探索
「ヴェルデが正気に戻ったところで、昨夜の報告と今後についての話をしようか。」
さっきまでの雰囲気を一転、さばさばとした様子でアルミーが言う。
いや正気に戻ったって、酷くないか?
まあ、さっきまでの醜態を蒸し返したくないから口にはしないけどな…って、うん、取り敢えず忘れよう。
さっさと気持ちを切り替えないと。
ここはガルブの森で、夢見はともかく、予想外はいつ起きてもおかしくないんだ。
精神安定を図る俺を横目にアルミーが話し始めた。
「二人が寝た後、一刻程して北側の少し奥で森狼の群れらしき魔力を感じたが、こちらへ近づいてくるようなことはなかったな。それ以外は幾つかの小さな魔力や気配があったがどれも殆ど移動していなかった。普通なら宵鳶や藪鼠が活動してるものだけど、それも無かったな。」
「交代してからも同じような感じだったな。これはやっぱり銀狼がいるからか?」
アルミーの報告にその後の様子を補足したジェミオが思案する。
「可能性は高いだろうが、そうだとしても活動が無さすぎると思うんだが。」
「魔物達の活動を抑制してるのは、森の魔力だと思う。」
銀狼の関与を肯定しつつも、森の様子に疑問を感じているアルミーの言葉に、俺がある程度の確信を持って答える。
「森の魔力? どう言うことだ?」
「森全体の魔力が通常よりも濃いんだ。昨日、ギルド長に話した時は確信が無かったけど、森の中で一晩過ごして確信できた。」
「それは森の魔力が変質しているってことか?」
俺の言葉に、ジェミオが確認を取る。
「いや、森そのものの魔力はそのままで、別の濃い魔力が混ざって漂ってる。水にインクを垂らして軽くかき混ぜたような感じって言ったら解りやすいかな? 若干の濃い薄いはあっても全体に広がってる感じ。」
そう説明すると、二人が成る程と言った表情になった。
「それで、その濃い魔力が魔物達の活動を抑制してるって言うのはどういう状態なんだ?」
アルミーが続きを促す。
「混ざった魔力が濃すぎてっていうか…格上の種の波長みたいなものがあって、弱い魔物ほど生存本能を刺激されて息を潜めてるような状態になってるんだと思う。」
「自分より強い魔力に萎縮してるってことか。」
「ヴェルデの話のとおりなら、その濃い魔力の持ち主が何なのかが解れば、今後の手だてが打てるってことか。」
二人は俺の話に頷いてそう言った。
森の状況の推測が立ったところで、この後の行動予定の話になる。
「濃い魔力つまりは強い魔力の持ち主を探すって事は、現状からいって銀狼だよな?」
「しかたない、一番可能性が高い銀狼を探しながら、中域かその先まで入ってみるか。」
「魔力の持ち主が見つかっても、見つからなくても夜にはここへ戻るようにしよう。」
あっという間に行動目標が決まった。
まあ、状況的にそれ以外の対象に心当たりはないからな。
「それならとっとと此処を片付けて動くとするか。」
ジェミオの言葉に俺達は動き出した。
◇ ◇ ◇
夜営場所に馬を置いたまま、町の方角へ徒歩で四半刻程を戻った俺達は、森の中域へ向かって進んだ。
少し戻ったのは、昨日子銀狼に会ったことを考慮してだ。
助けた子銀狼が親を呼ばずにそのままでいるとは考えづらく、また親と合流したとして、いつまでも森の外縁に居続けるとは考えにくかった。
なので、中間とまではいかないが少し町寄りの場所から奥に向かうことにした。
森に入ってから一刻ほど、俺やジェミオの感覚にも、アルミーの『探索』の魔法でも、魔物の気配は捉えているが戦闘は一度も起きていなかった。
「これは不味いかも知れん。」
ジェミオがポツリと溢した。
「まだ中域にも入って無いとは言え、一度も襲われないなんてあり得ないな。」
アルミーが頷きつつ答える。
俺も二人に同感だ。
一昨日の森であればまだ小物の動きもあって、生き物の活動の気配が感じられたが、今は森全体が息を潜めてしまっている。
原因が無くなったとしても、無くならなかったとしても反動が怖い。
下手をすると抑圧された魔物達の大暴走が起きるかもしれない。
出来るだけ早く原因を突き止めて、原因を取り除くことが出来るのかどうかを確認しないと。
銀狼が原因だとして、一時的に森に立ち寄ったのと、森に住み着いたのとでは状況が大きく変わる。
一時的な滞在であれば、銀狼と大暴走の危険も限定的なものになる。だが、森に住み着いてしまったのなら危険は永続的なものになり、今後の対応も継続的もしくは根本から見直す必要が出てくるかもしれないからだ。
伝え聞く銀狼は知性ある魔獣だと言われている。
昨日のような状況ならともかく、遭遇していきなり襲われることはないだろう…無いと思いたい。
ところで銀狼に立ち退きを要求することは出来るんだろうか…?
お付き合いいただき、ありがとうございました。




