side リュネ
最近、ガルブの森の方から強い脈動を感じる。
だが、脈動自体に危険や不穏な感じはしないから、どうするか迷うところだね。
先日みた夢でも、濃い霧の中で男が森の奥に向かって歩みを進めている姿が見えただけで、はっきりしたことは何も解らなかった。
アタシの夢見は昔から色々なものを見せるが、勝手に見せても肝心なことは教えてこない。
本当に面倒な能力だよ。
そんなことを考えながら、店を開けていつものようにカウンターで微睡んでいると、二階から居候が下りてきた。
この子には珍しく、鐘の後に起きたらしいね。
◇ ◇ ◇
「それ以上は覚悟してから考えなよ、ヴェル坊。」
「…あ、はい。なんでもないです。リュネさんは今日もお綺麗だなと。」
挨拶したあと、余計なことに思考が流れたらしい様子に釘を刺すと、慌てて誤魔化してきた。
「まあ、誤魔化されてあげるよ。」
そう言うと、ホッとした顔を見せたかと思えば、何やら複雑そうな顔をして、どうせ人のことを勘が良すぎるだとか考えているんだろうよ。
「付き合いの長い連中なら、あんたの考えることなんてお見通しさ。」
アタシの言葉にがっくりと項垂れる様子は、小さな頃から変わらないねえ。
しょうのない子だよ。
「ところで今日はどうするんだい。」
「今日は休養日だよ。それに昨日大物を仕留めた時に剣が折れたから、ちょっと見繕ってくるよ。」
話を変えて訊いてやると、昨日折れた剣の代わりを探すと言う。
「…ふうん、そうかい。剣がね…。」
この子は剣の腕も人並み以上だし、そう折れたりなんてしないはずなんだけどね。
この状況での出来事と言うなら、今回の件にはこの子が関わってくるのかも知れないね。
そこまで考えたところで、漠然とした感覚だったものが、確たるものに変わった。
どうやらこの子が関わるのは間違いない、と言うより件の中心になるんだろう。
いくら不穏なものでは無いといえ、感じる脈動はとんでもない強さだ。簡単には行かないだろうね。
「ヴェル坊、剣を買うなら今手に入れられる最上の物を選びな。」
店を出ようとする背中に告げると、振り返って真っ直ぐな眼差しでアタシを見てくる。
大事なときには絶対に相手から目を逸らさないのも昔から変わらない。
「分かったよ。ありがとう、リュネさん。」
僅かな間を置いて、あの子は礼を言うと出ていった。
あの子に精霊と星の加護がありますように。
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い致します。
新しい年を向かえてもまだまだ落ち着きませんが、頑張って乗りきりましょう。
感染予防で窮屈な日々のなかで、この小説が少しでも息抜きになれば幸いです。




