鍛練
竜が魔法を唱う。
動く魔力の的を作り出す魔法だ。
血が記憶しているのか、唱われた意味が理解できる。
「この的は不規則に動く。お前の魔力を的の中央に当てれば消える。但し、中央以外に当てても的は消えぬし、消さずにいればお前を追いかけ回すようになる。それでも消さずにいれば、ほれ。」
竜が指を振ると的の一つがこちらへ飛んでくる。そして俺の手に触れた途端、弾けて小さな雷の華を咲かせた。
「痛っっ!!」
雷に打たれた指先がびりびりと痛む。
「的に触れれば雷に打たれる。火傷をすることは無いが、続けて打たれれば痺れて動きに支障が出るから気を付けることだ。」
淡々と説明していた竜が、今度はゼーンに語り掛ける。
「銀狼の幼子よ。此奴の命はもう大丈夫だ。銀狼殿も心配している。だから自分の身体に戻り、しっかり休むがいい。」
「でも…」
「ゼーン、俺なら大丈夫だ。直ぐに魔力を制御して戻るからさ。だから先に戻って親父さんやジェミオ達に大丈夫だって伝えておいてくれよ。」
逡巡するゼーンに俺は言伝てという形で背中を押す。
「そうしてくれ。でなければ此奴は其方に甘えてしまうかも知れんのでな。」
「っな、そんなわけないだろ!」
「先程までこの幼子に散々情けない姿を見せておいてよく言えたものだ。」
「っ、それは…今度のは状況が違うだろ!」
にやりと笑って言う竜の様子に苛っとした俺は反論をするが、色々と情けないところを見せたのもまた事実で。
だがそんなやり取りを見たゼーンは腕の中で小さく笑うと言った。
「分かった。じゃあオレは先に戻って皆に助かったことと、起きるまでもう少し掛かるって伝えとくね。」
ゼーンの身体を両手で抱え上げて、互いの額をこつんと合わせる。
「ああ、頼むな相棒。」
「うん。まかせといて!」
俺の抱えた手の中からゼーンの姿が溶けるように消えた。
俺は竜に向き直る。
竜は真剣な眼差しで俺を見据えると、思わず身体が強張るような威厳のある声で言った。
「お前の無事を望む者がいる。お前の帰りを待つ者がいる。戻ると約束した者がいる。後は全てお前次第。幼子への言葉が大見得にならんようにな。それに…」
一旦言葉を切り、口の端を上げて嗤った。
「まあ、この程度の事が出来んようでは、自身の魔力を持て余すばかり。竜王の血族としては恥ずかしくて世に出せたものではないがな。」
この竜が度々顕す小馬鹿にした様な態度に何度目かの苛立ちを覚えた俺は感情のままに言葉を返す。
「何が血族として恥ずかしいだ! 直ぐ慣れるに決まってるだろ! 俺は俺として皆と生きてくためにこの魔力をものにするんだ!」
「ならば、その魔力の細に渡り操って見せろ。」
竜のその言葉と共に、魔力の的が一斉に動き出した。
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