余裕
そう、俺はギルド長から依頼を受けて、異変の調査に来たんだよ。ゼーンの親父さんに会ってやっと原因が竜の魔力だって判ったところだったのに、突然血の覚醒が始まったせいで俺は勿論、ジェミオやアルミーまで足止めされて…。
って、竜の魔力!?
「そうだ! 森に広がった魔力の持ち主って!」
「ああ、私の魔力だったようだな。」
こっちは大暴走を回避したいと必死なのに他人事のように返す竜の様子に先程までとは別の苛立ちが湧いた。
「他人事みたいに言うな!!」
声を荒げた瞬間、制御していた魔力が怒りに煽られるように漏れ出す。そしてその事を理解していながらも、感情の昂りに任せ言葉を吐き出した。
「その魔力のせいで大暴走が起きるかもしれないんだぞ!! 大暴走なんて竜や銀狼にとっちゃ大事でも何でも無いんだろうさ。でも俺達や町の皆にとっては死の宣告にも等しいんだよ!! なのにその発端になりかねないことやっときながら、無責任な態度取ってるんじゃねえよ!!」
「!、…。」
言い放って振り上げた拳を、竜は避けなかった。
力一杯殴ったにも関わらず、たたらを踏むでもなく、傷らしいものも無い顔をこちらに向け、竜は言った。
「確かに此度の危機を呼んだのは私の落ち度だ。ましては事態の収拾すら自身ではなにもしておらん。」
「殴られたのは謝罪のつもりかよ。」
俺が睨み付けるように言うと、静かな眼差しをした竜は言葉を続けた。
「謝罪の思いが無いとは言わんが、避けなかったのは事態を収めたお前への礼だ。」
「俺が事態を収めた? 一体どう言うことだよ?」
言われた内容に心当たりはなく、何の事かと聞く。
「お前が意識を失くしている最中に、お前の持つ剣がその身に宿る守護の力で、森に広がった魔力を大地へと還したのだ。」
「…そうか、あの剣が…。やっぱりとんでもない代物だったな。」
脳裏に漆黒の鞘に包まれた、白銀の剣が浮かぶ。
意識の無い状態で起こった事など、心当たりなどある訳が無かった。
そしてもたらされた話の中で考えるべき事は別にある。
「…剣が魔力を大地に還し事態を収めたって言ったよな。ということは大暴走の危険は無くなった、そう理解して良いんだよな?」
「そうだ。」
念を押すように確認すると、はっきりとした肯定が返ってきた。
危機が回避出来たことに、じわじわと全身に安堵が広がる。そして落ち着いて考えられるようになったことに気づく。
前にジェミオとアルミーに言われたばかりだというのに、俺はまた周りを気にする余裕を無くしていたらしい。それどころか、苛立ちのままに殴ってしまった。二人が知ったら呆れるだろうな…。
俺は若干の気まずさを感じながら、竜へと頭を下げた。
「さっきは殴ってごめ、っ、すみません。」
ふっ、と対面の竜から吹き出すような声が漏れた。
「普段の話し方で構わんよ。そして謝罪もいらん。言っただろう、あれを受けたのは礼だと。」
俺は頭を上げると、竜の瞳を見て礼を言った。
「わかった。こちらこそありがとう。あと頼みたいことがあるんだ。いいかな?」
「なんだ?」
竜は俺の改まった物言いに、怪訝そうな顔をした。
「今の現実での状況を教えて欲しい。」
俺はそう望みを告げた。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
気が付けば10,000PVを超えていて、感謝しかありません。
本当にありがとうございます。
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