暴露
"ふむ、どうやら寝過ごさなかったようだな。"
唐突に爺さんの声が脳裏に響く。
「だから大丈夫だって言ったろ。」
そう答えながら爺さんがいるだろう方向へ首を回す。
その向いた視線の先にあったのは首をもたげた巨大な竜の顔だった。
「おはようございます。トニトルス殿。」
「おはようございます。」
「ああ、おはよう。良い朝だ。」
爺さんの念話はジェミオ達にも聞こえていたらしく、互いに挨拶を交わしていた。
「…………。」
"どうした、そんな複雑そうな顔をして。"
竜の顔を見上げたまま沈黙する俺に、爺さんが聞いた。
ジェミオとアルミーの視線がこちらに向いたのを感じる。
「……いや、何でもない。」
そう答えながらも、俺の視線は竜の姿に釘付けになっていた。自覚は無いが、爺さんの言う通りの表情を浮かべていたのだろう。
実際に一言では片付かない思いを抱いていた。
司祭様やリュネさんから昔語りで聞いた存在。力と魔力と知性と生命力の全てを身に宿すこの世界の最強の種族。
時に知恵者、導者、裁定者、守護者、そして破壊者として語られていた。
その中でも最も強く、誇り高く、慈悲深いと言われたかの竜王。
昔、フィオと話した。いつか世界を旅することがあれば、その旅で竜に出会うことが出来たなら、友誼を結びたいと。
そんな憧れが目の前に存在する感動と、脳裏に浮かぶ精神世界で共に過ごした爺さんの姿。
憧れた英雄の正体が、実は馴染みの親父さんだったみたいな、嬉しいような残念なような、なんとも言い難い心境だった。
"あはは、ヴェルデ、嬉しいのに困ってる!"
「なっ、ゼーン! そんな事言わなくてもいいって!」
ゼーンに内心を暴露され、慌てて止めようとするが無駄だった。
「嬉しいのに困ってる? どういう意味だ?」
ゼーンの念話はしっかりと周りに聞こえていたらしく、ジェミオが不思議そうな顔をする。
「っ、大した事じゃないから気にしなくていい。」
"そうか、そうか。私に会えたのが嬉しかったか。"
話を無理矢理終わらせようとしたところで、爺さんがからからと笑いながら言った。
「っ、爺さんの事だなんて言ってないだろ!」
「ん? ヴェルデは血縁者に会えて嬉しくないのか?」
気恥ずかしさを誤魔化そうと声をあげると、アルミーが聞いてくる。
「っ、いやっ、別にそんなことは…。」
「俺達は良かったと喜んでたんだが、お前は違うのか?」
返事に詰まると、今度はジェミオが心配げな声音で言う。
"助命の為とはいえ、其方には悪いことをした。"
いつの間に来たのか、ゼーンの親父さんまでがそう言い募った。
爺さんと会わせたことが悪かったかのような話の流れに、申し訳なさを覚えた俺はまくし立てるように言った。
「っ、だからそうじゃないって! 爺さんに会えて嬉しかったし、憧れてた竜に会えて感動したんだ! でも、それが自分の身内だと思うとなんか気恥ずかしくて…って、あ…。」
気がついた時には自ら思いの全てを口にしていた。
うわぁぁ、何言っちゃってんの俺!!
お付き合いいただき、ありがとうございました。




