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わたしに出来ること

わたし以外に次々と見つかった旦那の妻たち……


かつて下半身がユルユルだった

旦那の所業だと思っていたが

なんとびっくり、

第二王子が絡む組織ぐるみでの不正工作が

背後に潜んでいた。


これが物語のヒーローなら、


ババーンッと華麗に不正を暴いて

悪事を働いた奴らを血祭りにあげたりなんかして、

さらに奴らの罪を白日の元に晒して

ハッピーエンド!

という結末になるんだろうけど

わたしはただのしがない庶民……。


そんな事をやろうと暗躍する前に

王家の暗部にでも暗殺されてしまうのが

オチだろう。


でもわたしは基本、

自分で出来る範囲内で最善を尽くす……

というのをポリシーに生きてきた。


しかもわたしは結構ねちっこい。


今回、ロイドの副官とついでに第二王子殿下に

ささやかな復讐をすると決め、


親友のイザベラと

イザベラ姐さん馴染みのお客さまに

協力を仰ぎ、様々な嫌がらせをご用意した。

しかも年単位で続けるつもりだ。


そのための準備や謝礼、そしてある計画のために、

悪夢を見なくなる薬の特許料のほとんどを投入した。

足りない分はもちろんロイに出させるつもりだ。


一番大きな計画以外は

小出しに嫌がらせをしてゆくつもり。



でもドニ=バチストに最も効く復讐って

やっぱアレよね。


わたしは着々と

その時のために準備を重ねていた。




でもその前にまずは旦那のロイドと

これからの事を話し合わなきゃ、


よし、今日こそはと思った矢先……



「どうしてまた熱を出すかなぁ~ロイドくん」


「ご、ごめんねララ……」


「今日は色々と話し合いたかったのに……」


「いや俺なら大丈夫。

今からでもちゃんと話そうよ、というかちゃんと

話したい……」


「ダメ。熱が結構高いから寝てなくちゃ」


「でも……ララは全部知ってしまったんでしょ?

