頼みごと
「ふむ、紛れとはいえ一当ては一当て。この程度の制御が出来ておればそう暴走することもあるまい。」
「…っ、…終わった…。」
爺さんの口から出た終了の言葉に、態勢を整えようと片膝をついた状態から地面へと転がった。
呼吸を整えつつ、擦り傷、切り傷、火傷に打撲、満身創痍となっていた全身に『治癒』を掛ける。
何だかんだと扱かれているうちに、魔力制御だけでなく、剣や体の捌き方まで叩き込まれた。
爺さんの攻撃が、常に俺のぎりぎりの一つ二つ先の強さと早さで繰り出されるのを、捌き、凌ぐために必然として身に付いたというのが正直なところだ。
だがお陰で種族的なことを除いても、技術面で格段に強くなったという実感がある。
伊達に竜王や長生きをしてる訳じゃなかったと尊敬の念を抱いたが、また揶揄われるのがおちなので黙っていた。
◇ ◇ ◇
俺は『治癒』を終えた後も転がったままでいた。別に何か問題がある訳ではなく、ただ面倒くさかっただけだ。
このところ転がっていたときは何らかで気絶しては目を覚ます、という状況しかなかったので、回復を待つ間とはいえ自分の意思で転がっていることに妙な満足感を覚えていた。
「少し話しに付き合わんか? 座って話しをする程度には回復しているだろう?」
黙って俺の回復を待っていた爺さんがそう言って俺の前に腰を下ろした。
俺は起き上がり座って爺さんを見る。
「ヴェルデ、お前に一つ頼みたいことがある。」
「何だよ、改まって。」
穏やかな表情をした爺さんの言葉に、俺は訝しげな表情を浮かべた。
「もし、お前が自由な旅に出ることがあったら、あの剣を持って、私の変わりに娘の墓前を訪ってもらいたい」
「どういうことだ?」
「私の娘は七百年ほど前に人族の王家へと嫁いだ。そして邪神に憑かれた魔王と魔族の侵攻の際に、娘は国と人族を、妻は娘を守ろうとして命を落とした。私は二人を失った悲しみと怒りから魔王を滅ぼし、一族を捨てこの地へ隠遁した。妻の亡骸はこの地で眠っているが、娘は人族の手によって王家の墓へと埋葬されたらしい。」
爺さんは感情の色を見せずに、淡々と話しを続けた。
「どうして、行くかどうかも分からない俺なんかに頼むんだよ? 爺さんが自分で行くべきだろう?」
「それが出来ればお前に頼んだりせん。」
そう問うと困った表情を浮かべた。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




