変化の上書き
待ち侘びた変化にあと押しされ、全力で巡らせた魔力は先程までの抵抗は何だったのかと思う程、すんなりと身体全体へと行き渡り馴染んだ。
「っ、はあ…。」
精神的疲労が半端ない。俺はへたり込むと、大きく息を吐いた。
肩から飛び降りたゼーンが尻尾を大きく振りながら飛び付いてくる。
「やったね! さすがヴェルデ!」
「ははっ、とりあえず一山は越えたな。でもゼーン、これからもう一山あるらしい。」
「えっ、どういうこと?」
喜びに水を差した俺に、ゼーンが不思議そうに訊いてくる。
「今度は湧き上がる魔力が止まんないみたいだ。」
そう言って右腕を見せた。
「!! これって…」
腕を見たゼーンが言葉を失くす。
何故なら俺の右腕の手首から二の腕にかけて緑色の鱗に覆われていたからだ。痛み等は何も無いが、徐々に鱗の範囲が広がっていく。
先程湧き上がった魔力は、身体に力を注いだものだったのだろう。
変化に耐えられなくなっていた身体を補強するために与えられた何かは、本来の目的以上の力を上乗せし、身体の変化自体を上書きしようとしているのかも知れない。
このままじゃ俺は俺でいられなくなる。
確たる予感があった。
湧き上がり続ける魔力と共に、精神に何かがじわじわと染み込んでいくような感覚が、警鐘を鳴らす。
「ゼーン、もうひと頑張りするから、今度は少し離れててくれ。」
「…分かった。でもなにか手伝えるなら言ってよ。」
今度は身体の制御が必要だと理解したゼーンは、心配そうな瞳をして渋々と距離をとった。
「ったく振り子じゃあるまいし、次から次へと…本当に知らないうちに星の気に障ったか? でも折角命を繋いだんだ。このまま目が覚めないのは御免だ。」
そう溢しつつ、鱗の無い左手で胸元を掴み身体の制御をするために集中する。
だが湧き上がり続ける元を御するのもまた難しい。噴き出す間欠泉を塞いで止めようとするようなものだからだ。
しかし制御しようという思いが抵抗となるのか、先程まで徐々に広がっていた鱗が右腕から右耳のあたりで止まっていた。
どうすればいい?
鱗は止まっていても、精神の汚染は止まらない。少しずつ大きくなる自分とは異なる感情。それが俺の存在を危うくするものなのだと本能で理解する。
「やれやれ、未熟どころか、孵ったばかりの赤子並みか。」
思考に沈み込もうとする俺の耳に、聞き覚えのない声が聞こえた。
「え、誰?」
声のした方を見ると、黒い騎士服に白い外套を纏った壮年の男がいた。
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