俺が隠して来た事もやってしまった事も……」


「まあね。ちゃんとロイの口から

聞きたかったけどねー……」


わたしはちょっと声色を低めて言ってやった。


「うっ……ご、ごめっ……」


「まぁこのまま無かった事には絶対に

しないから、

今は安心して寝てていいよロイドくん」


「うっ……わ、わかった……」


そういうとやはり熱が高いせいか

ロイはうつらうつらとし始めた。


そういえば過去2回とも

遠征から帰ってすぐにぶっ倒れていたな……。


かなり疲れが溜まってるんだろうか。


少し痩せたようにも見える。


一度医療魔術師に診せた方がいいかな……。


そんな事を考えながら

ぼんやりとロイの寝顔を見つめる。


その時、ふいに呟くようにロイが喋り出した。


「……最初の扶養妻の打診をされたのは…

アイツが死んで、泣き崩れるララを見た

直後だったんだ……」


「ロイ、眠ったんじゃなかったの?」


「小さな箱に入ったアイツを抱きしめながら泣く

ララがホントに悲しくて愛しくて……でもララと

夫婦になれるなんて思ってもみなかったし、

お腹に子を宿してるのに夫を亡くして困り果てているエル=ドナスがララと重なって見えて。

それで戸籍を貸すだけで助けられるならいいかな……

なんて軽い気持ちで引き受けてしまったんだ。

二人目の扶養妻もそうだった。

死んだ旦那は知ってるヤツだったし……」


「ロイ……ちゃんと寝ないと」


「でもララが空き巣の被害に遭って

やむを得ずでも俺の所に来てくれた。

ララとの暮らしが楽しくて、ますますララの事が

好きになっていったよ……。

でも俺の戸籍は既にややこしい事になってたし、

きっとララはそういうの嫌いだろうなと思ったから

ララを諦めなくちゃいけないのかと思うと辛かった。

その時丁度一人目も二人目も自立や再再婚で再出発が決まって……」


仰向けに寝ていたロイが

側臥位になってわたしの目を見つめた。


「これはチャンスだ、ララにプロポーズする

チャンスだと思ったよ……。

おかしいでしょ?まだ付き合ってもいなし、

想いが通じたわけでもないのにいきなりプロポーズ

を考えるなんて……

でもララを一生離すつもりはなかったから結婚しか

考えられなかった。

だけどララは俺の家を出て行こうとしているし……。かなり焦ったよ……」



ああ、

そういえばロイが何かに焦っているなと

感じていたっけ。

その直後にわたしもずっとロイを

想い続けていた事に気付いたんだった。



「大急ぎで一人目と二人目を戸籍から外して貰って、そして一大決心をしてララにプロポーズしたんだ」


「ロイ……」


「プロポーズを受けてくれた瞬間、

あの喜びだけは一生忘れられないよ。

もうララの事が好き過ぎて死にそうになった。

だからついそのまま押し倒しちゃったけど……

あの時はホントごめん……」


そうだったわね。

まさか初体験が応接間のソファーの上、

だなんて思いもしなかったわ。


まぁわたしも幸せだったからいいけど。


「……今思えば…今さら思っても遅いんだけど……

三度目の扶養妻を打診された時に騎士団を辞めれば良かった…でもララに兄貴の分まで頑張れと思って貰えてるのが嬉しくて、その立場を手放せなかった。バカだよね、結果それでララを失いそうになってる……」


そうだ。

わたしは確かに兄が死んでロイと再会してからは

兄の分まで頑張って欲しいと、

ロイに勝手な期待を寄せていた。

ロイは気付いていたんだ……。


「………っ」


わたしはその時、

唐突に不安に襲われた。

なぜ急に感じたのかはわからないけど、

この感情を知っている。

消失恐怖症、

久しぶりに襲われたこの耐え難い恐怖。


目の前のロイがなんだか急に

消えそうな感じがして、

わたしは堪らなくなった。


「もういいよロイ、とりあえずちゃんと寝て?

話しは元気になってからしよう」


「ララ……どんなに言葉を尽くしても

信じて貰えないような事をしたと自覚してる……

俺は本当にバカだ……隠せばいい、隠すしかないと

思い込んでた正真正銘のバカだ……。

でも、俺は本当にララだけだ。

ララしか要らない。愛してるんだ、

ララ……お願いだ……別れるなんて言わないで……」


「ロイっ……」



わたしは思った。



ここが分岐点だ。



今からわたしが提案する事をロイが頷くなら、

もう一度、ロイを信じる努力をしてみても

いいかもしれない。



「ロイ、わたしはこれから()()()してみようと

思っているの。

でもそれはロイに了承を得てからじゃないと

出来ない。だから選んで、ロイ……」







◇◇◇◇◇◇





「ホントに一人で行くのぉ~?

アタシも行くって言ってるのにぃ~」


イザベラがわたしのバッグを

振り回しながら言った。


「ちょっ……振り回すな、

親子二人で暮らしている所に話し合いに

行くだけだもの。

あなたを連れて行ったら相手を怖がらせちゃう。

脅迫に行くんじゃないもの」


「言うようになったじゃない、このブス。 

まぁいいわ。旦那の事はしっかり診といて

あげるから、頑張って来なさい」


「ありがとう、イザベラ。

でもその前に例のアレ、見に行くでしょ?」


「あったり前じゃないっ!!

ワクワクするわ~!!」


「ふふふ……」



わたしは()()()()のために

遠出をする事になった。


まだ本調子じゃないロイの面倒を

イザベラに頼み、

とある人の住む街へ行くのだ。


でもその前に……



今日は老朽化による建て替え工事が

行われていた王立図書館の

レセプションセレモニーに

第二王子殿下が出席されるのだ。


なんでも完成を記念したスピーチを

されるのだとか。


わたしとイザベラは

そのレセプションセレモニーを

ぜひ見届けなくてはと、

王立図書館へと向かった。


建て替えの終わった図書館は

まだ正式には開館していないので、

今日は関係者しか図書館には入れない。


でも幅広い層の国民が第二王子殿下の

有り難いお言葉が聞けるように、

スピーチは図書館前の広い庭園にて

行われるのだ。

当然誰もが参列出来る。


わたしとイザベラは

第二王子殿下がよく見える場所を陣取る事が出来た。



やがて大きな拍手と共に王子殿下が現れる。


〈あれが第二王子……〉


……中肉中背の生真面目そうな方だった。


拍手がやみ、王子殿下が話し始める。

図書館の歴史、

蔵書量の多さと貴重な本や文献が

保管されている事や、

改装に携わった様々なエピソードなどを

語られている。



……そろそろなんじゃないかしら。



わたしがそう思った次の瞬間、



ポンっ!!


