし仮に、本当に刺客というのが来た場合サキのメイド服はある意味目印になるんじゃないか? 」
「……なるほど」
「分かってくれたようでなによりだ。つまりは偽造。メイドを連れた一般人がどこにいる? 」
サキはむぅと少し考え込んだ。
あと一押し。
「加えると、——俺の個人的な願望になるがサキの一般服に興味がある」
「なにも面白味がないと思いますが」
「いやいや。メイド服とのギャップというのは案外侮れないぞ? 」
それに、と付け加える。
「王侯貴族ならまだしも俺は一般人。普通の、外で見かけるような服を着ているのが普通であるという感性だ。俺は、女性がいつも普段着を着ているからそメイド服が特殊で特別な物なのではないかと考えている。そしてそれによりメイド服が崇高なものに見えるのだと思う」
「? 」
「ほら、いつもメイド服だけで接するとマンネリ化してしまうだろ? それを予防するためにも一般的な服は必要になるということだ」
拳を握りサキに説く。
俺は何をやっているんだ?
だがサキは更に考え込んでしまったようで「むむむ」と唸っていた。
少し間が開き緊張した雰囲気が流れる。
どうだ?
サキの様子を伺っていると唇が開いた。
「分かりました。普段着を買いに行きましょう」
「よし! 」
「しかし部屋の中でのメイド服の着用は認めてください」
「……それだとありがたみが薄れるが」
「メイド服は仕事服なので」
「わかった」
両手を上げて承諾する。
普通のおしゃれ状態でお世話をされるというシチュエーションを少し期待し、想像したのは秘密だ。
「じゃぁ行こうか」
「はい。ご主人様」
なにか、幻聴が聞こえた気がする。
ここまで如何だったでしょうか?
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