眠り
「すまんな。ありがとう。」
頼みを承諾する返事を聞いた爺さんがそう言って頭を下げた。
「まあ、何時になるか分かんないけどな。」
「ああ、ついででも、気が向いた時でも構わんさ。」
俺が何となく気恥ずかしさを覚え、明後日に視線を向けてぽつりと返すと、爺さんは嬉しそうに目を細めそう言った。
爺さんと婆様には命を助けられたんだ、約束は必ず果たすよ。
俺は口にしなかった誓いを胸に刻んだ。
そして互いに少しの間沈黙していると爺さんが口を開いた。
「もう身体と魔力も十分馴染んだだろう。鍛練も一先ず終えたのだ、少し深く眠って休むがいい。そうすれば一晩寝た程度の時間で起きられるだろう。」
そう言われて時間の流れを意識する。
「あ、そう言えば現実ではどのくらい経ったんだっけ?」
「お前が私の元に来て四日。庇護者の二人、ジェミオ殿とアルミー殿が町へ報告に戻った日から三日程だ。」
俺の疑問に爺さんが回答をくれる。
「あの地獄の様な日々の出来事が実際には四日か…長かったのに短かったなんて変な気分だ。」
極力鍛練の事は思い出さないようにしながら、口にする。
「もしお前が望むならまた鍛えてやるが、先ずはお前を案じている者達に、目覚めた姿を見せて安心させてやるがいい。」
爺さんが俺の頭に手を起きながらそう言った。
「そうだな。散々心配と迷惑かけたんだ。頭下げて謝って……」
そこまで口にしたところでジェミオとアルミーの言葉を思い出す。
『逆の立場だったらどうした?』
『マルゴの町やギルドの連中は、お前を教え育てた家族みたいなもんだろ。もっと周りを信じて頼れ。』
『ヴェルデの無茶をみんなが心配しているって解ったならそれでいいさ。』
そうだ、皆謝罪なんて望んでない。
「どうした。何かあったか?」
不意に言葉を途切れさせた俺を爺さんが訝しげに見る。
「いや、またやらかすとこだったなと思って。…起きたら皆に礼を言うよ。」
「…そうか。良い縁に恵まれたな。」
俺の返事を聞いた爺さんが全てを理解したのか、俺の頭に載せた手でくしゃくしゃと撫でた。気恥ずかしさと共にくすぐったさを感じる。
「ああ。本当に。」
本当に俺の周りは優しい人達ばかりだよ。
いい加減待たせっぱなしは不味いよな。
俺も早く皆に会いたいし。
「爺さん、俺とっとと寝るわ。起きたらまた話し相手してやるよ。」
そう言って俺は仰向けに寝転ぶ。
「そうだな。うっかり寝坊なんぞするなよ。」
爺さんが穏やかに笑って言った。
「身体の方は散々寝てたんだ。大丈夫だろ。んじゃ、おやすみ。」
そう答えて目を閉じると、差程の間を置かずに俺の意識は眠りへと沈んだ。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




