周知
門を通る際に軽く揉みくちゃにされ、道すがら掛けられる声に軽く返しながら、慣れ親しんだ建物に辿り着く。
そのままいつものように扉を開けて足を踏み入れると騒がしかった室内が静まり返った。
え、なんか不味い時?
突然の静寂に驚き一瞬足を止めるが、戸惑うような雰囲気に問題は無いらしいと判断し歩みを進めた。
「ヴェルデだ。」
「ヴェルデが帰ってきた!」
静まり返っていた連中が、俺を認識した途端にわらわらと集まってきて、再び揉みくちゃにされる。
なんだか皆高揚しているようで、普段なら静観したり、素通りしているような連中までが俺を取り囲んで帰還を喜ぶ声を掛けてくれる。
いや、本当に皆どうした!?
俺、一応ゼーンの遊び相手をしてたことになってるんだよな?
ここまで歓迎されるような事は無いと思うんだが…。
「漸く帰ってきたか。」
少し離れたところから落ち着いた声が掛かる。
視線を向けるとリェフが食事処からこちらに来るところだった。
鋭く睨み付けるような眼差しで、額から左頬にかけた傷がやたら見た目の迫力を上乗せしているが、何だかんだと面倒見の良い上級者だ。
「なんだ、見た目に変化は無いんだな。」
「は? 見た目?」
思いもしない言葉に、訝しげな返事をしてしまう。
「お前、覚醒したんだろ? それも竜のだって? 昔から思ってたが、お前ほんと予想外を地で行く奴だよな。」
そう言って口角を上げた。
「なんでその事…!?」
思わずジェミオとアルミーを振り帰る。
「俺達じゃないぞ。」
「話したのはギルド長への報告と、詳細を聞くのに食い下がったフィオだけだ。」
二人が苦笑しながらそう言って一緒にいた幼馴染みへと視線を向けた。
どうやら俺の覚醒の事を広めたのはこの幼馴染みらしい。まったく、人の事を勝手に。
「フィオっ!」
「なんだよ。竜の力が覚醒したんなら、強化されたのもちょっとやそっとじゃないだろ? 黙ってていきなり強くなった力を見せられたらヴェル絶対に周囲に引かれるぞ。だったら最初から知っててもらった方が余計な面倒が無くて良いだろ。」
抗議を込めてフィオの名を呼ぶと、真顔でそう告げてくる。
確かに、フィオの言うことには一理ある。
今は覚醒前の魔力量に近い状態まで押さえているし、あんな破壊の力を使うことなんてそう無いだろうが…。
『絶対なんて無いんだよ!!』
昔聞いたフィオの声が甦る。
そう、絶対なんてないんだろう。
実際にこの数日で普通なら無いだろう出来事に遭遇しまくったのだから。
でもなあ、俺に相談もなくっていうのはどうなんだ。
「だからって俺に断りもなく…」
「大体、最初から隠す気なんか無いんだから問題ないだろ。そのうえどうせヴェルの事だから、話す機会がとか言って先延ばしするだろうし。」
尚も抗議の言葉を紡ごうとする俺に、フィオがしてやったりと笑みをこぼす。
「いや、確かに隠す気は無かったが、先延ばしにする気も無かったぞ。」
「じゃあ、いつ話すつもりだったんだよ?」
なんとなく悔しくて否定してみたが、何時と聞かれても具体的に浮かばない。
個人の事なんて大々的に発表するような事でもないだろうし。
かといって、人に会う度に「俺、竜の血に覚醒したんだ。」なんておかしくなったと思われるだろ。
「…そのうち?」
「……はぁ。これだから。」
俺の返事を聞いたフィオは呆れた溜め息を吐いた。
明けましておめでとうございます。
昨年は当作品にお付き合いいただきましてありがとうございました。
更新リズムが少々乱れておりますが、引き続きお付き合いいただければ幸いです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。




