side アルサド
12/31 薬草名の表記を変更しました。
帰ってきた冒険者達からの収穫物の買取作業も大方終わった。
今日は樹木鹿が丘の方に出たらしく、運良く仕留めた連中が、酒を飲んで盛り上がっている声がここまで聞こえている。
樹木鹿はガルブの森に住んでいて、森から離れた場所で見かけることは滅多にない。
蹴りや噛みつき、角での攻撃の他、魔法で植物を操るから、森であれば仕留めるのに苦労しただろう。
だが丘でならそこそこの魔法が使える仲間がいれば、比較的楽に仕留められるのだから、連中は確かに運が良かった。
そろそろ若手に任せてあがろうかと思うが、今日はまだ顔を出していない冒険者がいる。朝方、何かしらの依頼を受けていたのは間違いなく、いつもなら日が傾き始める頃には戻ってくるんだが。
とはいえ、あいつが簡単にどうにかなるとは思っちゃいない。
あいつはランクこそCだが、未成年の頃から狩りだ採取だと町の外に出ていたうえに、見習いになってからはいろんな専門家に頭を下げて師事していたお陰で、上位の冒険者に引けをとらない知識と技術を持っている。そのうえ剣の腕も良く、魔法も使える。
元ランクAの冒険者だった俺でも知らないような細かな部分まで気をつかい、受けた依頼は常に最上に近い成果でこなすやつだ、いつもより少し遅くなっているくらいでは心配するだけ無駄だ。
何かしらトラブルがあったんだろう。
そんなことを考えているうちに、そいつが戻ってきたのでこちらから声をかけた。
「よう、ヴェルデ。今日は遅かったな。」
森で猪に遭遇したという話を聞きながら、出された物を確認すると、回復薬の材料になる蕺草に、毒消薬になる瘡王草、飲み薬に使う疼取草、軟膏に使う黄烏瓜の実で、薬草は根までしっかりと付いており、どれも傷みの無い最上の状態のものだ。
本当にいい目と腕をしている。
それに猪程度ならこいつにとっちゃ然したる相手でもない。
「ほう、蕺草に瘡王草、疼取草に黄烏瓜の実か。相変わらず状態がいいな。それにしても猪と遭遇なんて、そいつは災難だったって言うとこだが……お前以外のランクCのならな。」
そう誉めそやすと、満更でもない顔をしてかなりの大物だと告げてくる。
ヴェルデが査定結果を腕輪に記録した後、取り出した大猪を見て、俺はその予想外の大きさに驚いた。こんな大きさの大猪なんて森の中域より奥へでも行かなければお目にかかるもんじゃない。
ガルブの森は広く深い。奥へ行くほど大型で危険な魔物が増えてくる。実際、ランクBでもパーティーを組まなければ、中域には入らない。これは一言釘を刺しておいた方がいいだろう。
「こいつぁ、でかいな。三百トラムはあるんじゃないか? お前、いくら腕があるって言っても、あんまり奥まで独りで行くなよ。」
「いや、奥には行ってないよ。いつもどおり外縁で採取してたら大猪が突っ込んできた。」
俺が苦言を呈すと、ヴェルデは森の奥ではなく、外縁で遭遇したと言う。樹木鹿といい、この大猪といい、森の奥で何かあったか? 念のためギルド長に報告しておくか。
それにしても、遭遇したのがヴェルデで良かった。他のランクCじゃ、あっという間に殺られてただろう。ランクBのやつでも相性が悪ければ危なかったかもしれん。
「…そうか。これ程の大物だったとは。遭遇したのがお前で良かったと言うべきか。それで大猪はどうする?」
大猪の買取りをどうするか聞けば、魔石以外はいつも通りギルドに売るという。
空腹を訴えるヴェルデに任せておけと告げると、やつは早々に受付へ向かった。
さあ、帰りかけている若手を捕まえて大猪の解体を進めるよう指示して、ギルド長に報告に行くか。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




