side 銀狼2
この者達の目的は何なのか。
その眼差しに欲の濁りも、力への傲りも見て取れず、一の子との様子を見てもなんら危害を加えようとする輩には見えぬ。
しかし、今我が居るはかの御方が造りし結界の中。
一の子は請われた内容にどうしたら良いものか戸惑い、首を傾げていた。
実際、結界の中へはかの御方か我と番の許し無くば入れぬ場所。
例え我が子であっても出ることは出来ても、入ることは叶わぬ場所なのだ。
それを理解している一の子は、どうすべきか考えている様子だ。
その間、人族の者達は言葉が通じていないのかと、改めて我等の元への案内を請うてみるが、一の子の反応は芳しくないもので、こちらもまた困惑した様子を見せていた。
「なあ、俺達、お前の父さんと母さんに会いたいんだ。頼めるか?」
始めに話し掛けた人族の者が、一の子に我と番に会いたい、会わせて欲しいと言葉を変えて請うと、それならばと我に「来て欲しい」と呼び掛けてきた。
どれ、彼の者達がどれ程の者か直に確かめてくれよう。
我は本来の大きさのまま人族の者達の背後へと転移し、その者達へと魔力を放つ。
すると三人のうち二人は辛うじて耐えて見せたが、一人の者は崩れ落ちた。
我の魔力に耐えきれず、息もままならぬ様子だが意識だけは繋いでおり、このままであれば事切れるであろう様子に、一の子が怒りの声をあげながら我に駆け寄ってきた。
この者こそが命を助けた者だと。この者を害するならば、我であっても許さぬと。そう怒りと共に風の魔法をぶつけてきたのだ。
彼の者を守ろうと、その身の魔力にて風を呼び、つたないながらも魔法として放って見せた。
我は一の子の成長に驚き、喜んだ。
我は放つ魔力を抑えると、彼の者達を見下ろす。息も絶え絶えだった彼の者は、どうにか呼吸を整えていた。
一の子はその傍らで「大丈夫か」と聞こえぬ声を掛け続けている。
人族の者達の呼吸が落ち着いたのを見計らって『念話』で声を掛けた。
“いや、すまん。我が子の安全を図るつもりだったが、人族の身には過剰だったな。”
突然届いた声に、彼の者が驚き背後を振り返る。そして我を見上げ、溢した言葉に虚を突かれた。
「うわ、でかい。…え、銀狼?…子銀狼の親父さん?」
我は彼の者の今しがた息も絶え絶えであったにも拘らず、何事も無かったかの様な反応が愉快に思えた。
“ワッハッハッ、何を言うかと思えば。怯えて命乞いをするでも無く、一言目が「でかい」か。なかなかに肝の据わった人族よ。其方の言う通り我がその子の父親だ。昨日その子を蜘蛛より助けたのは其方だな。感謝する。”
そう礼を述べ、彼の者に頭を下げて笑って見せた。
「いや、助けたのは偶然で…えと…初めまして、……でいいのか?」
彼の者は我が頭を下げたのに恐縮したのか、少々しどろもどろといった様子でつたない挨拶をしてきた。
そして不安げに残りの人族の者達を見たが、残った者は我の威容に飲まれて言葉を無くしておった。
だが、彼の者が改めて二人に声を掛けると、その者等は彼の者が我に気安い様子を咎め始めた。
「…お前、動じないにも程があるだろう?」
「こんな状況で普通に会話が出来るってどうなんだ?」
しかし、我の言葉に返事を返すは当然の事と彼の者は二人に応じた。
「どうって、吃驚したとはいえ、自分の発言に対して言葉を返されたら普通応じるだろう!?」
「いや、お前の吃驚って相手の大きさに対してだけだよな?」
「ほんの少し前に死にそうになってたことや、銀狼との邂逅に、此処へ突然現れたことや、どうやって言葉を伝えてるかとか、他にも驚いたり疑問に思うことがあるだろう?」
「なのにお前ときたら、大きさに驚いた後は銀狼の素性を訊ねるわ、普通に挨拶するしで、もう何て言ったらいいか…」
その後、彼の者が未熟であることを叱咤し、指導することまで始めた。
“フッ、ハハハハ。本当に物怖じしない者達だ。我を前にしてそのような遣り取りが出来るとは。人族にもこのような者達がおったか。”
我がそう言うと、この者達の中で一番の強者であろう人族の者が姿勢と口調を改め頭を下げた。
「銀狼殿を前に失礼した。申し訳ない。俺はジェミオと言う。」
「同じく失礼ました。私はアルミーと言います。」
「俺はヴェルデ、です。失礼しました。」
一人が頭を下げると、残りの者も彼の者も続けて頭を下げてきた。
我を前にして怯えるでも無く、取り繕うこともせず、未熟なものを教え導き、未熟なものは実直に言葉を交わす。
そして魔獣に対しても礼節をもって相対する。
なかなかに見所のある者達よ。
このような者達であるならば、話しぐらいは聞いてやっても良いだろう。
“ふむ。魔獣である我に名を名乗り、頭を下げるか。礼儀を知る者よ。其方らは我に会いたいと子に望み、この子が呼んだ故、我はこの場に現れた。其方らは何故我との相対を望んだ?”
そう彼の者達へ問うてやった。。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




