竜 (side ジェミオ)
銀狼に伴われて俺とアルミーが転移した先に在ったのは黒い山だった。山から感じる存在感は、今まで感じたことがないほど大きい。
その山に向かって、本来の大きさに戻った銀狼が話し掛けた。
“御方、この神聖な場への立ち入りのお許しをいただき感謝します。”
“…いや、私が動ければ良かったのだがな。貴殿には手間を掛けさせた。”
銀狼の挨拶に返す別の念話が届くと、目の前の山が動き出す。
頭上に影が落ち、視線を上げるとそこには竜の顔があった。
子供の頃から聞かされる昔語り。
語られる中のそのどれもが信じられないような強大な力を持ち、人々の畏怖と恐怖を体現するもの。
その威容を前に、まるで自分が鞭鼠どころか羽虫にでもなったような圧倒的な力の差を理解し、生きるものとしての本能が恐怖を覚え、動くどころか声を発する事すら出来なかった。
“御方よりお招き頂いたのです。手間などと。
何より此度の御助力、心より感謝致します。
叶うならば彼の者達の助命を願い申し上げる。”
そう云って銀狼が礼をとる。その姿に腕に抱える存在を意識し、俺は頭を下げて懇願した。隣に立つアルミーも同様に頭を下げる。
「どうか力をお貸しください。お願いします。」
「私達の弟分達を助けてください。」
“ふむ。その者より感じるのは確かに同胞の力…奇縁もしくはこれも運命か。……、……、人の子よ、その者達をここへ下ろすがいい。”
竜は目を細めて感慨深げに言い、聞き取れない旋律を唱うと、目の前の地面から木の根と蔓が伸びて絡み合い、人一人を寝かせるだけの大きさの籠を作った。
俺は抱えていたたヴェルデをそっと籠に寝かせて、剣をその脇に置く。続いてアルミーが子銀狼をヴェルデに寄り添うように下ろした。
“………、…、………、…、”
先程とは異なる旋律を竜が唱うと、ヴェルデ達を包んでいた光が消える。
そして親指の先程度の深紅の雫がヴェルデの口許に現れると、薄く開いた口腔へと消えた。
ヴェルデの喉がこくりと動き、雫を嚥下する。数拍置いてヴェルデの体から魔力であろう淡い光がが溢れ出しその身を包んだ。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




