鈴の音
ジェミオは時の迫るヴェルデを抱え、死の淵にもかかわらず共に在る事を望んだ子銀狼を前に、漆黒の鞘を持つ剣を掴み叫んだ。
「くそっ!! どうにかならないのか!? ヴェルデは夢見の言葉に死を覚悟しながらも、生きるために必死だったんだぞ!! 子銀狼だって心中するために産まれた訳じゃないだろう!! 死を乗り越えるためにこの剣を手に入れたんじゃなかったのか!!」
叫ぶジェミオと同様に本意無い面持ちでアルミーも溢す。
「俺に崩壊を癒やせるだけの魔法が使えたなら…」
仲間であり家族のような大切な弟分を死なせたくない。
そして弟分と命を共にする事を望んだ子銀狼を助けたい。
そんな二人の想いに応えるかのように、漆黒の鞘に納まった剣より“リィィン”と高く澄んだ、鈴の音が響く。
魔力を纏ったその音は大きくはないのに、まるで森を慈しむかのように緩やかに広大なガルブの森全体へと拡がっていく。
それと共にさらさらと柔らかな風が吹き抜けて、森に拡がった強大な魔力と混じり合い、中和するように大地へと馴染ませていった。
「何が起こった? この音は一体……」
“これは大いなる御方の想いの残滓か?”
空を見上げ戸惑い、訝しむジェミオと銀狼へアルミーが呼び掛ける。
「ヴェルデ達が!!」
ジェミオが視線を落とすと、抱えていたヴェルデと子銀狼が淡い輝きに包まれていた。
同時に崩壊による衝撃で暴れていた体が静かになっている事に気付き、もしや力尽きたのではと胸に耳を当てる。
その耳に聞こえた微かな、だが確かに刻まれている鼓動にほっと息を吐いた。
「一体何が起きたんだ?」
ジェミオがアルミーへ訊く。
「俺にも解らないが、さっきの音が響き始めた後、ヴェルデ達の体を剣の魔力が包んだんだ。そのおかげなのか、ヴェルデの体の崩壊が止まったようだ。」
アルミーも困惑しながら、起きた現象を見たままに伝えた。
“むっ…”
銀狼が何事か考えるように中空を見上げた。
“……、……、…その様に。 人族の魔法士よ、この状態はそう長くは持たぬ一時的なものだ。そのまま癒しを続けよ。”
銀狼は中空の何者かへ応じる言葉を返すと、アルミーへ治癒を続けるように云う。
「治癒を続けろとは、何か手立てが?」
“かの御方がこちらに気付かれた。御助力を頂けるとの御言葉を精霊が届けてきた。であれば恐らくは…”
銀狼の声音に滲む期待の色に、事態が動いたことを確信したジェミオが語気を強めて言った。
「っ! 頼むアルミー! 持たせてくれ!!」
「解ってる! 必ず繋ぐ!」
魔力回復薬を呷ったアルミーが応え、途切れた魔法を今一度発動させた。
一時的にとはいえ肉体の崩壊が止まっているおかげで、先程まで気休めにしかならなかった『治癒』の本来の効果が、傷付いた体を少しずつ癒してゆく。
崩壊が再び始まれば、また癒しの効果は間に合わなくなる。アルミーは逸る気持ちを押さえながら魔法の制御を続けた。
“!! 其方ら、今から御方の居られる場所へ跳ぶ。心せよ。”
中空を見上げ再びの知らせを待っていた銀狼がそう言うと、先程よりも丁寧に転移の能力を編み始める。
その間にジェミオはヴェルデと剣を、アルミーは子銀狼を抱き上げた。
“では行くぞ。”
慎重に行使された転移は、その場に居た者達を救いの望みを繋ぐ存在の元へと運んだ。
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