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本妻vs扶養妻3号

「エミリーさん、この方が貴女とお子さんを

戸籍の扶養枠に引き受けて下さる、精霊騎士団の

ロイド=ガードナー卿です」


………やだカッコいい……!


3年前、旦那が魔物に殺された後に紹介された

ロイド様に、ワタシは一瞬で恋に落ちた。


もともと気の多い性格だとは理解してるのよ?

だってどの人も良く見えるんだもん。


でもロイド様はぶっちぎりのカッコ良さだった。


こんな人の妻になれるなんてラッキー!

旦那が死んで良かった、なんて事まで思っちゃう

くらいロイド様ってばステキなんだもん。


黒い目を持った息子を精霊騎士にすればお金が

貰えるっていうし。


カタチだけの妻ってらしいけど、

ホントの妻になってあげてもいいよ~って

ロイド様に言ったら速攻で断られた。

なんで!?

本妻()を愛してるからって?

聞けば若さしか取り柄のないような女じゃない。


そんな女よりワタシの方がよっぽど楽しませて

あげるのに。

まぁでも時間の問題なんじゃない?

ロイド様ってば絶対、昔遊んでたタイプ。

ワタシもそうだからわかるのよね。

だから絶対、ちょっと()()()()()()()に持っていけばチョロいと思うの。


なのにどうしてよ。

全っ然、(なび)かない!

そのうち全然ウチに来なくなってしまった。

息子は騎士団の駐屯地に呼んで会ってるみたいなのに。


えーーなんでよっ。


あ、アレか、本妻の所為か。

あの女がどうせロイド様をワタシと会わせないようにしてるんでしょうよ。

女のヤキモチってイヤよねー。


腹いせに仲間の知り合いの念写詐欺師に頼んで

キスしてる魔力念写(写真)を作ってもらって本妻に送りつけてやった。


それでさっさと別れればいいのに

全く別れる気配がない……。


まぁでも、邪魔なら消せばいいんじゃない?

死んだ旦那はちょっと悪い奴で、

今も残る旦那の仲間達が色々と協力してくれるらしいし。

ワタシが本妻の座についた時に

謝礼をガッポリ期待してるんだってさ。


本妻をいつ襲うか、仲間の一人が下調べしてる時に丁度都合よく本妻が旅行に出る事がわかった。


王都で襲うより

成功率が上がるよね、って話になり

本妻が王都に帰る途中の街で実行に移す事にした。


そうして今、

本妻はワタシの目の前に転がってる。

ブザマだわーー。

泣き喚いて命乞いをするのかしら?

なんでもするから命だけは助けて!とか

言っちゃったりするのかしら?

ロイド様と別れるって言うなら

まぁ命だけは助けてやってもいいかなー。


……なのになぁに?

目を覚ましてからの本妻の態度。


ちっとも怖がらないし、泣き喚きもしない。

つまらないったらありゃしない。


これはもう、

泣くまでイジメてやろうかしら……?




◇◇◇



どうやらわたしは宿屋で眠らされて

この場所まで連れて来られたらしい。


ここは何処なのか、

今が一体何時(いつ)なのか、

わからなさすぎて怖い……。


不安で怖くて寒くて……

正直今すぐ泣きたい気分だけれども、

絶対に泣いたりなんかしない。


こんな女なんかに屈したくない。


わたしはわざとらしい程に

泰然として言ってやった。


「あなた、さっきわたしが死ぬみたいな事言っていたけど、どうしてわたしが死ななくてはいけないの?まだ22歳であなたと違って若いのに」


するとエミリー=ゴア(34)の眉間に

わかりやすくシワが寄る。


「フン、逆に若さしか取り柄がないくせに

ナニ気取ってんのかしら。ロイド様を騙して

ちゃっかり本妻の座に収まってさ。もういい加減

さっさと別れなさいよ」


「わたしも別れようと思ってたんだけど、

ロイドが離してくれなくって……

ご期待に沿えなくてごめんなさいね」


「はぁぁ!?……くそっ、まぁいいわ。

アンタさえいなくなれば、後はチョロいものよ。

安心してねロイド様はワタシがちゃんと

身も心も慰めてあげるから」


わたしは鼻で笑ってやった。


「ロイドがあなたを?……無いわね、絶対に」


「なんでよっ!?」


「だってロイドは胸の大きな(ヒト)

好きなんだもの(多分)」


言ってやった。


身体の特徴を攻撃するなんて卑怯だけど、

相手は平気で誘拐して殺害しようとする人間だもの。容赦しなくていいわよね。


少しでも長く、時間を稼ぎたかった。


だってきっと来てくれる。



エミリーは自分の胸がささやかなのを

気にしていたんだろう。

顔を真っ赤にして怒り散らしてきた。


「な、なんなのよアンタっ!

