side 銀狼1
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連なる山脈に沿い、深い森を進む。
我は銀狼と呼ばれる一族に生まれ、成獣となり番を探す旅に出て、幸いにも素晴らしき番を得ることが出来た。
だが、その番の体調が思わしくない。
我が番を連れて一族の里へ戻る旅の最中、番の腹に子がいることがわかったが、まだ生まれるまでは日があり、里であれば外敵の心配も無く子を産めるだろうとそのまま旅を続けてきた。
里のある北の山へ続く、最後で最大の森に辿り着いたところで、精霊達からかの御方が森の聖域に居られると聞き、であれば聖域近くにて休ませていただけぬかと精霊に言付けを頼んだ。
かの御方からは許しを頂くどころか、聖域のすぐ側に結界を施した空間まで造っていただいてしまったが、番の事を考えお心に甘えることにした。
漸く我が番を休ませてやれると安堵したところで、かの御方の魔力に充てられてしまったか、番が産気付いてしまった。
精霊たちの助力も得て、なんとか無事に三つの子が生まれたが、旅の疲れもあったのか、番の体力が思った以上に削られてしまったのは不測の事であった。
今の番の状態では、子を守るどころか、自身の身を守ることすら危ういであろう様子に、かの御方はこの森で暫く休んで行くことを薦めてくださった。
幸いにもこの森は広大で深い。
獲物となるものも多く、番を休ませ、子を育てるには幸いの場所だ。
幾何か近いところに人族の里があるらしいが、森深く踏み入る事は殆ど無く、良い住み分けが成されていると精霊達も請け合ってくれた。
そうして森で過ごし始めて子が狩りに興味を持ち始めた頃、やんちゃな一の子が結界の外へ出てしまった。
本来ならば意識して魔力を通し抜けなければ出ることが叶わぬ筈の結界を、あろうことか転移の能力を目覚めさせ、好奇心のままに転移してしまった。
転移は我が持つ能力で、銀狼の中でも稀な能力であるのだが、一の子はその能力を継いでいたらしい。
始めて使った転移であればそう遠くまでは行かぬものなのだが、一の子はどうやら少々規格外だったらしく、近くにその魔力が感じられ無かった。
精霊達にも助力を仰ぎ探したところ、人族の里に近い森の浅いところで一の子の魔力を感じられなくなったと聞いた。
まだ狩りをしたこともない幼子だ、他の魔物に襲われたか、あるいは人族の者の手に掛かったか…。
生けるものが狩られるのはこの世に生きるもの全ての運命とは言え、我が子を守れぬこの身が矮小に思えてならなかった。
◇ ◇ ◇
ところが、その日の日暮れ頃、一の子が我を呼ぶ声が聞こえてきた。
実際に音として響いたわけではない、魔力の波動。
我ら銀狼は他の魔獣の様に声を音として話すことは無い。
我らの声は精霊の力を呼び荒ぶらせる。
故に大規模な魔法を行使する場合を除いて、全ての意志疎通は『念話』と呼ばれる魔力を介したもので行われるのだ。
届いた魔力を頼りに、慌て一の子の元へ跳躍すると、何事もなかったかの様に佇む我が子が居た。
取り敢えず番の元へ一の子を連れて戻り、精霊達に補足してもらいながら、揚々話しを聞いたところ、蜘蛛に餌として囚われていたところを、人族の者に助けられたと言うことだった。
一の子は助けたその人族の者が大層気に入ったらしく、すぐにその者の元へ行こうとして、我や番に止められ、転移で転移するにもその者の魔力が感じとれず、憤懣やる方無いといった様子で落ち着き無く過ごしていた。
がその翌日の日が高く上った頃、彼の者の魔力を感じたと、再び転移で跳躍してしまった。
我は直ぐに後を追わず、一の子の魔力を辿って様子を伺う事にした。
一の子の転移した先には三人の人族が居り、一の子の魔力に気付き大慌てをしておった。
もし我が子を手に掛けようとするのであれば、只では済まさぬと思い構えておれば、人族のうちの一人の者が我が子に話し掛け始めた。
「昨日、俺達が会ったのはお前か?」
人族には我等の『念話』を使わねば言葉が聞こえておらぬのだが、それを理解しておらず、一の子が「そうだ。」と大喜びで答えていた。
だが人族の者は一の子の様子で理解したらしく、他の人族の者にどうするかを訪ねていた。
人族の者達は一の子に向き直ると、徐に我と番の元へ案内を請い出した。
お付き合いいただき、ありがとうございました。




