表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

わたしの選択

この3ヶ月間、


色々ありすぎて

わたしの頭の中はかなり混乱している。


まだ決めなくてはならない事、

話し合わなくてはならない事、

伝えなくてはならない事、

やらなくてはならない事、


数え出したらキリがないけど

とりあえずは今回の誘拐騒動の顛末を。


精霊騎士団のロイド=ガードナーの本妻を

扶養妻の一人が誘拐し、殺害しようとした事件は

瞬く間に世間を賑わせた。


以前より一夫多妻制度に疑問を抱いていた

国民は多く、

この事件がきっかけで多くの物議を醸した。


結果、特に多くの女性たちから批判の声が殺到。


この制度の見直しを求める声が各地で多数上がった事により、

今後、新たな一夫多妻制度の該当者選定を廃止する

流れになった。


既に一夫多妻制度の資格を持ち

扶養枠に妻を抱えている者は、

今扶養している妻を徐々に扶養から外していくように通達された。


扶養妻は不要妻になった……

なんて揶揄する声も多かったという。


我が家の扶養妻さん達とは

こうなる前に話が付いていたので

そのまま提示していた金額を一括で振り込む事により、マリータさんもジェシカさんも快く扶養から

外れてくれた。


当然、わたしを誘拐した扶養妻3号の

エミリー=ゴアには一銭もお支払いは

致しませんよ。

それどころか彼女は()薬もやっていたので誘拐と

併せても罪は重く、もはや一生、牢からは出て来れないらしい。


彼女に支払う筈だったお金は黒い目を持つ彼女の

息子に渡す事にした。

公的な未成年後見人を立て、彼の成長を見守って

ゆく事となった。


逆境に負けず努力し、

将来は自分のやりたい職業に就いて欲しい。


これにより、ドニ=バチストと

第二王子の長期的な理想の騎士団計画は瓦解。

長年の労力が全て無駄に終わった。


しかもドニ=バチストは子ども達全員に、


「お母さんをお金で釣って言う事聞かせて、

僕たちを騎士にするなんて卑怯だ!そんな

カッコ悪い精霊騎士になんかなりたくない!」

と、面と向かって言われたそうだ。


さらに

「バチストさんて頭が悪いね」とか


「性格も悪いらしいよ」とか


「笑顔が気持ち悪いよね」とか


「騎士なのにペンしか持てないんでしょ」


とまで言われ、かなり抉られたらしい。


……わたしもその場に居たかった。



自らの行いこそ正義だと信じていた男が、

純真無垢な子ども達からの卑怯者呼ばわりを

受けた事はかなりショックだったらしい。


しばらく食事も喉を通らないほどだと聞いた

わたしは、彼にある魔術のプレゼントを贈る事にした。


『嫌いな食材がなぜか必ず食事に入ってる魔術』と

『食事を残すとどこからともなく空からタライが

降ってくる魔術』だ。


『嫌いな食材がなぜか必ず食事に入ってる魔術』は

どんな食事やスイーツにも、彼が大嫌いな人参が入っているというものだ。


以前夕食会に呼んだ時に、人参ばかり避けて食べていたのをばっちりチェックした。(子どもか)


