side ホリー
私は成人してギルドで働くようになってからも、孤児院で寝起きをしてる。
本当は孤児院を出て、ヴェルやフィオみたいにどこか部屋を借りるつもりだったんだけど、二人に大反対されたうえに、司祭様からも女性が一人で暮らすのは危険だし、お金を貯めてからでも遅くないと諭されたので、そのまま生活をしてる。
今日のギルドの仕事は三の鐘からだから、それまでは司祭様の仕事を手伝ったり、洗濯や、夕食の仕込みを手伝ったりして過ごしていた。
もう暫くすると三の鐘が鳴る頃、ギルドに行くため門を出たところで、野菜の入った籠を抱えたリコルに会った。
「ホリー姉ちゃん、今から仕事?」
「そう言うリコルは司祭様に習いに来たんでしょ?」
「そうだよ。この野菜、父ちゃんと露天のおばちゃんから。残り物だけどって。」
「いつもありがとう。リコルのお父さんにもそう伝えてね。」
「わかった。姉ちゃん仕事頑張れよ!」
「ええ。リコルもね。」
そう言葉を交わした後、別れて二つ目の角を曲がろうとした時、私を呼び止める声が聞こえた。
「……って。待って。姉ちゃん待ってよ!」
必死な声に、何が起きたのかと思って足を止めた私のところへ、リコルが走ってきた。
「待ってよホリー姉ちゃん。ミニスとミオスが大変なんだ!!」
「大変って、何があったの!?」
「さっき中で野菜を渡してたら、チビ達が急に騒ぎだして、見に行ったらミニスとミオスが顔を真っ青にして倒れてて、俺もチビ達もどうしたら言いかわかんなくて。」
「リコル、とりあえず一緒に戻ろうっ。」
リコルの話しに、一刻も早く戻った方がいいと感じた私はリコルの手を取って来た道を駆け戻った。
◇ ◇ ◇
孤児院に戻ると、入って直ぐの部屋で子供達が集まっていた。大きい子は不安げにしながらも、泣きじゃくる小さな子達を宥めている。
「みんな、ミニスとミオスは?」
出きるだけ落ち着いた声音で話しかけると、子供達が駆け寄ってくる。
「っっ…せっ…司祭様が、ふっ…二人とも奥の部屋へ連れてった。」
年長者のミェッタが泣きそうになるのを堪えて教えてくれた。
急いで奥の部屋へ行くと、二人をベッドに寝かせた司祭様が厳しい表情をして様子を見ていた。
側へ寄り二人を見ると、意識が無く、顔は青白く、手を取ると吃驚するほど熱かった。
「司祭様、二人は一体どうしたんですか?」
訊くと司祭様が答えてくれた。
「駆けつけたときに聞いたが、どうやら町の裏側に生えていた嘘吐胡桃を食べたらしい。」
嘘吐胡桃!? あれを食べてしまったのなら、早く毒を中和しないと二人が死んでしまう。
「そんなっ。それじゃあ早くしないと! 私、ギルドまで行ってきます!!」
「待って、俺が行く!」
部屋を飛び出そうとした私にリコルが言った。
「リコル、付いて来てたの!? それにあなたが行くって「ギルドには俺が行ってくる。俺の方が足早いし。ちゃんと伝えてくるから、ホリー姉ちゃんはチビ達に付いててやれよ。」
リコルはそう言うと、私が驚いている間に駆け出して行った。
◇ ◇ ◇
リコルがギルドから預かってきた伝言に、一瞬目の前が真っ暗になった。
ギルドにも、それどころか町中探しても、誠実胡桃が無かったって……このままじゃ二人は…。
言葉を無くしている私に、リコルが腕を掴んで言った。
「ホリー姉ちゃん、最後まで聞けよ! フィオ兄ちゃんが、ヴェルデ兄ちゃんと取りに行ってくるって!」
「……フィオとヴェルが?」
「そうだよ! だから二人は絶対助かるって!!」
リコルはフィオとヴェルが二人を助けることを信じている。
それを見て私もやっと落ち着きを取り戻す。
リコルの言う通り、あの二人ならきっとミニスとミオスを助けてくれる。
二人なら大丈夫。
私は私に出来ることをしよう。
お付き合いいただき、ありがとうございました。