side トニトルス1
私がこの場所に留まってから幾百年の時が流れた。この場所を守る結界の中、微睡み、時折精霊達の話しを聞き、星に還る時を待っていた。
一月程前、私の元に精霊達が言伝てを持ってきた。
相手は里に戻る途中の銀狼からで、身重の奥方を休ませる許しを請うものだった。
左様の事であれば否と言う筈もなく、安心して休めるようにと程近く開けた場所に結界を張って勧めた。
そして然程の時を置かず、奥方が子を産んだ。
難産だったらしいが、森の精霊達がおおいに力添えをしたらしい。
だが奥方の産後の肥立ちが悪く、そのまま養生しながら一月程の時が過ぎた頃だった。
森に清涼な鈴の音が響き意識を向けると、懐かしい魔力が感じられた。
一体何が起きているのかと精霊達に訊くと、竜族の血を目覚めさせた人族と、助けようとした銀狼の子が死にかけていると言う。
そしてその人族が手にするのがあの剣だと言うのだ。
動けぬ私の元へその者達を招くよう精霊達に言付けると、銀狼より転移の魔法を繋ぎたいとの返事があった。再び承諾の意を言付け、転移の魔法が繋がるよう結界の構成を変える。
暫くして銀狼の親子と三人の人族が訪れた。
そのうち人族の一人と子狼が抱えられ、意識も無い様子であった。
残る二人の人族が私を見て暫し気圧されていたが、気を持ち直すと真っ直ぐに助力を請うてきた。
意識の無い者から感じるのは竜族の魔力。しかもこの魔力は私の血脈。幾百年の時を経たというのに、これ程の血を持つ者が現れるとは…。そしてこの者を守る剣…これも星の導きか。
“ふむ。その者より感じるのは確かに同胞の力…奇縁もしくはこれも運命か。……、……、人の子よ、その者達をここへ下ろすがいい。”
魔法を詠い、大樹の根と冬蔦を使った床を作る。この中であれば魔力が溢れたとしても、周囲に影響が出ることも無い。
改めて横たわる者を視る。
ここ最近になって血が少しずつ目覚めていたのだろう。左半身は幾らか変化しているが、残る半身は急激に進んだ変化に耐えきれずに壊れていた。目覚める血の魔力が強すぎ、身体の強化が追い付かないからだ。
ならば変化に耐えるようにしてやれば良い。
再び魔法を詠うと剣が守りを解いた。
横たわる者の口腔に我が身の血の滴を落とすと、ゆっくりと嚥下した。
普通の人族には毒にも等しい竜の血も、血族の者であればその身を強くするだろう。
程無くして、魔力の流れを掌握したのか、その者は自身の身体を守るように自らの魔力で包み込んだ。
“うむ。どうやら上手くいったようだな。”
「ヴェルデは助かったのですか?」
私の言葉に尚も不安そうにする人族の者達。
“暫くの眠りは必要だが、この者の命の危険は無くなった。安心するがいい。”
改めて告げると大きく息を吐いて、心からの安堵を見せた。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