もっと怖がりなさいよ!泣いて命乞いのひとつでもしなさいよっ!」


絶対にイヤ。

わたしの矜持が許さない。


「ごめんなさいね、可愛げのない女で」



すると横から大きな声で笑う男の声がした。


「あはははっ!!エミリーお前、負けてんじゃん。

口喧嘩は地頭が悪いと不利だからなぁ。

お前、バカだもんなぁーっ、あはははっ!」


……やっぱり仲間がいた。


暗くて周りがよく見えないけど、

絶対にこの女一人の犯行じゃないと思ってた。

一体何人いるんだろう……

これは本当にヤバいやつだ。


殺される前に輪姦される、

という恐怖が頭を(よぎ)った。


「あら、仲間がいたの?」


わたしはわざと気付かなかったフリをする。

話をしながら脳内で術式をひと文字……


「まぁあなた一人ではここまで運べないものね」


心の中でまたひと文字、


男はわたしの全身を舐め回すように見ながら言った。


「英雄騎士サマの奥方サマだって?

さすがなんかレベルが違うね、アンタみたいな美人と遊べるなんてラッキーだよ」


「お生憎さま、わたしはあなたなんかと遊ぶつもりはないから」


またひと文字、あともう少し……


「なぁエミリー、

殺す前に楽しんでもいいよなぁ?」


男は下卑た笑みを浮かべてわたしに躙り寄る。


「ふふふっ…もちろんよ、

ヒーヒー鳴かせてあげたら?」


「おっしゃ!腕が鳴るな!」


「おい、オレ達にもヤラせてくれるよな?」


「順番にな、オレがヤってる間にクジ引きでもしてろ」


「お、おう……!あははっ!」


そう言って何名かの男がガヤガヤとし出す。

何人いるの?少なくとも4~5人?


そちらに気を取られていると、


力関係で男達のトップなのだろう、

先ほどからわたしに話しかける男が少しずつわたしに近づいて来る。


黙っていい様にされてなるものか。


最後のひと文字…よし、脳内詠唱完了!


わたしは思いっきり、

両腕を縛っていたロープを引きちぎった。


そしてそのまま近くに転がっていた

重量のある鉄パイプを拾いあげる。


「なっっ!?」


「ええっ!?」


そのわたしの突然の行動に、

ましてや女の腕力とは思えないその行動に

エミリー=ゴアと仲間の男たちが

驚愕の声を上げる。


時間を稼いで脳内で術式を詠唱して、

ロイが倒れた時に姫抱っこで寝室まで運んだ

『なんでも軽々と持ち運べる魔術』を自分に掛けたのだ。


ひとり暮らしの女の必須アイテム(魔術)、こんな時にも

役立った!



「お兄さん達、今のわたしに近付くと

ちょっと痛い目に遭うわよ?」


「こ、これは驚いたな……それって魔術?

あんた、魔力持ちだったんだな」


「ええそうよ。

だから諦めてわたしを帰してくれるかしら?」


「でもきっと、その魔術って長時間使えるものじゃないんだろうな」


ぎくり。

この男、鋭いわ。

そう。この魔術が使えるのは精精5分くらい。

わたしの魔力量ではそのくらいが精一杯なのだ。


今度は逆に、

時間を掛け過ぎたらこちらが不利になる。


何でもイイから振り回して当たればラッキー、

当たらなくてもスキをついて退路を探し出す。


わたしは(おもむろ)に鉄パイプを振り回した。


ブンブンというより

ブォンブォンと鉄パイプが空気を唸らす。


「重量のある鉄パイプよ!こんなのでも当たれば

結構なダメージになるわよ!

怪我したくなかったら退きなさいっ!」


「うわぁぁぁっ!?」


「ヒエッ」


「あ、危ないでしょっ!

そんなもん振り回して怪我でもしたらどうしてくれんのよっ!キャアッ」


エミリー=ゴアが頭を抱えて喚き散らす。


その耳障りな金切り声にいい加減イラつく。


気がつけば封印していた

カンサイ州弁が口から出ていた。


「だからそう言っとるやろがっ!

あんたの脳みそスッカラカンか!?

鉄パイプが頭に当たってこれ以上アホになりたくなかったらさっさと退かんかいっ!!」


「ちょっ……奥サン、危ねえって!

そんなの振り回しちゃダメっ」


「誰の所為でこんなんしてると思っとるねん!

このどアホがっ!!鉄パイプに(ドタマ)かち割られたくなかったらどっか早よ()ねやっ!!」


エミリーや他の男たちは

鉄パイプの脅威から逃れようと、

蜘蛛の子を散らすように離れたが、

リーダー格の男だけは徐々に距離を詰めてくる。


まずい、まずいわ。


間合いに入り込まれたら対処なんて出来ない。


「奥サン!落ち着いて!大丈夫、優しくするから。ハジメテじゃないんでしょ?大丈夫、痛くないよ、ヨクしてあげるから」


「そんなもん心配しとるんやないわアホんだらっ!

