プロローグ 創作意欲は人をも殺す
『こうして、セイラ村を中間拠点として支配したクロノリア国による侵攻が開始。アルイタ国との戦争をきっかけに、世界は戦火に包まれることとなる。』
カタカタと小気味の良い音を立てながら、譜面に音符が並ぶように、文章が生み出されていく。脳内に溜まった妄想を吐き出しながら、一つの物語を組み立てる。忘れていた作業の楽しみが、身体に力をみなぎらせる。
すでに朝日が昇り始める時間だが、眠気はすっかり飛び去っていた。深夜に訪れた小説投稿サイトで、あまり人気になっていない名作を読み、消えかけ意ていた創作意欲の炎に燃料が投下され、こんなにも没頭してしまった。
学生の頃は、時間も体力も有り余っていた。小説を書き、投稿し、読者数に一喜一憂する生活を送っていた。
しかし、社会人となったことで変わってしまった。別にブラック企業なわけではなかったが、業績悪化に伴い、リストラが進んだ。不幸なことに、俺は真面目に頑張り、成績は上の方をキープしていたため、リストラされなかった。そのせいで、どんどん残業が増え、仕事量が増え、負担が増えた。帰って寝て、再び仕事。すでに創作意欲なんてものは消え去り、「さまようよろい」ならぬ「さまようスーツ」と化した。
帰ったら続きを書こう。どんな物語にしようか、主人公はこうでヒロインとこうなって……。暴走機関車の如き思考は、止まるところを知らない。忘れないで、と寂しそうに擦り寄ってきた眠気と同居して、まともに周りを見ることもできなくなっていた。
そして、
「あ、すみません」
人と肩がぶつかり、
「……誰でも良い、誰でも良い」
腹部に痛みを感じたとき、
「え、血が……?」
「キャー!」
「お、おい、おい、おい! 人殺しだ!」
「早く警察呼べよ!」
「刺されてるぞ! 先に救急車だろ!」
俺の人生は幕を閉じた。
……いや、こう付け加えるべきか。俺の一度目の人生は幕を閉じた。
普段は少し固めの小説を書いているため、初めてこのジャンルに挑戦します。至らぬところもあるかと思いますが、お手柔らかにお願いします……。
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