形見
俺の否定に対し爺さんは首を振った。
「定義とは物事を判断するため誰もが解るように示した特徴や条件であって絶対ではない。得てして強い想いは定義や常識を覆すものだ。」
そう言うと爺さんの眼差しに呆れが混じる。
「それは魔法という力を行使する者であれば肌身に染みておるだろうに。存外お前の思考は固いなぁ。」
「…。」
言われて普段はもう少しましだとか、色々と言いたいことは浮かんだが、このところ立て続けにやらかした自覚もあって沈黙した。
「そんな顔をするのは自覚があってなによりだ。まあ、これから経験を重ねれば幾分かましにはなるだろう。では、本来の話しに戻すぞ。」
俺がどんな表情をしていたというのか、爺さんはひとつ頷くと剣について再び話し出した。
「お前の持つ剣に使われた竜骨は、私の妻のものだ。」
「!!」
「妻が生前、呪いを受けるよりも前に懇意にしていたドワーフの鍛冶師に頼み、死後に託した骨が使われている。」
俺は白銀の輝きを持つ剣を脳裏に浮かべる。
あの剣に使われた竜骨が爺さんの妻のものってことは…
「…婆様の…。」
「そうだ。本来ならば娘を通じて孫に送られるはずだった守護剣だ。妻は愛する娘や孫を守りたいと強い思いを抱いていた。そしてその想いを知る鍛冶師が鍛えた剣は守護の力を持つ魔器でありながら、『守りたい』という想いの宿る魔剣となった。」
精神の暗闇の中で俺とゼーンを包んでくれた暖かな光を思い出す。
「かの国に届けられたはずの剣が、どのような経緯があってお前の手に渡ることになったのかは判らんが、これも星の導きなのだろう。」
爺さんと視線を交わすと、穏やかな表情をしていた。
「ヴェルデ、無理にとは言わんが、叶うならその剣と共に娘の墓前を訪って欲しい。」
婆様と娘を会わせてやりたいのか。
あと、血族の生き残りである俺も。
はっきり言えばいいのに、爺さんも大概素直じゃないなぁ。
「解った。ゼーンと世界を見て回るって約束してるんだ。何時とは言えないけど必ず行くよ。」
俺は口の端を上げてそう答えた。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




