謝罪(side ジェミオ)
度重なる緊張と驚きがやっと終わったと思った矢先に、さらに大きな衝撃を受ける。
「…まさか…貴方はかつて魔族を滅ぼしたという、竜王なのですか?」
恐る恐るといった様子でアルミーが訊いた。
“復讐の雷竜……、今ではそのように呼ばれているのであったな。”
苦笑するような声音で竜王が答えた。
目の前の竜が、大昔に魔王と魔族を滅ぼしたという伝説の竜王だという。
銀狼に続く竜王=トニトルスとの邂逅。
たった数刻の間に、伝説と言われる者達と立て続けに遭遇し、更には二度も死の淵に立つなど、ヴェルデは本気で星の気に障ることでもしたんじゃないのかと言いたくなった。
「失礼を申し上げますが、伝承では既に星に還られたと伝え聞いておりました。」
“守るべき者を亡くした愚かな嘗ての王は、嘆きと孤独に浸かり、愛する者の眠る星の元へと還る時を待つばかりだ。”
若干言いにくそうに告げたアルミーの言葉に、そう云って瞳を細めた竜王の顔は哀愁に満ちて見えた。
“御方、そして人族の者よ、申し訳ない。”
竜王へ助力を願った後から沈黙していた銀狼が地へと伏せ謝罪を始めた。
「銀狼殿、ここまで俺達を伴ってくれた貴方が何故謝罪を?」
俺は原因に思い至らず理由を訊いた。
“彼の者が斯様な命の危機に瀕したのは我が原因だ。
其方達を計ろうとし、彼の者の血が目覚めかけているのを知りながら、暴走させてしまった。”
「!…それは…」
銀狼の重圧が切っ掛けで、ヴェルデの異変が始まったのは確かな事実だ。
だがその異変により、自身の仔の命まで諦めざるをえない状況に至ったことを思うと、どう答えるべきか判断がつかない。
“貴殿がそこまで責を負うことは無い。むしろ貴殿がそして人族の二人がいたことはこの者にとって幸運であった。”
言葉に迷う俺達に、竜王の念話が届いた。
“我の浅慮が招いた事態を幸運などと…”
許容出来ないとばかりに銀狼が唸る。
“この者がその剣を手にした時より、血の目覚めはそう遠くないうちに訪れた。また剣と逢わずとも、命が危険に晒されたその時に血は目覚めただろう。それ程にこの者に流れる竜の血は濃い。”
「そんな…、では遅かれ早かれヴェルデは死の淵に立つことになったと言うのですか!?」
アルミーがいきりたつように言った。
“そうだ。だが血が目覚めたこの時に銀狼殿とその幼子、そしてジェミオ殿とアルミー殿がいた。だからこそ状況を理解し、命を留め、我が元へと繋がる道が出来た。別の時、別の場所であったなら助かることはなかった筈だ。”
竜王が銀狼だけでなく、俺達をも諭すかのように云い、そして続けた。
“我が娘が人族の王に嫁いでからそれなりの時が過ぎ、人族に於いては幾世代もに渡って薄まった竜の血は、本来ならば目覚めることなど無い。だが先祖返りしたのだろう。この者の血は我が孫か曾孫と呼べるほどに濃い血を宿している。故に見るがいい。”
竜王が顎で指すように示した先で、眠るヴェルデの右耳の下辺りから右腕の肘までに淡い緑色の鱗が生えていた。
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