魔力
「先程の話しの続きを伺っても?」
アルミーが改めて銀狼に訊ねる。
"森に広がる魔力が我のものか? 今後もこの森で暮らすのか? であったな。"
銀狼の確認にアルミーとジェミオが頷く。
そこへ俺は言葉を挟んだ。
「森に広がる魔力は違う。この銀狼の魔力とは別のものだ。」
"ほう。"
「ヴェルデ、どう言うことだ?」
俺の言葉に銀狼は感心した声を漏らし、ジェミオが聞き返す。
俺は先程から感じている事を説明する。
「さっき、この銀狼が魔力を放出していた時、森に広がった魔力は何の反応も示さなかった。恐らく森に広がっている魔力の持ち主は、ここに居る銀狼よりもさらに力のある存在だ。」
「…確かに、ヴェルデの言う通りだ。同じ魔力であれば周囲の魔力が集束するなり、拡散するなり反応があるはず。別の魔力であることは間違いない。」
アルミーが俺の話しを肯定し、ジェミオが表情を曇らせる。
「だが、銀狼殿以上の存在となると…それは……。」
「ヴェルデ、間違いないのか? 今朝の話しではそこまで詳しく判らなかったはずだ。」
ジェミオの言葉に伏せられた存在の意味を理解したアルミーが確認してくる。
「さっきこの銀狼の魔力に充てられてから、魔力の色が認識できるようになったというか感覚が鋭敏になってる。それに森の魔力が知っているものに近い感じがしてるんだ。それで…。」
そこまで言って言葉を濁す。
森の深部であろうこの場所で、その存在の名を言っても良いものか。
言葉に、音にすることで、周囲で息を潜める魔獣達を刺激するのではないか不安に思う。
"そこまで知覚出来るようになったか。構わぬ、この場には話しが漏れぬよう、先程より我が結界を構えておる。其方らがためらう御名は、周囲に影響を及ぼすことは無い。"
躊躇う俺達に銀狼は口に出しても大丈夫だと言ってくれた。
それを聞いて、俺は自身の剣を掲げる。
「この剣の魔力に限りなく近い、竜の魔力を森全体に感じる。」
そうして俺は漆黒の鞘から剣を抜いた。
抜いた剣から森に漂う魔力と同じように強く、それでいて暖かな魔力が感じられる。
"おぉ…"
現れた白銀の刃に銀狼が感嘆の声を上げる。
ジェミオとアルミーも昨夜の探索時に僅かに抜いただけで、こうして間近で見せたことがなかったからか剣から目が離せなくなっていた。
"彼の者よ、大いなる御方の力を宿すその剣は如何にして手にした。"
「夢見の助言に従い、求めて示されたのがこの剣だった。」
俺を見極めようとするかのような銀狼の眼差しを、真っ直ぐに見つめ返し答えた。
"奇しくも結ばれた縁よな。これも大いなる御方の想い故か…"
銀狼はそう言って誰かを尊び敬うように瞳を閉じた。
その姿に何故か郷愁の想いが湧いてくる。
言葉にし難い寂しさのような感情に揺れる俺に、子銀狼が体を擦り寄せた。
「ありがとうな。」
俺は剣を鞘に納めると、子銀狼をそっと撫でた。
子銀狼はもっと撫でろと言うようにぐりぐりと頭を擦り付ける。
「昨日、抜いた時に感じられなかったのが嘘のような存在感だな。」
「あれが竜の魔力の波動…」
ジェミオが眩しいものを見たかのように瞳を細めて言うと、アルミーもそっと息を吐きながら先程触れた魔力の感触を思い出す。
「先程からの銀狼殿の言葉といい、ヴェルデの感じた魔力。では本当にこの森に竜がいらっしゃるのか。」
"左様。かの御方は森の深き場所にて静かに休んでおられる。"
諦観したようなジェミオの言葉を銀狼が肯定した。
「我々に森の状態をどうこうするのは不可能と言うことか…」
アルミーも手の打ちようが無いと項垂れる。
どうすることも出来ないのか?
相手が銀狼や竜だから?
俺達はこれから起きることを黙って受け入れるしかないのか?
大切な人たちが傷つき、命を落とすことになっても?
嫌だ。
大切な人を失うのは。
俺が俺の大切なものを諦めるなんて。
それだけは絶対に、嫌だ!!
俺の中の感情が諦めることを否定して荒れ狂う。血液が沸騰するように速く強く鼓動が響きだし、頭を体をがんがんと殴り付ける。
魔力がぞわりと動きだし、体という器から溢れ出す。
"む、いかん!!"
銀狼が俺の異変に声を上げる。
ジェミオとアルミーもはっとして俺を見た。
「ぅぁあ"あ"あ"あ"あ"っっ」
全身ががバラバラになるような激しい痛みに襲われた俺は、自身を抱き締めるように倒れ込んだ。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




