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わたし達の宝もの(もう一つのエピローグ)

最終話です。

途中まではアルファポリス版の最終話と同じです。

よろしくお願いします。

「お母さーーん!早くー!」



よく整備された石畳の上を

一人の子どもが駆けてゆく。


「ちょっと待ってよぉ、もー、ロア」



5年前に生まれた

わたしとロイドの子、ロアだ。



ロアはわたし譲りの明るいブラウンの髪と、


そしてロイドと同じ黒い目を持って生まれてきた。



ロアの瞳を見た時、

わたしもロイもこの国を出る事を決意した。


かつて精霊騎士団で勇者と称えられた男の息子も

黒い目を持つと知られたら、

どんな手を使ってでもロアを騎士にしようと

企みそうな輩が二人もいるからだ。


そんな国は見限って、

移民を受け入れ治安が良くて豊かな

ハイラム王国へさっさと移住した。


なんでもこの国には

数百年生きている黒い目の賢者様がいるという。


その話を聞いたロアは

自分も将来は精霊魔術師になると言い出し、

街のある一画で開かれている精霊魔術の塾に

通い出した。


賢者の弟子になるという壮大な夢を抱いて。


まぁ精霊騎士になりたいなんて言われなくて

良かったとは思う。


精霊魔術塾(舌を噛みそう)は

その名の通り、精霊を使役する精霊術と魔術を

融合した精霊魔術を教えてくれる塾だ。


ここでは最年少のロアを含め、

5歳から14歳までの子ども10人が学んでいる。


講師のダイ先生は若いがとても優秀な精霊魔術師

らしい。

とても気さくな方で、子ども達もよく懐いている。

そういえば彼も黒い目をしている。


わたしが術式師の仕事が忙しくて、

なかなか時間がとれない時もロアは塾に行けば先生や

みんなと仲良く遊んでいてくれるので、

申し訳ないが託児所的な意味でも助かっている。


術式師の仕事は紙とペンさえあれば何処ででも出来るので、ハイラム王国でも変わりなくこの仕事に就けているのだ。



こちらのギルドへの紹介も

もちろんイザベラ姐さんだ。

物理的にだけでなく、その顔の広さにはホント

驚かされる。

なんとイザベラはわたしが居ない国なんて

つまらないと言ってハイラムに移住して来た。

愛するダーリンさんと共に。


当然ウチの近所に家を構えて、

毎日何かしら理由をつけては我が家に

突撃してくる。


扉の開け閉めさえ静かにしてくれれば

いつでも大歓迎なんだけど。


子ども達もイザベラの事が大好きだから

とても喜んでいた。



ロアは健康優良児で好き嫌いもなくホント

育てやすい子だと思う。

わたしとロイのかけがえのない宝物なのだ。



そして宝物はもう一つ。



ロアと市場へ向かうために歩いていたら、

近所のおばさんに声をかけられた。


「ねぇ!ララちゃん!」


「あら、はす向かいのおばさん、

こんにちは。いいお天気ですね」


「はいこんにちは、ホントにいいお天気ねっ…って、そんな事言ってる場合じゃないのよっ、キラちゃんが連れて行かれたって、あなたのお友達のあの大きな女の人が叫んでたわよ」


大きな女の人……イザベラの事ね。


「連れて行かれた?」


「そう、昼にいきなり来てそのまま連れ去られたー!

あのクソヘタれ野郎がーっ!って、えらいご立腹だったのよ、誘拐かしら?自警団か騎士団に通報した方がいいんじゃない?」


はす向かいのおばさんは

心配そうに顎に手を当てながら言った。


わたしは今の話でだいたい見当がついたので

笑顔で大丈夫だと返事しておいた。


ロアもすぐにわかったようだ。


「ねぇまた?」


「そうね、また連れて行ったんだわ」


「えーズルい、キラばっかり」


「ふふふ、

じゃあ今から一緒に迎えに行きましょ」


「うん!」


わたしとロアは市場ではなく、

ハイラム騎士団の東の詰め所へと行き先を変更した。



騎士団詰め所の受付で訪問の署名をして身分証を

提示する。


まぁ近頃ではここに来過ぎて顔パスになってるけどね。


騎士たちの休憩室になっている所まで来ると、

案の定なデレデレ声が聞こえて来た。


……2歳の小さな幼女に、

大の男3人で寄ってたかって両手を広げて

手招きしている。

なんともイタイ光景である。


〈またやってる〉


「キララたーん!可愛い可愛いお姫様〜!