今後、彼が食べる食事には必ず人参が入っている。

食べないで残そうものならたちまちに今度は

『食事を残すとどこからともなく空からタライが降ってくる魔術』が発動する。


この魔術を彼にプレゼントした当初はしょっ中

王宮の食堂や街のレストラン、騎士団の詰所から

グワーンッとかガゴーンッとかいう音が鳴り響いていたらしい。


どういう術式をどういった経緯で施術したかは長くなるので割愛したい。



ちなみに第二王子はいつでも突然、服が悪趣味な

ものになるために第二王子妃や彼の王女達から一緒の外出は拒否され続けているそうだ。


そのために枕を濡らす日もあるのだとか。


まぁあと2年くらいはこのまま

ニューファッションリーダーとして頑張って貰おうと思っている。



……というか、

わたしはもう彼らがどうなろうとどうでもいい。


それよりもロイドの事でそれどころではなくなったのだ。


わたしが誘拐された日

高熱を押して助けに来てくれたロイはそのまま倒れ、病院に運ばれた。


幾度となく発熱が続いている事と

わたしが把握しているだけで二度、突然意識を

失った経緯を医療魔術師に説明した。


魔物を討伐する精霊騎士であると知った時点で、

医療魔術師(先生)の表情は曇っていた。


様々な検査を行った結果出た診断は



重瘴気症候群じゅうしょうきしょうこうぐん



長年、魔物の瘴気や体液を浴び続け、

瘴気を呼吸と共に吸い込み続ける事により、

体に様々な異変を起こし、少しずつ内臓の機能などを低下させる。そしていずれは死に至らしめるという病らしい。


精霊騎士や魔術師など、

魔物の討伐に関わる者の職業病のような

ものなのだとか。


ましてやロイは国内外でも

討伐数が群を抜いている。


それはイコール他者よりも多くの

魔物の瘴気や体液に晒されたという事なのだ。


先生の話では今後も発熱を繰り返し、

いずれ少しずつ体力が奪われていくだろう

との事だった。


ロイド本人の希望もあり、

診断結果は二人で聞いた。


先生の話を聞いた時、ロイドはひと言、


「そうですか……」とだけ呟いた。


診断を告げてくれた先生はとても

誠実な方のようで、

決して楽観視出来るような事は

言ってくれなかったが、


「人によって、予後は様々です。

明日かもしれないし、50年後かもしれない。

まだ未知の病いです。()()()()()も進んでいます。決して希望は捨てず、一緒に病気と戦ってゆきましょう」

と言ってくれた。



病室に戻り、ロイを再びベッドで休ませた。


熱は下がったが

大事を取って、確定診断が出るまで入院していたのだ。


「「…………」」


二人、それぞれ言葉が見つからない。


どうしてこんな事に。


まさかこんな事になるなんて。


わたしの頭の中に、この二つの言葉が

ぐるぐる回る。


ふいにロイが言った。


「ごめんねララ、こんな事になって」


「ロイ……」


「どうせ退団するって決めてたけど、

これは思ったよりも早めの退団になるね」


「そうね」


「ララ」


「なぁに?」


「別れよう」


「…………」


まさかロイの口からこの言葉が出るとは。


「理由を聞いても?」


「これから俺はもう弱っていく一方だ。

ララには俺の看病をするだけの日々になる。

大好きな術式師の仕事も出来ない時も増えるだろう、ララにそんな不自由な生活はさせたくない。

ララを守りたくて、幸せにしたくて結婚したのに、

これじゃあララを不幸にするだけだ。そうなる前に

別れた方がいいよ」


「ロイ……」


「ララが離婚したいって思ってくれてて

丁度よかった……ララ、離婚届に署名するよ」


「ロイド……」



わたしはロイの頭を撫でた。

そして頭から頬に手を滑らせ、ロイの頬にそっと

手を当てた。


「ララ……」


ロイはゆっくり目を瞑る。

わたしの手のひらの体温を確かめるように、

まるで忘れないように心に刻みつけるように。


わたしはその手をさらに滑るように動かして……


ロイドの頬を思いっきりツネってやった。


「いっ!?痛いっ!?」


ロイが慄いて起き上がる。


わたしは指を突きつけてロイドに言ってやった。


「何が別れようや!何が離婚届に署名するや!

ウチが望んだ時には全然応じてくれへんかったくせに!

ウチが苦労する?もう守れない?幸せになれない?

勝手に決めんな!このヘタレロイドが!」


「ラ、ララ……?」


「これから弱っていく一方だぁ?

看病するだけの日々だぁ?そんなんわからんやろ、なんであんたが決めつけるねん!先生もわからんて言うてはる事があんたにわかるわけないやろっ!」


はぁ、はぁ、

矢継ぎ早に捲し立てて思わず息が上がる。

それでも構わずにわたしは話し続けた。


「先生が言うてはったやろ、

()()()()()が進められてるって。この世界の薬は

何を基に作られる?言うてみ?」


「ま、魔術から効能を得て作られて……います」


「そうや。そしてあんたの妻の仕事はなんや?」


「じゅ、術式師……です」


「ちゃう!()()()術式師や!言うてみ!」


「ゆ、優秀な術式師です!」


「よろしい」


わたしは満足してロイのベッドに腰を下ろす。


「ウチは諦めへんで、ロイ。

ウチが必ず特効薬が出来る術式を組み立てたる!

全部このララさんに任せとき!」


「ララ……」


ロイの顔は既に涙でぐしゃぐしゃだった。

相変わらず泣き虫な男だ。


よし、もひとつ泣かせたろ。



「それにロイ、あんた死んでる場合とちゃうで?

あんた、もうすぐお父さんになるんやから。可愛い子どもの顔を見んとあの世に行くつもりか?」


わたしのその言葉にロイはしばしフリーズした。


「なぁ?パパ?」


わたしはロイの手をわたしの下腹部へと沿わせた。



そう。


わたしはようやく、

ロイとの子どもを身籠ったのだ。


……家出しようとして玄関で捕獲されて朝まで

寝室から出して貰えなかったあの日に授かったようだ。



「ラ、ララ……ララ……」


「はい、なんでしょう」


「ラ、ララララララララっ……」


「歌でも歌ってるんかいっ」


「ララっ!!」


ロイドにきつく掻き抱かれた。


これが病人の力か?と思うほどに強く。




大丈夫。


わたし達はきっと大丈夫。



わたしは決めた。



ロイドと共に生きていく事を。



大事な事を何一つ話してくれなかった事は

一生ねちねち言い続けてやるつもりだけど。































次回、最終話です。

アルファポリス版とは異なった、小説家になろう版独自のラストとなります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なろう版最終回、本当に楽しみです! ダニさんには小さな呪いをもっとたくさんかけてあげたかったなぁ… 机の脚に足の小指をぶつける呪いとか、 大事な日には必ず雨が降る呪いとか、 1日じゅう気が…
[良い点] 良い魔法ですね。にんじん食べたくなりました。 [気になる点] たらいは毎回「回収」されて「再利用」でしょうか。そうでなければタライ屋を営めそうですね。 [一言] 更新楽しみにしています。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