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第一話 小説は現実よりも奇なり

 目を覚ましたのは、見知らぬ洞窟(どうくつ)だった。俺は夢遊病(むゆうびょう)でもなければ二重人格でもない。そして、夢の中で痛みを感じるなんて体験をしたことはない。つまり、刺されたのは夢じゃなかった……と思う。

 確かめるように腹部に手を持って行くが、穴が空いている感触はないし、治療(ちりょう)跡や()い跡もない。ここが病院には見えないし、刺された場所でもないし、ましてや職場でもない。


 状況が()み込めず困惑しているところに、さらに追加情報が投げつけられる。目の前を、巨大な恐竜のような生物が通り過ぎたのだ。

 理解が追いつかない状況に、脳は処理を停止するのではなく、原始時代にタイムスリップしたのかと突拍子(とっぴょうし)もない予想を始めた。想定外の事態が起こったとき、フリーズするのではなくバグを生み出してしまった。そうでもしなければ、状況に納得できなさすぎて、納得欠乏症(けつぼうしょう)で死んでしまいそうだったからだ。


 恐竜だけなら良かったのだが、続いて現れたスライムや空飛ぶ頭蓋骨(ずがいこつ)などを見たときには見なかったことにしたくなった。

 歴史の教科書には、原始時代にスライムや空飛ぶ頭蓋骨がいたとは書いていなかった。これを歴史学者の怠慢(たいまん)と見るか、原始時代にタイムスリップしたわけではないと見るかは俺次第。


 やつらに敵意はないのか、俺をちらりと見ると、そのまま通り過ぎていった。危険がないことが確認できたが、それ以上の情報が得られるとは思えない。冷静に物事を(とら)えていると思うかもしれないが、情報が無さすぎて取り乱すことすらできないのが正確なところだ。

 もしここが、俺が刺された世界の数億年後だと言われたら、そのとき改めて取り乱すと思う。


出口がどこにあるのか、歩き回りながら探して、ようやく外に出られる場所を見つけた。道中、動く草やバランスの悪すぎる鳥など、何匹か変な生き物を見つけたが、やはり全員襲ってはこなかった。


「あれ……? もしかして、あなた洞窟から出てきましたか……?」


 外に出ると、花でいっぱいの(かご)を持った少女がいた。


「ああ、でも不思議なことに、洞窟に入った記憶もないんだよな」


 不思議そうな顔でこちらを見つめてくる少女に、こちらも不思議なんだよね、と表情で(うった)える。会話が成り立つということは、日本……なのだろうか?


「いえ、そもそもどうして中から出てこれたんですか? だって、モンスターがいっぱいで、入った人は骨すら残らず(むさぼ)り食われると聞いているんですが……」


 なんて恐ろしい洞窟なんだ。そしておそらく、そんな恐ろしい洞窟から出てきた俺も恐ろしいと思われているかもしれない。一歩近づくと、一歩下がられる。


「そんな場所だってことすら、今初めて知ったんだ。正直言うと、ここがどこかも分からない。もし良ければ、君の住んでるところに案内してもらえないかな」


 どうにかして信頼を勝ち取らなければならない。地面に正座し、頭を下げる。いわゆる『土下座スタイル』でお願いをしてみる。これがここで通じるのか分からないが、俺が人間なのだと伝わればそれで十分だ。

 そして、どうやらその意図(いと)は伝わったようで、少し考えるそぶりを見せたかと思うと、自分の中で答えが出たのか、こちらへ歩み寄ってきてくれた。


「何だか分からないですけど、とっても誠意を感じました……! と、とりあえず顔を上げてください!」


 良かった、このスタイルは万国(ばんこく)共通どころか謎の世界でも通じることが証明された。土下座研究家として、一歩成長したぞ。


「こんなところに置いていくなんてしませんから安心してください! 私たちの村にご案内しますよ。ただ、最近はちょっと物騒なので、何事もなければいいんですけど……」

「物騒? 洞窟にいたようなやつらが出てきてるのか?」

「いえ、そうではなく……。クロノリア国の兵士が、私たちの村を中間拠点にするために兵士を派遣(はけん)してきているんです。断っているんですが、だんだんとやり方が乱暴になってきていて……」


 あれ? 何か覚えがある単語が聞こえた気がするが。


「クロノリア国?」

「はい、クロノリア国です」


 奇跡的な確率で、適当に考えた言葉が存在していただけならいいんだけれども。そうでない場合。

「ついでに、君の住んでる村の名前も教えてもらっても……?」

「はい、セイラ村と言います!」


 そして、その奇跡が二連続で起こっただけならいいんだけれども。


「もしかして、そのクロノリア国が戦ってるのって、アルイタ国って名前だったりする……?」

「あれ、知ってるじゃないですか。…………どうして頭を抱えてるんですか?」


 ここは、俺が死ぬ前に書いていた、小説の中だ。


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