お前は小説を書いているか?俺は書いてない
「ウワーッ創作がしたい!!!」布団の王は叫んだ。
布団の王は怠惰な人間であった。
課題を与えられなければ学ぶことをせず、その課題に対しても不平不満を言うような人間であった。
その癖、自信過剰で、自分は何か素晴らしいものを創り出せるのだと信じ込んでいた。少し前までは。
実際のところ、布団の王には何の才能も無かった。才能もなく、努力もできない。まさに無能であった。
ただ布団に横たわることしかできない、裸の王様がそこに居た。――俺はなんて愚かだったんだろう。
布団の王は思う。
俺は何も創り出せないし、何も生み出すことなど出来ない。それなのに、なぜこんなにも自分には才能があると勘違いをしていたのか。
自分の中には何も無いという事をもっと早く気づくべきだった。いや、気づいていたけど知らないふりをして生きていただけだった。
だが今となってはそのことにようやく気が付き、心の底から反省している。
後悔先に立たずとはこの事だ。
布団の王の頭の中には、今まで自分が作ってきた妄想の数々があった。
しかしそれらは所詮ただのお遊びに過ぎないものだったのだ。
例えば『勇者』の話だってそうだ。
世界を救う救世主であるはずの主人公が、いつの間にか魔王になってしまうストーリー。
主人公を裏切る仲間たち、そしてラスボスを倒すことで世界に平和が訪れるハッピーエンド。
そんなありきたりなお話。
でも、それはただの物語に過ぎなかった。
本当の意味での『勇者』とは程遠い存在なのだ。
世界を救うために戦う? 違う。本当に戦うべきなのは自分自身だろう。
誰かのために戦う? それも違う。自分以外の誰の為に戦おうと言うのか。
そうではなくて、自分の為に戦うべきだ。
そのために必要なのは自分の中の勇気であり、力だ。
布団の王は気づいた。
もう遅いかもしれないけれど、まだ間に合うはずだ。
だから布団の王は決意した。
自分のために生きることを。
布団の王が決意してから数日経ったある日のこと。
「ウワーッ創作がしたい!!!!」
またもや布団の王が叫び出した。
最近この奇行が多い。
それにしても今回はいつもより酷い。
最近は落ち着いていたと思ったのだが……。
「どうせあれだろ」
俺は呆れながら言った。
「課題が出されないからやる気が起きないってことだろ?」
「…………」
返事がない。図星らしい。
布団の王が課題に対して文句を言うことはよくあることだった。
しかしここまで来ると流石に面倒臭いぞ……!
「あーじゃあお前、小説書けよ」「えっ!?︎なんでそうなるんだよ!」
布団の王が驚いたように言う。
「いやお前、自分のためだけに生きようとしてたんじゃないのかよ……」
「うぐぅ……」
布団の王は言葉を詰まらせた。
自分で言っておいてなんだが、とても恥ずかしいことを口にしてしまったと思う。
「わかった書くよ……書きますよぉ〜」
布団の王が泣き言を言い始めた。
やはりコイツはダメな奴だ。
「俺の分も書いてくれよ?」
「えぇ〜めんどくさいぃ」
こうして、俺たちの共同執筆が始まった。
_________
「おいっ!ここはこうするべきだろ!」
「うるさぁい!!こっちの方が面白いじゃんか!!」
俺たちは毎日喧嘩してばかりだ。
お互いの言いたいことが全く理解できていない。
だけどそれでもいいと思っている。
他人を理解する必要は無いからだ。
自分の好きなように生きていけばそれで良いのだ。
布団の王が書く物語は、ありきたりなものばかりだった。
俺が書いた物語とは全く違い、主人公には明確な意思があって、仲間とともに困難を乗り越えていくという話だ。
正直、あまり面白くはない。
だが、これならきっと布団の王が満足できるものになるだろう。
何せ、これは"布団の王のための物語"なのだから。
それからしばらく経って、やっと完成した。
俺たちは出来上がった原稿を読み合った。
「なかなか面白かったんじゃないか?」「うん、そうだね……」
しかし、何故か二人の顔は暗い。
「おい、どうしたんだ?」
「…………」
布団の王が黙っている。
一体どうしたというのだろうか。
「僕たち、何も成長していないよね……」
その言葉にハッとした。
確かに、俺たちは何一つ変わっていない。
相変わらず、自分が何かを生み出すことなどできないし、自分は無能だと自覚している。
しかし、何故だろう。
今の自分には、かつて感じていた劣等感は殆ど無かった。
むしろ、晴れやかな気分だ。
「ああ、その通りだ。何も変わってはいない。しかし、だからこそこれから変わることができるんだ。進歩することができる。今度こそ、本当だ。だから、俺は今から始めることにするよ。」
「何を?」布団の王が聞いた。
「自分探しの旅をだよ。」
俺は布団の王にそう告げた。
布団の王は、少し寂しそうな顔をしていたが、すぐに笑顔になって言った。
「そっか、頑張ってね」
俺は立ち上がる。
そして部屋を出た。
ドアの外には、何もなかった。
「行くのか?」「ああ」
短い会話だった。
「気をつけてな」
「ありがとう」
そして俺は歩き出す。
自分を見つけるために。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
ドアが閉じられ、その瞬間、「俺」は消滅した。
「俺」は自閉した布団の王が生成した副人格だ。
故に布団の王の認識下においてしか存在を保つことはできないのだ。
これで生成消滅した人格は23人目、今日も布団の王は脳内で孤独な一人遊びを続けている。さようなら、俺。
こんにちは、新しい「俺」。
【あとがき】
皆さん初めまして。
私は「カクヨム」というサイトで活動している作者の「大月 満」といいます。
この小説を読んでくださった皆様、本当に感謝しております! この小説を書くに至った経緯について説明させていただきますと、まず初めにこの小説の主人公(?)である「布団の王」ですが、彼は元々は私自身でした。
しかしある時を境に、彼の人格は完全に分裂してしまいました。
最初はただの二重人格でしたが、だんだんと増えていき、今では23人になってしまいました。
そこで、この小説は、分裂したそれぞれの「王」たちの物語となっています。
ちなみに、最後の主人公のセリフは、私が考えたものです。
それではまたどこかで
「大月 満」、誰?