だいちゅきなパパの所へおいで〜」


「いやいやキララちゅわ〜ん!

おぢちゃまの方が副団長という肩書きがあって

素敵でちゅよね〜!こっちにおいで〜、

お菓子をあげるよ〜!」


「キララ姫〜、俺の未来の嫁〜!そんなオッさん達は

ほっといてお兄ちゃんの所においで〜!」


「誰が未来の嫁だよっ!

キラたんはどこにも嫁に出さないからな!」


「先輩、残念ながら俺とキララは

運命の赤い糸で繋がってるんですよ、諦めて下さい」


「呼び捨てにするな!何が運命の赤い糸だ!

断ち切ってやる!」


「若造ども、真の男の価値は35を超えてからなのだ。

引っ込んでろ」


「副団長、さすがに33歳の歳の差はヤバイですって」


「なにおう、愛さえあれば年の差なんて……だ!」


「大切なキララたんをじじぃになんぞやれるかっ!」


「誰がじじぃだっ!」


ギャーギャー喚く男3人を放置して

わたしは2年前に生んだもう一人の宝もの、

娘のキララの元へ行き、抱き上げた。

ちなみにキララの瞳はわたし譲りの新緑の色だ。


「まま!」


キララは抱き上げたのがわたしだとわかり、

嬉しそうにしがみ付いて頬を寄せてくる。


「ふふ、キララ、

やっぱりパパに連れて来られていたのね」


「「「あーー!」」」


言い争っている間にキララをわたしに奪われた男3人が悔しそうな声を出す。


「ララさんそりゃないよ〜、どんなに頑張って

ご機嫌取っても母親には勝てないよ〜」


と、キララを嫁にすると言っていた若手の騎士が

言った。


「しかしこうやってキララちゃんを抱いているララさん、

まるで聖母様のようではないか。一枚の絵画を見ているようだ」


とはこの東の騎士団の副団長が言った。


「あまり不躾に見ないで下さい。

俺の大切な妻と娘が穢れます。ね?ララ」


そう言ってわたしのこめかみにキスを落とすのは

わたしの旦那……ロイドだ。



ロイドは三年前に

わたしが構築した術式により作られた新薬で

病を克服する事が出来た。


奇跡が起きたと言っていいくらい、

術式の構築が早く完成したのだ。

構築成功のヒントは精霊魔術塾のダイ先生が

くれたものだった。

彼との会話の中でピーンと閃いたのだ。


もしかしたら、

ダイ先生に答えを誘導されていたりして?


