復讐の雷竜 (side アルミー)
竜が何かの滴を飲ませると、濃密な魔力がヴェルデの体から溢れ出した。再び魔力が暴走するのかと一瞬身構えたが、先程のように苦しむ様子はなく、溢れ出した魔力はふわりとその身を包んで留まった。
“うむ。どうやら上手くいったようだな。”
「ヴェルデは助かったのですか?」
竜の念話が聞こえたが不安が拭えずに訊ねてしまった。
だが竜は不快を表すこともなく、諭すような声音で言葉を返した。
“暫くの眠りは必要だが、この者の命の危険は無くなった。安心するがいい。”
はっきりとそう云われて漸くヴェルデが助かったという事実が沁みてきた。
「…助かった。はぁぁ。」
そう言って大きく息を吐きながら隣にいたジェミオが座り込む。
「良かった…。」
そう呟いた俺も安堵から、強張った体の力が抜け膝をついた。
“この者は貴殿等にとってそれほどまでに大切な存在か?”
半ば放心に近い状態でいた俺達に訊いてきたその念話に、目の前に在る存在を思い出す。
ジェミオが立ち上がり竜へと深く頭を下げ、感謝を告げた。
「ヴェルデを助けていただき感謝します。ヴェルデは俺達にとって同胞であり掛け替えの無い家族、大切な弟分です。」
“弟とは…人族は自身との血の繋がりを重んじるものだと記憶しているが、貴殿等の魔力からして血の繋がりは無い筈だが?。”
ジェミオが言った『弟分』の言葉に何故か竜が関心を抱く。その理由が気になりはしたものの、この時に於いては重要なことではないと、敢えて触れずに感謝を伝えた。
「私達に血の繋がりはありませんが、ヴェルデが幼い頃から生きる術を教え、見守ってきました。隣に立つジェミオも私もヴェルデのことを実の弟のように思っております。この度は義弟を助けていただき、心より感謝致します。」
"そうか…。"
竜はそう云って何かを想うように瞳を閉じた。
続く言葉を待って沈黙していると、名を訊かれた。
“貴殿等の名を訊かせて貰えるか?"
「俺の名はジェミオと言います。」
「私はアルミーと言います。」
“ジェミオ殿、アルミー殿、私こそ貴殿等に礼を言う。我が名はトニトルス。我が血族の者を慈しみ、助けていただき感謝する。”
竜は名を答えた俺達に、おもむろに頭を下げると礼を云い、トニトルスと名乗った。
「…トニトルス…復讐の雷竜…」
俺とジェミオ、どちらともつかない呟きが漏れた。
復讐の雷竜、ウルティオ=トニトルス。
この世で最も知られた竜の名だ。
七百年程前、邪神に憑かれた魔族の王が他の全ての種族を滅ぼそうと侵攻した。
邪神の加護を受けた魔族達により、抵抗した種族の多くの者が命を落とし、滅びの危機に追いやられた。
広がる戦火の中で番である妃と娘を殺された竜の王が怒り、その復讐に荒れ狂う力で魔族の王を、従う魔族達を滅ぼした。
彼の竜の王は戦いの後、その姿を消した。
復讐の果てに多くの種族を、世界を救った竜の王の名が『トニトルス』。
その悲劇と竜災とも竜罰とも言われ恐れられた破壊の力が、数多の種族の間で語り継がれるうちに、いつしか『復讐の雷竜』『ウルティオ=トニトルス』と呼ばれるようになった。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




