side トニトルス 2
“この者は貴殿等にとってそれほどまでに大切な存在か?”
命が助かったと理解した人族達が心から安堵する様子に思わず問いかけていた。すると彼らは気を持ち直し、感謝を述べる。そして眠る血族の者を家族同然の大切な義弟だと呼んだ。
"そうか…。"
永き時を経た現在に、我が血を継ぐ者と邂逅した事と、その者が慈しみ庇護されていることに喜びを思うと共に、失くした者達を追想する。
“ジェミオ殿、アルミー殿、私こそ貴殿等に礼を言う。我が名はトニトルス。我が血族の者を慈しみ、助けていただき感謝する。”
そう告げると、庇護者である二人は驚嘆する。そうした最中、銀狼が自責の念に駆られ謝罪を口にした。
庇護者の二人は義弟の命が危険に晒された原因と、得た助力の間で謝罪を受け入れるか否かに迷い沈黙していた。
だが原因ではないのだ。
血族の者の目覚めは以前より始まっていた。
そして既に覚醒のきっかけとなる剣をその手にしていたのだ。
“この者がその剣を手にした時より、血の目覚めはそう遠くないうちに訪れた。また剣と逢わずとも、命が危険に晒されたその時に血は目覚めただろう。それ程にこの者に流れる竜の血は濃い。”
そう告げると、庇護者はいずれにせよ義弟の命が危険に晒される運命に憤りを見せた。
本当に我が血族の者は大切にされている。
私は庇護者と銀狼に、この邂逅は幸運であったのだと話した。
そして今回の覚醒が稀な事であると告げていると、血族の者の右耳の下辺りから右腕の肘までに淡い緑色の鱗が現れていた。
再び動揺する庇護者達に、竜の血を飲ませ身体を強化した一時的な影響だと説明すると、揚々落ち着いた。
そうして気がつけば空が黄昏に染まっていた。通常であれば辺りが暗くなると精霊達が淡い光を纏い飛び交うのだが、今は精霊達が気を利かせて明るさを保っていたらしい。
庇護者達にこのままこの場所で休むよう勧めていると、銀狼は奥方が心配なので一度戻ってくると言うので、子狼の事は心配いらぬと送り出した。
何の事か分からぬ庇護者達に銀狼の奥方の体調が思わしくないことを話すと、銀狼達が居着くかどうかを気にし始めた。
“ふむ。そういえば、このような状況になった経緯を聞いていなかったな。貴殿等、聞かせてくれんか?”
「我々の本来の目的はこの森で起きていた異変の調査です。」
そうして庇護者達は事の始まりである森の出来事からここに至るまでを話し出した。
話しを聞きながら、眠る血族の者の様子を視るが、右半身に変わらず鱗が現れたままでいる。
先程は庇護者達を落ち着かせるために一時的なものだと告げたのは嘘ではない。だが本当のところは良くない兆候だ。
本来ならば魔力と共に制御するはずの身体の変化が押さえきれていない。このまま制御が出来ない状態が続けば、精神が消耗し、魔力ないし血の力に呑み込まれ一生を眠り続けることになる。
少々視に行った方がいいだろう。
庇護者達の話しが終わったところで切り上げることにする。
“そうであったか。ふむ、原因とその対策については明日銀狼殿も交えて話した方がいいだろう。貴殿達も疲労しているだろう。今日はもう休むがいい。ここは差程冷えぬが、火をおこすなり自由にしてもらって構わぬ。ああ、もてなしは出来ぬが寝床くらいは用意しよう。……、……、…。”
二つの魔法を詠い、少し離れた場所に蔓草伸ばし広めの床を編み上げると、庇護者達に断りを入れ意識を落とした。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