でもそれはそれで、彼には感謝してもしきれない。


当初の予定より

ロアを早く塾に入れる事になって、

そこでダイ先生に出会わなければ術式は

完成していなかったと思う。


そしてもし術式が上手く組み立てられず

新薬の完成が遅れていたら、

ロイドは助からなかったかもしれないのだ。


わたしはダイ先生に心から感謝した。


ロイドは病の後遺症で片目の色が変わってしまった。

それにより使役出来る精霊の数は減ってしまったけど、

それでも薬の副作用に苦しめられる事もなく快癒出来た。


今はハイラム王国、東の騎士団に所属する騎士だ。


ハイラムには魔物が来ない。


これもこの国に住む大賢者様のおかげらしい。

彼が昔、親友となったこの国の王妃だった方の為に今も

ハイラムを守り続けているらしいのだ。


なのでロイが魔物と対峙する事はない。

それだけでもこの国に移住して本当に良かった。


「キラ!」


「にーに!にーに!」


ロアを見つけたキララがわたしの腕から

降りようとするので下に降ろすと、

キララは脇目もふらずにロアの元へと駆けて行く。

途中、男共の間を通り抜けて。


「キラちゅわん……」

「俺の嫁……」


がっくりと項垂れる二人の男。


「ぷぷっキララたんは大のお兄ちゃんっ子なんだ。

残念だったね、フラれてやんの」


「ロイもね」


「うっ……パパ親なのにっ……」


「ふふ」


わたしは哀れな可愛いわたしの旦那の頬に

キスしてあげた。


それだけでロイの機嫌は再浮上する。

ホント単純な男だ。


父と母、そして兄を失い独りぼっちだったわたしに

家族をくれたロイ。


色々あったけど、

ホンットに色々あったけど、

あの時別れるという選択肢を取らなくて良かった。


だからこその今がある。


二人で泣きながら、怒りながら、そして迷いながらも

手を離さずに共に歩いて来たからこそ、

こうやって二人の宝ものと出会えた。

一緒のお墓に入るというプロポーズの約束も果たせそうだ。


このどうしようもない旦那が

どうしようもなく愛おしい。


家族4人の暮らしがどうしようもなく愛おしいのだ。


だからわたしは、これからもロイと共に生きてゆく。


二人しっかり手を離さずに、

まさに“死が二人を分つまで”一緒に生きてゆく。




「さ、お仕事の邪魔しちゃ悪いわ。ロア、キララ、

先に帰りましょ」


「は〜い」「あいっ」


「じゃあ俺も帰る」


「こらガードナー!お前はまだ仕事中だろっ」


さっさと帰ろうするロイに副団長が声を張り上げる。


「何言ってるんですか、俺は今日はもともと半ドンです。それをどうしてもキララたんに会いたいっていうから連れて来たのに……キララたん手当て、付けといて下さいよ!」


そう言ってロイはわたし達を連れ立って歩き出す。


「帰りに市場に寄りましょ。

今日の晩ごはんは何がいい?」


わたしが尋ねると

親子3人、声を揃えてこう言った。


「「「オクト焼き!っでちゅ」」」


「ふふ」


違うわね、子どもが3人ね。


こうやってわたしの賑やかな生活はこれからも続いていくのだろう。


そしてさらにもう一人増えるとわかるのは

3週間後の事だった。






           終わり


最後までお読みいただきありがとうございました。

これにてなろう版も完結となります。


アルファポリス版では死に別れを描きたかった作者により早くにお星様にされてしまったロイドも、

病を克服して幸せに暮らせるというもう一つのラストを用意してあげる事が出来ました。

どちらの結末で終わりにするかは読者様のお好きな方を選んでいただければ嬉しいです。

さて、作者の多作品も読んで下さっている方はご存知の、あの大賢者様がまた出て来ましたね☆

彼はよほどダイという名が気に入っているようです。

どういう事?と思って頂けた方は、こちらもなろう版で連載している『だから言ったのに!〜婚約者は予言持ち〜』を読んで頂けると幸いです。


長くなりましたが、

アルファポリス版の方からお付き合いくださっている方もなろう版からお付き合いくださっている方も、

本当にありがとうございました!

誤字脱字報告、感謝いたします。

皆さまに心から感謝を込めて。



        キムラましゅろう

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― 新着の感想 ―
アルファポリス版を先に読みましたが、ロイドがお星様になってしまって悲しかったので、私はこちらの方が好きです。 ダイ先生☆の助言で間に合ったんですね^_^ おかげでロア君にも妹弟ができて、ますますハピエ…
こちらの終わり方の方が好きです(^_^) ありがとうございました。
[一言] アルファポリスから来ました。 あちらの結末も切ないながらも「こういう終わりもあるか」と、 納得しましたが、個人的にはなろう版の結末が大好きです 家族も増えてハッピーエンド万歳です 幸せな…
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