と、まるでお芝居の使い古された演出のように

モクモクとした煙が第二王子を包み込む。


慌てる近衛や侍従たちが

第二王子の元へ駆けつけようとしたその時、

煙が鎮まり中から第二王子が現れた。


「殿下っ!………で、殿下……?」



ざわざわと民衆たちも異変に気付き、騒ぎ出す。


「え、何アレ!?」


誰かが驚きの声をあげる。


スピーチのために壇上に上がっていた

第二王子のその姿、

先ほどまでバッチリと着こなされていた

式典用の盛装ではなく……



レオパード柄が散りばめられられたショッキングピンクのジャケットに真っ紫のトラウザース。

ジャケットの袖口からはビッラビラの真っ黄色のレースが顔を覗かせている。

指にはデッカいイミテーションのゴテゴテのリングをはめ、

足元は白い踵の高いハイヒールだ。

髪型は紫のボリューミーな爆発パーマになっていた。


カンサイ州のおばさまでも

こんな格好はせんやろ~とツッコミを

入れたくなる、

超ド派手な悪趣味コーデに身を包んだ

王子殿下が群衆の前に姿を現した。



「わっ!わぁっ!?

な、なんだコレは!?どういう事だっ!?」


王子殿下は自分の姿に驚き慄き

パニックになっていた。


侍従たちが大きめの布で王子殿下を包み込み、

醜態(笑)を隠そうとてんやわんやしている。


「ぶっ!!わーはっはっはっはっ!!」


イザベラが堪らず大きな声で

笑出したのを皮切りに、

笑い声はあっという間に群衆全体に広がった。


王子殿下は何やら喚き声をあげながら、

侍従や近衛に連れられて退場して行った。


よっしゃっ!!


わたしは思わずガッツポーズをする。



散々お腹を抱えて笑った後、

イザベラがわたしに言った。


「最初、あんたからこの嫌がらせを聞いた時、

正直生温いと思ったのよ~でもコレ、 

かなり効果的な嫌がらせよね、

国民の前であんな姿を晒すなんて……

しかも今回だけで終わらないんでしょ?」


「『着てからある一定の時間が経てば、

ゴテゴテ悪趣味コーデになる魔術』を

施した芳香剤をイザベラ姐さんの馴染みの侍従さんに頼んで、第二王子殿下の衣装部屋に置いて貰ったのよ。

芳香剤なら怪しまれずに置いとけるからね。

その芳香剤が無くならない限り、これから王子殿下の衣装はいきなりあんな感じの衣装になるわ」


「ぶはっ!!哀れ~!!

威厳もなんも台無し~~!!」


侍従さんには謝礼をたっぷりお支払いしておいた。

これから定期的に芳香剤を置いて貰えるように

手配している。


……着替えを持参して着替えたとしても、

着てから一定の時間が経てば変化するからこれから大変ね。


それともう一つ、

『スピーチ中に急に甲高い声になる魔術』

を施した拡声器(マイク)の設置もお願いしている……。


ゴテゴテ悪趣味コーデを来た王子が

甲高い声でスピーチする、

早くその様子が見てみたい。


まぁあともう一つくらい、

何か嫌がらせを考えてもいいかも?




少し溜飲の下がったわたしは、


イザベラと別れて長距離馬車に乗る。



わたしはわたしに出来る事をする。


今までもそうやって来たし、


これからもそうやってゆく。




目指すはロイドの四番目の妻のいる街。


吉と出るか凶と出るか、



これからの人生を賭けた一手に

わたしは最善を尽くすつもりだ。





























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