あんたなんかに犯されるくらいやったら死んだ方がマシじゃボケっ!!」


あかん、

もう5分が過ぎてしまう。


わたしは半ばやけくそになって叫んでいた。


「それ以上近づいたら

舌を噛み切って死んでやるっ!」



「死んじゃダメだよララ、

俺を一人ぼっちにする気?」



「………っ!」



喧騒の中、


聞き慣れた声がした。



絶対、絶対来てくれると思ってた。


だってわたしが

何も告げずに家を出ようとした時も

何故かそれがわかって帰って来た。



だから絶対、迎えに来てくれると思ってた。



「………ロイ」


「ララ、遅くなってごめんね」



その直後、数名の騎士達が突入して来て、

男たちを取り押さえた。


その光景を見て、

自暴自棄(ヤケ)なったリーダー格の男がロイに襲いかかる。


でも相手にならなかった。


一瞬で男の背後に回ったロイが男の首根っこを掴み、

壁に向かって放り投げた。


全身を激しく壁にぶつけた男は意識を

失ったのだろう。

そのまま動かなくなった。


こ、殺してないよね……?



「ララ!」


ロイがわたしの元へ駆け寄って来る。


わたしはその姿を見ただけでなんだかもう

気が抜けてしまってその場にへたり込んでしまう。


(すんで)のところでロイに支えられた。

「ロイ……」


「ララ、怪我はない?奴らに何かされなかった?」


そう言いながらロイはわたしを横抱きにして

抱き上げた。


「平気……ちょっと危なかったけど。

やっぱり来てくれたのね。どうして何時もわかるの?わたしが家出しようとした時も離れていたのにわかったでしょう?」


「ああ、それは……」


ロイは少し気まずそうに言った。


「使役してる精霊に……

いつも見張らせているから……」


「は?」


「いやね、俺は遠征とかで側に居られない事が多いから、常に精霊にララを見張らせといて何かあっからすぐにわかるようにしてるんだ……」


「………」


呆れた。


見張らせる?


一歩間違えたら犯罪やで。



……まぁええわ。


おかげで助かった。



王都の騎士団の詰所に居たロイは

精霊たちの伝達により報せを受けた。

丁度その場にいたドニ=バチストと数名の騎士を連れ、

馬を走らせて駆けつけてくれたそうだ。



なんだかどっと疲れが出て、

わたしはロイの肩に頭を付けた。


「ララ……「ガードナー卿」


ロイの声に重なるように

あの男、ドニ=バチストの声がした。


「エミリー=ゴアの身柄も確保しました」


「……ご苦労」


エミリーはロイの顔を見上げて言い放った。


「ワタシはただ、ロイド様を解放してあげたかっただけなんです!

そんなつまんない女より、ワタシの方が絶対ロイド様に相応しいはずだから!」


「黙りなさい」


そう言ってドニ=バチストは

エミリーの両腕と口に拘束具をつけて黙らせた。


その様子をロイは冷ややかな目で見ていた。


「ララがつまらない女?自分の方が相応しい?

バカらしい。寝言は寝てから言え」


「…………」


ロイの冷たい視線を受け、

エミリーは意気消沈して項垂れた。


「俺の方がララに捨てられないように

 必死なのに……」


と、ロイがぽつりと呟いたのは

聞こえなかった事にした。



「……バチスト」


ロイはドニ=バチストの名を呼んだ。


「はい、なんでしょうか」


「今回のこの騒ぎ、一夫多妻制度の歪みが生じたものだと思わないか?」


「と、言いますと?」


「法律で定めた一夫一妻制には意味があるんだ。

複数人の男女では上手くいかないから、法的に一人の夫につき一人の妻と定めてるんじゃないのか?

それを無視して推し進めて、お前の言う理想はそういった不安定な足場の元に築かれようとしているんだぞ。

こんな事を続けながら出来た組織は、

いつか有事の際になんの意味も成さないただの烏合の衆になるだけかもしれないぞ」


ロイのその言葉を

ドニ=バチストは黙って聞いていた。


とち狂った扶養妻が本妻を誘拐し、殺害を企てる。


この制度自体の是非を問われる事になりそうだ。


そうなればいい。

いやそうなれ。



でも、さっきから気になっている事がある。


「ロイ……」


「何?ララ?どこか辛い?」


「いやわたしじゃない、ロイ、今炎の精霊(サラマンドル)を使役してる?」


炎の精霊(サラマンドル)を使うと

体が熱くなると、以前ロイから聞いた事があった。


「ううん?してないよ?」


そうか……してないのか……


じゃあこれは………



「ロイ!あなた熱があるんでしょう!?」


「へ?あ、そういえばそうだった。

あはは…どうりでしんどいわけだ……」


「きゃあ!?ロイっ!?」


「ガードナー卿っ!!」



ロイはわたしを抱えたまま、崩れ落ちた。


それでもわたしが床に体をぶつけないように

気遣っていたのがロイドらしかった。



ドニ=バチストの理想の騎士団が崩れ落ちる前に、

ロイドの方が先に崩れ落ちたようだ。



































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